改善事例

2021.06.21

覆面調査ルポ 何となく印象が良くないスタッフへの注意の仕方

Case31 冷たい態度が目立つ10年目の受付職員

 今回は、内科クリニックの事例を紹介します。院長が地域の会合に出席した際に、患者から「受付にいる女性の対応が冷たい」「挨拶をしないことがある」などの苦情を受けたため、覆面調査によって実態を知りたいとの依頼を受けました。

 この受付職員A子は、入職して10年とベテランの域に差し掛かっているとのこと。最近は動作や言葉遣いがやや雑で、ダラダラとした立ち居振る舞いをしている姿を、院長もたまに目撃するようです。気にはなっているものの、実際に受付でずっとそうした態度なのかどうかは分からず、「注意がつい先延ばしになっていた」と院長は話していました。


受付を待つ患者にしばらく気付かず
 
 早速、覆面調査員B子が調査に向かいました。クリニックは古い町並みが広がる細い道に囲まれた住宅地にありましたが、駐車場は広く、通いやすいと感じました。外観は経年劣化を感じましたが、院内は白い壁に木の床とドアが映え、オレンジのソファがとても明るく、きれいでした。

 調査員B子が院内に入ると、受付にはA子を含め2人いましたが、どちらからも挨拶はありませんでした。B子は、初診の受付をしてもらおうと受付カウンターの前に立っていたのですが、A子は電話中で、もう1人は下を見て何らかの作業をしていたので、なかなか気付いてもらえないまま待たされました。A子が電話を終え、こちらに気付いてからも、調査員B子の側から「初診なのですが……」と口を開いたのを受けてから対応を始め、その際も挨拶はありませんでした。

 最初のやり取りではA子に笑顔はありませんでした。美しい顔立ちでしたので、笑顔がないと冷たい印象を与えてしまう可能性があります。何度かコミュニケーションを取っているうちに柔らかな表情も見せてくれたので、最初からにこやかな対応をするとよいと感じました。またA子は名札の上にカーディガンがかかって名前が見えなくなっていました。他のスタッフは名札が見えるようにカーディガンを着用していたので、統一されるとよいと思いました。

 A子の言葉遣いに関しては、「こんにちは」と別の患者から声を掛けられた際に、「はい、こんにちは」と「はい」が付いているのが気になりました。他にも、患者に話し掛けられたとき、「あ、はい」と「あ」が付いていました。これだと少々、上から物を言っているような印象を受けてしまいます。また訪問前に電話でアクセスなどの確認をしたところ、内容的にはきちんと答えてくれたのですが、「うん」や「あー」というふさわしくない言葉遣いがあったり、早口で聞き取りにくい部分もありました。

 受付の後ろに仕切り用のカーテンがあり、受付職員はそれを開け閉めして出入りしていましたが、そのカーテンの開閉が乱暴でした。もう少し、ゆっくり静かに開閉すると、患者も安心して待合で過ごすことができます。待合のエアコンが効き過ぎて寒かったので、受付で「ブランケットを貸してほしい」と伝えたところ、A子はすぐにブランケットを取りに行き、もう1人はすぐにエアコンの温度を調整した上で、風が直接当たらない席を案内してくれました。これについては、親切な対応だと感じました。


明らかな落ち度はなくても冷たい印象
 
 覆面調査の結果(図1)からは、A子をはじめとした受付職員の対応はそれほどひどいわけではないものの、細かなところで気遣いや配慮が足りず、印象面で損をしているように感じます。

 フィードバックを受けた院長も、「確かに、うちの職員たちがそんなにひどいという印象は持っていない。かといって、親切で明るい対応ができているとも感じない。こういう場合、どのように注意すべきなのでしょう」と悩んでしまいました。

 
今回の診療所のスコア


100点中46点でした。


 このように、職員の接遇が明らかに悪いわけではないものの、決して良くはない場合、どのように改善を促せばよいか、迷う方も多いでしょう。明らかに不適切な対応であれば注意もしやすいですが、接遇に関しては本人の価値観や受け止め方に左右される部分も多く、態度を改めるように伝えるのが難しいのが現状です。

 そこでぜひ、知っていただきたいテクニックが、「アサーティブコミュニケーション」です。アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重した上で、誠実に、率直に、対等に、自分の要望や意見を相手に伝えるコミュニケーションの方法です。

 人は自分の意見を誰かに伝えたいと思った場合、以下の3つの表現のうちのどれかを選択しています。
 
(1)攻撃的な自己表現(アグレッシブ)
(2)非主張的な自己表現(ノン・アサーティブ)
(3)アサーティブな自己表現(アサーション)
 
(1)の方法で今回のA子に改善を促すとすると、例えば「挨拶をしないのは駄目だ。挨拶さえもできないとは、礼儀知らずにもほどがある」という相手を攻撃するような言い方になります。攻撃されてうれしい相手はいませんので、こうした伝え方をすると、人間関係が崩れてしまうことがあります。
 
(2)は、注意することで感情的に反抗されたり、退職されてしまうリスクを恐れた院長が、自分の考えや気持ちを曖昧に表現しながらA子に改善を促す状況が当てはまります。それだと、A子から嫌われることはなくても、院長の気持ちはまず伝わらず、結果的に放っておくことになります。院長は釈然としない気持ちのまま過ごし、今回の覆面調査で問題視されたことについて何も解決しないので、患者からの苦情もなくならないでしょう。
 
(3)の方法では、相手も尊重した上で改善点をきちんと院長が自己表現することで、院長と職員という関係性を壊すことなく、接遇の問題を解決に導くことが可能です。
 
 アサーティブに伝えるためのコツは、自身と相手の状況を整理することです。「事実」「感情」「要求」の3つに分けた上で、自分の気持ち、相手の気持ちを考えながら文字にしてみましょう。例えば、今回の院長とA子の状況は以下のようになります。
 
アサーティブコミュニケーションを行うための状況整理
 
【事実】
自分
:受付(A子)に関する患者からの苦情をよく聞く。動作や言葉遣いが雑で、ダラダラとした感じの立ち居振る舞いをしているのが気になっている。
相手:患者からの苦情があることを知らない。事務手続きがこなせているので、動作や言葉遣い、態度に対する問題意識はない。
 
【感情】
自分
:できれば自分が注意したくない。見守ってはいるが、悶々とした気持ちもある。
相手:受付業務歴も長く、自信を持っている。院長(上司)にいろいろと言われるのは、うっとうしい。
 
【要求】
自分
:患者に対して、礼儀正しく丁寧な動作で行動してほしい。挨拶をきちんとしてほしい。
相手:受付業務自体はきちんとやっているので、文句を言われたくない。
 
 このように整理すると、相手の感情や要求を尊重した上で、うまく伝えることができるようになるものです。今回の場合の伝え方の例としては、
 
(1)相手への日々の業務への感謝とねぎらいの気持ちを伝える
「○○(A子)さん、いつも受付業務、ミスなくしっかりがんばってくれてありがとうございます。とても助かっています」
 
(2)事実を伝える
「実は先日、地域の懇親会でお会いした患者さんが、○○さんの対応が冷たいっておっしゃっていました。挨拶もしてくれないし、いつも怖い顔をしているというのです」
 
(3)相手の感情を代弁する
「○○さんは、受付をお願いして10年になるプロフェッショナルですから、私がこのようなことを伝えるのは、正直、気に障るのではないかと思っています」
 
(4)要求は冷静に簡潔に短時間で伝える
「当院は患者に笑顔で優しく接することにより、地域一番の医療を提供することを大切にしています。ですから、患者さんには笑顔で応対するようにしてください。挨拶は第一印象を決める上でも大切なので、必ずするようにしてほしいと思います」
 
(5)信頼と期待を込めて伝える
「あなたのおかげで、受付はいつもスムーズに仕事が進んでいて、とても助かっています。患者応対についても、意識すればすぐにできる方だと思いますので、よろしくお願いします」
 
 このように、院長が相手に配慮しながらも言いたいことをきちんと伝えたところ、A子は「全然気付かず、すみません」と答え、反省の色を見せました。その後は、随分と改善され、苦情はパタッとなくなったそうです。明らかな非がなくても、何となく態度が良くない職員に注意するのは難しいものですが、アサーティブコミュニケーションによって課題をきちんと伝えれば解決につながります。ぜひ試してみてください。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐頭ごなしに叱っていませんか
☐波風を立てないように、自分の意見を押し殺していませんか
☐叱るときは、相手の感情・要求を尊重した上で伝えるようにしていますか
 
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