2025.05.21
気まずい雰囲気の原因は…「前置き言葉」が皆無の職員
Case66 「スタッフが冷たい」と苦情があった整形外科クリニック
今回は、都市部にある整形外科クリニックのケースです。
このクリニックでは理学療法士への苦情が多く寄せられているようです。院長から見ると、それぞれのスタッフは少々控えめな印象ではあるものの、真面目にやっており、それほど課題は感じていません。そのため何が問題なのか、どうすれば苦情を減らすことができて、患者満足度を上げることができるのか、客観的に考えたいという目的で調査することになりました。
受け手が「迷惑そうに思われている?」と不安になる対応
早速、覆面調査員A子が調査に向かいました。この整形外科クリニックはビルの中にあるものの、2フロアを使用しており、広々とした印象でした。エレベーターを降りてすぐに自動ドアがあり、そこから入ると受付の方が「こんにちは」と声を掛けてくれましたが、少し声が小さかったので、患者に届きにくいように思いました。
A子が受付で「初診なんですけど」と聞くと「は?」と言われました。ビニールカーテンがあったので聞こえにくかったのかもしれませんが、「は?」とか「え?」ではなく、「申し訳ございませんが、もう一度お願いできますでしょうか?」と丁寧に聞き返した方がよいと感じました。
待合室のソファに座っていると、予約をしていない患者が来院しました。すると受付スタッフが、「当院は予約制です。もう今日は予約を取れませんが」と、少し迷惑そうに声を掛けました。患者が「今日は無理ってことですか?」と聞くと、「お待ちいただく時間が2時間以上になるかもしれませんけど、待ちますか?」と返答しました。結局、その患者は待つことにしていましたが、首をひねりながら少し不満そうにしていました。
A子の診察が終わり、リハビリテーションを受けることになると、「リハビリを受ける際の注意事項」というカードを渡され、読みながら待つように指示されました。カードを読みながら待っていると、担当と思われる理学療法士の男性に名前を呼ばれ、ベッドに案内されました。
その理学療法士は、最近の若い男性に流行している前髪が重く長めのヘアスタイルだったので、表情が読み取りにくい状態でした。挨拶はなく、唐突に「お名前、お願いします」と言われたので、「○○です」と答えると、特に返事もなく矢継ぎ早に「いつからですか?」「どこが痛いですか?」とまるで尋問のように聞かれて、A子はやや不快に思いました。
注意事項のカードの内容について、少し分からないことがあり、何回か確認すると、だんだん表情が険しくなり「さっきも言ったのですが」「分かりましたか?」と言われ、まるで「面倒な患者」であるかのような対応をされました。「そんなに迷惑そうに対応しなくてもよいのに」とA子は感じ、その後は特に会話もなく、気まずい時間が流れたそうです。
図1 今回の診療所のスコア

100点中54点でした。
相手に依頼や確認をする際の「言葉の並べ方」は?
このように、今回は説明や確認など、スタッフが患者に何かを伝える際のコミュニケーションに課題があることが分かりました。そこで、「話し方」に重点を置いてフィードバック研修を実施することになりました。
まず、患者に声を掛けられたら「返事」+「復唱」+「アイコンタクト(笑顔)」が基本です。例えば「初診ですが……」と言われたら、「はい、初診でいらっしゃいますね」と顔を上げて答えてから、次の依頼のプロセスに入ります。相手の発言を復唱することで、伝達ミスを防ぐとともに、しっかり受け止めてもらえたという安心感を与えることができます。
次のポイントです。相手に依頼するときは「前置き言葉」+「依頼事項(尊敬語)」+「依頼する(謙譲語)」+「疑問文」です。
例えば、「恐れ入りますが、マイナンバーカードをご提出いただけますでしょうか?」とお願いすると、患者に好感を与えながら協力してもらえるものです。この依頼事項は相手の動作を示す言葉なので、尊敬語を使う必要があります。また依頼部分は自分の希望なので、「いただけますか」という謙譲表現になります。
「恐れ入りますが」「お掛け」「いただけます」「でしょうか?」
「お忙しいところ申し訳ございませんが」「こちらにご記入」「いただけます」「でしょうか?」
のような構造です。
次に患者に確認をするときの話し方の工夫です。「前置き言葉」で相手に対する配慮の気持ちを伝えた上で、「確認内容」+「付加疑問文」で伝えます。
特に「前置き言葉」の部分では、「念のための確認で申し訳ございませんが」「何度も確認させていただいておりますが」「これまで、私どもで伺っておりますが」といった表現で、認識のずれを防ぐために改めて確認していることを伝えます。医療機関では、場合によっては患者が何回も同じことを聞かれるシチュエーションが発生しますが、前置き言葉を用いることで患者がスムーズに協力してくれます。
続いて「確認」の表現にも、バリエーションがあると患者は配慮を感じるものです。
例えば、「○○ということでよろしいでしょうか?」「〇〇ということでお間違いありませんか?」「○○でいらっしゃいますね?」というように、状況に応じて変更できると、より洗練された印象になります。
その他にも、患者から症状などを聞き取る際は、専門用語を避けたり、具体的で分かりやすい言葉で答えやすくしたりする工夫も重要です。複数項目ある場合は、質問を始める前に「幾つか教えていただいてもよろしいでしょうか?」と許可を取った上で、確認を進めます。
「いつから痛いですか?」と質問して、答えがあれば、「○○からなんですね」と復唱することによって、矢継ぎ早な印象を避けることができます。また、「どこが痛いですか?」と端的に聞くより、「どの部分に痛みを感じますか? 指さしていただいてもよいですよ」などと伝えて、答えやすくする配慮も効果的です。
「このあたりなのですね」
「どんな動きをされると痛みますか?」
「少しだけ動かしてみることはできますでしょうか?」
「ずきずきする感じとか、重い感じとか、どんなふうに痛みますか?」
というように、痛みの表現を例示することにより、患者の痛みの言語化を助けるとスムーズに答えてもらいやすくなります。
PREP法を意識して相手に選択肢を与える
今回の覆面調査では、予約なしで来院した患者への受付の対応についても課題が見付かりました。このクリニックでは、基本的に予約を推奨していますが、予約せずに来院した場合でも、待てば受診できます。それなのに、予約のない患者が来た際に、一旦、迷惑そうに拒絶するような対応をしてしまいました。伝える内容は同じだとしても、「待てば受診できる」という前向きな伝え方にするよう工夫すべきです。
相手に何かを説明するためのコツとして、一般的にビジネスの現場で活用されているのがPREP法です。これは、次のようなプロセスを意識しながら説明する方法です。
P(Point):結論・要点を伝える
R(Reason):理由を説明する
E(Example):具体例・選択肢を挙げる
P(Point):改めて結論を伝える(再確認)
予約なしで訪れた患者に説明する際、PREP法を利用すると次のようになります。
<Point>
申し訳ございませんが、本日は予約でいっぱいです。待ち時間が最長で〇時間ほどかかる可能性がありますが、お待ちいただければ、本日、診察を受けることは可能です。いかがなさいますか?
<Reason>
当院は基本的に事前予約制となっております。当日、予約のない方は予約の合間にお呼びすることになっておりますので、現時点では明確な時間をお伝えできず、申し訳ございません。
<Example>
もし、お待ちになる場合は、一旦、外出していただくことも可能です。本日、お時間がなければ、改めて後日に予約を取ることも可能です。
<Point>
ご不便をお掛けして申し訳ございませんが、本日は、どのようになさいますか?
このように伝えると、予約制だと知らずに来院して残念な気持ちになっている患者に選択肢を提供することが可能で、患者も前向きな気持ちで自分の行動を選択できるようになります。自分で何か選択できるということが、不快な感情を抑える効果につながります。
今回は患者にお断りしなければならない場面はありませんでしたが、そうしたときの伝え方にも工夫の余地があります。例えば、電話で予約を受けたとき、希望に沿えない場合は次のような言い方をすることで、患者の残念な気持ちを和らげられます。
伝え方の仕組みは、「前置き言葉」+「お断りする内容」+「寄り添う言葉」(+提案)です。
<前置き言葉>
大変申し訳ございませんが、
<お断りする内容>
〇月〇日は、予約でいっぱいでございます。
<寄り添う言葉>
ご希望に沿えず、申し訳ございません。
<提案>
〇月〇日であれば、同じ時間に予約をお受けできますが、いかがでしょうか?
このように、相手に提案をして選択してもらうというプロセスが、残念な気持ちを和らげるだけでなく、自分で主体的に選択したというポジティブな感情をもたらすことにつながるのです。
最後に、最も簡単で、今日から取り入れられる「共感」のコツをお伝えします。それは、相づちのバリエーションを増やすことです。単に「はい」と言うだけでなく、「そうなんですね」「それは大変でしたね」といった表現があると、共感の意が伝わり、相手は話してよかったと安心できます。
実際の医療機関では「うんうん」「はいはい」「そっかぁ」「そうなんだねー」「あ、そうかそうか」などの言葉も聞かれます。地方によってはその土地の言葉で、いろいろな言い方があると思いますが、なれなれしくならないような配慮は重要です。
こうした話し方のテクニックについて、理学療法士や受付スタッフはこれまで1回も学んでこなかったそうです。「前置き言葉などは意識したことがなかったので、今回の研修で言葉のバリエーションが増えた」と話していました。フィードバック研修で、話す内容に応じた必要な要素を伝えたことで接遇力が向上し、患者からの苦情もほとんどなくなったとのことです。院長も「自院のスタッフたちの課題が明確になり、対策を打つことができた」と喜んでいました。
〔今回のチェックポイント〕
☐返事、相づちの言葉を工夫していますか?
☐分かりやすい説明や質問を行うために、PREP法を使っていますか?
☐お断りするときには、寄り添う言葉や提案を添えていますか?
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