2024.12.20
覆面調査ルポ 電話の自動音声で患者を怒らせていた診療所
Case65 「電話対応が悪い」と書き込まれた整形外科クリニック
今回の調査対象となった医療機関は、落ち着いた住宅街にある整形外科クリニックです。依頼者である院長の話によると、この診療所では最近、電話対応に関する苦情が多いそうです。最近、インターネットの口コミサイトに「星1つ」の書き込みをされ、スタッフが落ち込んでしまったとのこと。電話に出た瞬間から相手が立腹した様子で攻撃的な話し方をしてきたこともあり、「対応が困難だったケースがあった」とスタッフが話していたそうです。
電話対応を実際に見たわけではありませんが、スタッフたちは日頃から患者対応を向上させようという意識が高いため、院長としては患者を怒らせるような心当たりはないそうです。実際になぜ苦情が発生しているのか、電話対応のどこに問題があるのか、「原因をしっかり突き止めた上で改善したい」と話していました。
そこで早速、覆面調査員A子が調査することになりました。
「自動音声」によって三たびのガチャ切り
まずA子は、予約なしで受診できるのかどうか確認しようと、クリニックに電話をかけました。すると自動で以下の音声が流れてきました。
「お電話ありがとうございます。〇〇クリニックでございます。アナウンスに従って番号をお選びください。ウェブ予約については1を、ウェブ問診については2を、インフルエンザワクチン接種をご希望の方は3を、その他の要件の方は4をお選びください」
A子は予約に関する問い合わせだと理解して「1」を押しました。すると、
「ご予約はウェブ予約から取ってください。お電話で予約することはできません。お電話ありがとうございました」
という自動音声の後、電話が自動的に切られました。A子は戸惑いました。そこで、ボタンを押し間違えたのかもしれないと思い、再度、電話をして「1」を押しました。すると、先ほどと同じように自動的に切られてしまい、自分の操作ミスではないことがはっきりしました。
3回目の電話で、「その他の要件」の4を選んだところ、やっと受付につながりました。受付スタッフの対応は丁寧でしたが、既に3回目の電話だったので、不快な気分が残りました。
後日、A子はインフルエンザワクチン接種に関して同院がどう対応しているのか情報を得たいと思い、再度、電話をかけて「インフルエンザワクチン接種をご希望の方」の3を押しました。しかし、回答は先ほどと同じような流れでした。
「インフルエンザワクチン接種のご予約はウェブ予約から取ってください。お電話で予約することはできません。お電話ありがとうございました」
という自動音声が流れた後、ブツッと電話を切られました。
何度も一方的に電話を切られたことで、A子は何とも残念な気持ちになりました。後日、確認したところ、「ウェブ問診について」の「2」を押しても自動的に電話が切れる仕様になっていたそうです。目的があって電話をした患者が、自動音声によって一方的に電話を切られることでストレスを感じ、結果的に電話応対への苦情増加につながっているのだとA子は確信しました。
このクリニック、A子がいざ来院してみると、スタッフの対応からはおおむね、誠実さやホスピタリティーを感じられましたし、院内は清潔感があり過ごしやすい空間だったそうです。実際は接遇のレベルがそこそこ高いクリニックであるだけに、電話応対の部分で印象が悪く、口コミサイトに低評価の書き込みをされてしまっては、とても残念だと思いました。
図1 今回の診療所のスコア

100点中54点でした。
自動音声導入のきっかけはコロナ禍
誤解のないようにあらかじめ書きますが、筆者は今回取り上げた電話の自動音声対応システムなどを使った「自動化」の取り組みは、この人材難の時代、不可欠だと考えています。こういった事例を踏まえて、自動化を避けようというのではなく、よりうまく活用しつつ患者満足度も高めていく方法を探っていただけるとよいと思っています。
このクリニックが電話の自動音声対応システムを導入したのは、新型コロナウイルス感染症の流行時、かかりつけ患者に対して新型コロナワクチンの接種を行ったのがきっかけだそうです。ワクチン予約の電話対応で正常な診療をするのが難しくなり、ウェブによる予約システムと、自動音声による電話対応システムを導入したとのことでした。最近は平時の診療体制に戻っていますが、受付スタッフの業務負担を考慮してそのまま契約していました。
こうした機器はクリニック側には便利ですが、時に患者にとって使いにくいものになっていることがあります。実際に電話をしてくる患者の気持ちに寄り添って、どういう仕組みにするか、どういう言葉を使うとよいかは慎重に決めることが必要だと思います。時間があればロールプレーの要領で、実際に患者役になってこうした機器を試しに使ってみると、様々な発見があるでしょう。
「自動化」関連でもう一つ、このクリニックで覆面調査員A子が気になったのは、自動精算機の使い勝手でした。導入されていたのは金銭のやり取りを主に行うセミセルフタイプの精算機で、カウンターの端に置いてありました。診察券のバーコードを読み取ってから精算する仕組みだったのですが、バーコードの読み取りにコツが必要なようで、初めての患者はどこにどうかざすとよいのか、手間取ることが多くありました。
その都度、スタッフが「もう少し上をかざしてください。近付けすぎないでください」とやや大きめの声で、高齢患者に伝えていました。指示された患者は申し訳なさそうで、少しおびえた様子でした。それでもうまくできないと、受付スタッフがカウンターから上半身を乗り出して、患者の代わりに診察券をかざしていました。また硬貨やお札を入れるところも、患者によっては分かりにくかったようです。結局、それもスタッフがお金を預かり、受付カウンターの中から上半身を乗り出して代わりに入れるシーンがありました。
この自動精算機については、スタッフの作業軽減にも時間節約にもなっていないように見え、正直なところ設置する意味があまりないように見えました。身を乗り出して作業をするのは、見た目もよくありませんし、カウンターの中から大きな声で患者に指図する様子もあまり気持ちよいものではありませんでした。
自動化が進むほど価値が高まる「人との接点」
これらの調査結果をクリニックにフィードバックしたところ、受付スタッフたちは電話の苦情について、とても納得がいったようでした。なぜなら、スタッフが電話に出ると、「お宅は何回も電話をかけているのに全然出ない」と立腹した様子で話す患者が過去に複数人いたからです。スタッフからすると電話が鳴らず、話し中でもなかったのに「電話に全然出ない」と怒られてしまい、ずっと不思議だったそうです。自動音声の案内内容を聞いて、ようやく患者の怒りの原因を理解できたと話していました。
患者のいら立ちを軽減するための改善策として、「番号を押した後の案内の情報をもう少し詳しくする」「説明後に自動で切電するのではなく、もう一度、番号を案内する場面に戻れるようにする」などの方法を提案しました。結果的に、ウェブ予約などの説明を終えた後、再度そのまま他の番号を案内し、必要なら「その他の要件」のボタンを押せるよう、自動音声のシステムを変更したところ、電話に関する苦情は激減したそうです。
自動精算機については、スタッフにとっても使いにくいものだったこともあって、思い切って変更することにしました。今回はカウンターに置くタイプではなく、スタンド式で会計受付から支払いまで全てを済ませるものです。カード情報の読み取りやタッチパネルの操作、お金を入れる場所などの表示も分かりやすくなり、ほとんどの患者がスムーズに受付や会計をできるようになりました。
またカウンターからスタッフが出てすぐの場所に設置したので、操作に戸惑う患者がいた場合、受付からすぐに近くに歩み寄って手伝うことができているとのことです。会計業務が減ったことに加えて、患者から「ありがとう」という言葉を多く掛けられるようになり、スタッフの皆さんも投資効果を実感しているそうです。
このように医療業界においても、人手不足を背景にDXによる自動化の流れは加速すると考えられます。システムを導入するときこそ、患者の心理、期待なども考慮して、患者視点に立った運用が求められます。自動化が進めば進むほど、人と人との接点でホスピタリティ―の重要性が増し、それがクリニックの差別化につながることでしょう。
先日、米国にあるチキンフィンガーで有名なファストフードのお店に行ったときのことを紹介します。オーダーから会計までの一連の流れを端末に向かってセルフで行うシステムでした。しかし、店内に人がいないわけではありません。セルフオーダーエリア担当のスタッフは、入店したお客さんに笑顔で明るく挨拶をして、10台ほどあるセルフオーダーの端末に効率良く案内していきます。そして使用方法に戸惑う人には、積極的に声を掛けて手伝い、大きな荷物を抱えている人、足が不自由な人などにも、様々な配慮をしていました。こうした事例からも、機械と人の役割分担の重要性を理解いただけるのではないでしょうか。
DXへの投資を無駄にせず価値あるものにするには、患者視点に立った運用が不可欠です。スタッフの業務を効率化し、患者に向き合う場面を増やすことができれば、さらに地域に愛されるクリニックになると思います。
〔今回のチェックポイント〕
☐機器類の導入後、患者目線でそれを使って問題点を探っていますか?
☐困っている患者に対して、迅速かつ丁寧にサポートしていますか?
☐機器類の導入により、スタッフの患者に向き合う時間は増えていますか?
日経メディカルオンライン掲載記事はこちら
研修メニューはこちら

