改善事例

2020.12.14

覆面調査ルポ 「副院長が怖くてたまらない」、怒声におびえる看護師たち

Case6  看護師が定着しない整形外科診療所

 今回、私どもに相談されたのは、ある整形外科クリニックの事務長です。看護師を雇用してもすぐに退職してしまうそうで、ほとほと困り果てている様子でした。

 最近、うつ病を発症して休職した看護師に話を聞いたところ、「副院長が怖くてたまらない。あの先生と一緒に仕事をしなければならないというだけで、足がすくんでしまう」と言われたとのこと。ちょっとしたことで怒鳴りつけるため、びくびくしながら仕事をするようになり、毎日がつらくなった。それでうつ病の症状が表れるようになったと看護師は訴えたそうです。

 このクリニックの医師は、開設者である先代院長、2代目の現院長ともに職人気質で、技術は背中を見て学べというタイプ。スタッフの動きが遅いと怒鳴る、ミスがあれば厳しく叱責する。認めたり褒めたりすることは全くないという組織風土です。

 事務長はそのことをよく理解していたので、スキルが高くて打たれ強いタイプの看護師をできるだけ院長の診察室に配置していました。一方、事務長から見て副院長は、若くて明るく、快活な雰囲気でした。そこで、新規採用した看護師は副院長の診察室に配置していたのですが、それが裏目に出た形で、事務長は非常に驚いていました。事務長がスタッフにヒアリングをしたところ、これまでも、副院長の言動が原因で何人かの看護師が退職していたことが分かりました。

 副院長の言動は、パワーハラスメントに該当する可能性があります。パワハラは、同じ職場などで働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為と定義されています。

 今回の場合、事務長は立場上、副院長に直接この件を話すことは困難であり、院長に相談するのも難しい状況でした。

 そこで、私どもの覆面調査を通じ、副院長の職員への接し方や患者に与える印象について第三者の視点から指摘を受けることにより、スタッフの離職防止と患者満足度の向上につなげたいとのご要望でした。

 早速、弊社の覆面調査サービスである「サロン・ド・クリニック」を行いました。

 

今回の診療所のスコア

100点中42点でした。


 覆面調査員のA子がクリニックを訪れました。受付では「おはようございます」と挨拶がありましたが、受付職員にはアイコンタクトや表情がなく、ただ言っているだけという印象です。落ち着きがなく、常に追われているという感じもしました。

 パソコンの画面と診察券、問診票は見るものの、一度もアイコンタクトがない上、片手で物を扱うことが多く、丁寧さが感じられません。

 A子が診察室に入ると、副院長もパソコンの画面を見ながら「おはようございます」と挨拶をしました。そして問診の間、A子の目を見ることはありませんでした。言葉遣いは適切でしたが、表情や声の抑揚がほとんどないため冷たい印象でした。

 A子が話した内容についても、「はい」と返事はしてくれるのですが、常にパソコンに向かって入力をし続けており、非常に話しづらい雰囲気です。急いでパチパチとキーボードを打つ無機質な音だけが響いていました。

 診察中、副院長が看護師にある指示をしたときのことです。看護師は、指示された物品の場所が分からず少し探していると、「何、ノロノロしているんだ。早くしろ!」と大きな声で副院長が怒鳴りました。その怒声は、A子が聞いて恐怖感を抱くほど威圧的なものでした。


「仕事ができない人が悪い」と言う副院長

 

 調査の結果はまず事務長に伝え、日を改めて院長、副院長にフィードバックを行いました。その席で、職員への怒声のことを話したところ、副院長は初め、「看護師に注意をしてはいけないのか? 仕事ができない人が悪いのに、忙しいときにそんなに気を遣うことはできない」と納得がいかないようでした。

 しかしながら、クリニックに看護師が定着しないので職場全体としてスキルが向上しないこと、さらに現在は看護師の採用コストが以前よりもかかるようになっていて、相次ぐ退職者の補充に伴う採用経費が経営を圧迫していることなど、客観的な事実を伝えて納得していただきました。

 また、現在休職中のスタッフからのヒアリング内容も、院長、副院長に報告しました。さすがに副院長は、うつ病の原因が自分にあるとスタッフが訴えていることを知り、ショックを受けたようです。「自分の振る舞いをどのように改善すべきか、具体的な方法を知りたい」とおっしゃいました。

 そこで当社は管理者研修を行い、パワハラの実態や事例について紹介するとともに、管理職として部下を育成する技術についてお伝えしました。


スタッフの「心のダム」を作っておく

 

 研修でお伝えしたポイントは、部下を注意する際、感情的に怒るのではなく、論理的に整理してどこが良くないのか伝えるのが重要であるということです。さらに患者の前でスタッフを怒鳴ることは避けるべきであり、必要な注意であっても患者の前では最小限にとどめ、患者のいないところで適切に注意することが大切であるとお伝えしました。

 さらに、注意や叱咤をスタッフが前向きに受け入れるためには、日ごろからスタッフの心を元気にさせるようなコミュニケーションを取っておかなくてはなりません。スタッフの心の花に水をやるように、元気になる言葉、つまり認める言葉や褒める言葉をできるだけ多く伝えておくことがポイントです。心の水やりを日ごろから実践しておけば、厳しい指摘であっても素直に受け入れるだけの「心のダム」を作ることができるのです。

 副院長の場合、スタッフへの心の水やりをしないまま、成果ばかり要求し厳しく叱責するため、スタッフの心のダムができておらず、叱責を受け入れる心の余裕がなくなってしまったのです。そのため、心のダムが干上がり、精神的なバランスを崩してしまいました。

 同じ言葉であっても、表情や話すスピード、声のトーン、抑揚、アイコンタクトといった非言語コミュニケーションの取り方により相手が受け取る印象は変わってきます。職員を叱る際には、そうした部分にも注意が必要です。


看護師への対応が劇的に改善した副院長

 

 副院長はもともとコミュニケーション力が高かったため、問題の指摘を受け具体策を知ることにより、看護師への対応が劇的に変化しました。結果として、看護師も定着するようになったとのことです。

 院長も、先代の時代と現在のスタッフマネジメントの違いを深く理解し、看護師やスタッフに対して、日ごろから目を配り言葉掛けをするようになりました。結果として、クリニック全体の雰囲気は、明るく穏やかになりました。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐患者の前でスタッフを感情的に叱っていないか
☐日ごろから、スタッフが元気になる声かけ(心の水やり)を実践しているか
☐非言語コミュニケーションをうまく使っているか

 

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