覆面調査ルポ

2020.12.21

覆面調査ルポ ワクチンを間違えた看護師、説明もお詫びもなし

Case7  ベテラン看護師が入職したばかりの内科診療所

 今回、私どもに依頼されたのは内科クリニックの院長です。患者接遇を向上させる必要性を強く感じていながら、看護師や事務スタッフには伝わらず、なかなか改善されないとのことでした。

 弊社への調査依頼としては最も一般的なパターンです。早速、弊社の覆面調査サービスである「サロン・ド・クリニック」を行いました。


笑顔のない受付スタッフ

 

 今回は、覆面調査員A子が子どもを連れ、A子本人がインフルエンザの予防接種を受けるためにお伺いするという設定で行いました。

 A子が子どもとクリニックを訪れると、受付スタッフはアイコンタクトも笑顔もほとんどありませんでした。予防接種で訪れる患者は体調が悪いわけではありませんが、注射への不安を抱えているケースもあります。笑顔で挨拶をして、プラスアルファの声掛けをすることにより、不安を和らげるよう心掛けるとよいでしょう。

 ただし、気分の悪い患者さんに満面の笑顔でお迎えすると、相手の気持ちを損ねることがあります。常に相手の気持ちをよく考えた上で、安心感を与えるよう微笑むことが適切です。


子どもの量のワクチンを親に接種

 

 診察室に入ると、勤務医の先生が気さくに「こんにちは」と挨拶をしました。問診をする間も自然な感じのアイコンタクトが取れていました。

 一方、看護師がA子親子に話し掛けるときは、「ちょっとちょっと、ここにどうぞ~」というような、くだけた言葉遣いが気になりました。また、髪をかなり明るい色で染め、髪の先が傷んでいたので、清潔感のない印象を受けました。

 A子に予防接種をするため、看護師が医師に注射を手渡し、接種したときです。看護師が、「あ、間違えた! それは子ども用だわ」とつぶやきました。なんと小児の接種量のワクチンを大人に間違えて打ってしまったのです。

 大人のワクチンを子どもに接種されるよりは、まだよかったと言えるのかもしれませんが、勤務医の先生からも看護師からも何ら正式な説明やお詫びがありません。このようなミスが起きる状況を放置していると、重大な事故につながる恐れがあります。

 A子は、どうすればよいのか分からず、不安でいっぱいになりました。こうしたミスは、クリニックに対する患者の不信感につながります。

 

今回の診療所のスコア

100点中45点でした。


新採用のベテラン看護師との手順確認が不足

 

 調査の結果は、まず院長に伝えました。接遇面についてはもちろんですが、今回のミスについて重く受け止めてくださったようでした。

 厚生労働省の収集分析事業によると、ヒヤリハット事例の大半は看護師によるものです。特に就職1年未満と職場異動1年未満の看護師に多いことが明らかになっています。また、事故事例の分析によると、多くの業務が集中する時間帯は、通常なら行う確認ができなくなって、エラーが事故につながりやすくなることが分かっています。

 問題の看護師は、このクリニックに入職してからまだ3カ月でした。それまでは別のクリニックで20年ほど勤務していたベテラン看護師です。勤務先のクリニックが廃業したことで、今のクリニックに転職してきました。

 今回訪問したクリニックは開業から10年を超えていますが、入職したのがベテラン看護師だったので、医療事故防止のための細かい取り決めがあいまいになっていました。一方で、ベテラン看護師も、自らのキャリアが長いという自負や油断もあり、細かい業務の確認がおろそかになっていました。そうした馴れ合いの雰囲気が、身だしなみや言葉遣いにも表れていたのです。

 今回の結果を踏まえ、現状を改善するにはどうすればよいかを看護師の皆さんと話し合い、「業務手順の見える化」と「ルールの徹底」を行うこととしました。

 次に、注射手順の見える化について、どのようなことを行ったかをご紹介します。


注射手順の見える化では、以下のようなことを徹底して行うようにしました。

 
【注射の準備段階】
(1)1患者1トレーの徹底
(2)トレーをダブルチェック
(3)患者の名前、年齢、実施日時、薬剤名、量、方法を読み上げてからトレーをセットする

 
【実施時】
(1)問診票と薬の入った注射器をセットする
(2)接種の前に患者の名前とトレーを確認する


「安全」は患者満足の大前提

 

 医療における安全性確保は、患者に満足してもらうための大前提です。業務手順を見える化し、ルールを徹底、改善していくことは、職場スタッフの不安を解消し、健全なクリニック運営につながります。

 今回のクリニックでは、注射だけでなく点滴、検査、受付、支払いなどにおける業務手順を洗い出して見直すことで、無駄な業務が減り、ミスが激減しました。結果として、職場スタッフの心に余裕が生まれ、患者への心遣いができるようになり、患者接遇の向上にもつながりました。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐業務手順を見える化しているか
☐手順、ルールを徹底しているか
☐心の油断が、挨拶や身だしなみに表れていないか

 

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