覆面調査ルポ

2023.09.20

覆面調査ルポ 素っ気ない印象の受付が様変わりするまで

Case59 受付スタッフが素っ気ない印象を与えるクリニック

 今回ご紹介するのは、主に手術を中心に行っているクリニックです。近隣の医療機関から数多くの紹介を受け入れていて手術実績は申し分ないのですが、受付スタッフの対応について、患者から「素っ気ない」「感じが悪い」という苦情が多く寄せられていることから、覆面調査の相談がありました。


 このクリニックは、紹介による手術が中心なので継続的に通う患者はほとんどいらっしゃいません。そのため、短時間で信頼関係を築く接遇力が必要となります。また、フロービジネス的な要素が大きく、常に患者や他の医療機関の医師から新規患者の紹介をしてもらえるよう、評判を良くすることが重要であるという特徴があります。そのため、覆面調査を実施して、接遇の改善策を明確にすることになりました。


硬い表情で笑顔がほとんど見られない患者対応
 
 早速、覆面調査員A子が調査に行くことになりました。そのクリニックは、洗練されたビルの中にありますが、大学病院の出張所というような落ち着いた印象でした。待合室も、スタイリッシュです。床や壁、天井と一部の椅子は白で統一され、ところどころ濃色の椅子がアクセントになっていました。間接照明や観葉植物などもあり、お洒落な空間に感じました。ビルの中にあるクリニックですが、窓があるため外光も入り、明るい雰囲気です。掲示物も少なく、非常にスッキリとしていてよかったです。
 
 患者用の消毒液は、出入り口の外に設置されており、消毒するとともに体温も測定できる機械で手間がありませんでした。受付にはアクリル板が設置され、感染予防をしっかりしていらっしゃるという印象です。また、院内はほこりなどがなく、大変きれいに掃除が行き届いていました。
 
 調査したその日、受付には4人のスタッフがいらっしゃいましたが、患者対応をする際は、とても硬い表情で笑顔はほとんど見受けられず、素っ気ない印象でした。マスクをしていて目だけしか見えない状態だと、硬い表情に感じることは多いのですが、スタッフ同士でお話ししているときは、笑顔で話されていることが伝わってきたので、マスクのせいではないようでした。
 
出入り口の手前に「院内はご高齢の方も多いためマスクの着用をお願いします」という案内がありました。マスクを持っていない患者が、入り口の手前から「すみませーん、マスク持っていなくて」と伝えると、受付スタッフの1人が特に言葉もなくマスクを手渡していました。他のスタッフも無表情でチラッと見るだけで、とても素っ気なく感じました。「おはようございます」という挨拶があれば一番良いのですが、せめて笑顔で軽く会釈をするだけでも随分印象が良くなります。
 
図1 今回の診療所のスコア


100点中40点でした。


素っ気なさを感じさせるアイコンタクトの少なさ
 
 他の患者への挨拶は、したりしなかったり対応がバラバラでした。1人の患者がカウンターの前に立って「こんにちは!」と大きな声で挨拶されていたときも、受付スタッフからの挨拶はありませんでした。時折、「おはようございまーす」と挨拶をされているときもありましたが、アイコンタクトはなく、語尾が伸びた言い方でしたので、とりあえず言っているだけで気持ちがこもっていないように感じてしまいました。
  
 このように全体的に素っ気ない印象だったのですが、アイコンタクトが極端に少ないことが一番気になりました。「確認しますね、あちらにかけてお待ちください」と言うときも、「月が変わったので保険証をお願いします」と言うときも、患者の方を見てはいませんでした。書類を片付けながらなど、いつも何かをしながら話されていました。患者と話すときは一旦手を止めて、しっかりと患者の方に体の正面を向け、笑顔でアイコンタクトをとりながらお話しされたほうが格段に印象は良くなります。
 
 患者が保険証を渡した際も、目を見ることはなく、片手で受け取られました。他のスタッフも片手での対応でした。何かをお渡しする際や受け取る際は、きちんと両手を使い、相手の目を見て「ありがとうございます」と伝えると丁寧な印象です。


印象が一変した挨拶の5つのポイントとは・・・
 
 以上のような調査の結果から、笑顔とアイコンタクトの重要性について、フィードバックの研修でお話しすることにしました。


 まずは挨拶における5つのポイントについてお伝えしました。
(1)笑顔
(2)明るい声
(3)相手の目を見て
(4)自分から
(5)語先後礼
 


まずは挨拶で信頼関係を築くコツ
 
(1)笑顔
 医療機関では、患者が痛みを抱えていたり、深刻な病状で落ちこんでいたりするときに、軽薄な笑顔で接することは適切ではありません。しかし、医療従事者の笑顔に救われた経験のある患者は多いものです。笑顔は安心感を与え、心を和ませたり勇気づけたりする力もあります。
 
 そして、笑顔は副作用のない薬と言われるように、自分自身にもメリットがあるのです。例えば、過去の研究結果の中には、笑うことによってNK細胞が活性化され、免疫力が向上するとしているものもあります(伊丹仁朗ら 心身医学 1994;34:565-571.)。何かを見て笑うことと、接遇での「笑顔」とでは状況は異なりますが、接遇の利点を考える上で参考になると思います。
 
人は、自分の大切な人や身近な人、目の前の人の笑顔を見ると、安心感や幸福感を味わったり、ほっとしたりします。ということは、自分が笑顔でいるだけで、周りの人も安心し、幸せな気持ちになるものです。挨拶をすればするほど笑顔でいることが増え、自分も周りも幸せになるのであれば、時間もお金もかからず、まさに良いこと尽くしです。
 
(2)明るい声
 マスクによって、表情からの情報を得るのが難しい今、声のトーンは相手の感情を読み取る上で、重要度が増しています。明るく爽やかな声で応対するのと、モゾモゾと聞こえづらい声で挨拶をするのでは、印象が大きく異なります。「地声が低いと暗い印象になるのでは?」と心配される方もいますが、ハキハキと笑顔で話せば印象は良くなるので安心してください。
 
(3)相手の目を見て
 挨拶をするときには、必ず相手の目を見て、挨拶の言葉を言うことが大切です。アイコンタクトをとることで、相手に関心を向けていることや、相手に向き合う気持ちがあるという安心感を与えることができます。その半面、アイコンタクトをとらずに視線が合わないと、無関心であるという印象を与えてしまいます。
 
 日常生活でも、目の印象によって、相手の人となりや気分を判断することは少なくないと思います。そのくらい、目というのはいろいろな感情を映し出すものなのです。短い時間で信頼関係を築くためにも、相手の目を見てアイコンタクトをとることは非常に重要です。
 
(4)自分から
 今回の覆面調査では、患者が挨拶をしているのにもかかわらず、スタッフは挨拶をしていませんでした。これは大変残念なことです。やはり患者が入り口から入ってきたら、すぐに気づいて、自分から挨拶をするように日頃から意識を高めていくことが必要です。
 
(5)語先後礼
 これは、しっかり相手の目を見て挨拶の言葉を言い、その後お辞儀をするという作法です。その方が、相手の目を見て感情を伝えることができますし、挨拶をした後にお辞儀をすることでさらに丁寧な印象を与えることができます。
 


物の受け渡しは「人→物→人」の順に目線を配る
 
 調査結果のフィードバックとともに行った研修では、挨拶のポイントに加えて、物を受け渡したり何かを指し示したりするときのコツについてもお話ししました。この場合、目線の配り方は「人→物→人」の3つのステップが効果的です。
 
【物の受け渡し】
 例えば、患者に保険証を返却する場合は、次のように目線を配ります。
(1)「人」
相手の目を見て笑顔で話す。患者に「保険証をお返しします」と言う。
(2)「物」
対象物を見る。保険証を見て、両手で丁寧に手渡す。相手がお礼を言ってくれることもある。
(3)「人」
もう一度、相手の目を見て笑顔で確認して会釈。
 
【指し示すとき】
 待合室の座席に掛けて問診票の記入をお願いしたい場合は、次のようにするとよいでしょう。
(1)「人」
相手の目を見て笑顔で話す。例えば、「あちらにお掛けになってご記入ください」と伝える。
(2)「物」
対象物を見る。手の平で指し示しながら、待合室の座席を見る。
(3)「人」
もう一度、相手の目を見て笑顔で、伝わったことを確認して会釈。
 
このように笑顔とアイコンタクトに絞った接遇研修を実施したところ、受付スタッフの素っ気ない印象は大きく改善されました。ある口コミサイトには、「最近、急に受付スタッフの感じが良くなったので驚いた」という嬉しいコメントが寄せられたそうです。
 
笑顔とアイコンタクトは、クリニックの第一印象を決め、信頼関係作りの出発点です。かかる時間はたったの3秒です。ぜひ、この3秒に心を込めて実践してみてください。相手との信頼関係を築く効果が実感できると思います。
 

〔今回のチェックポイント〕
☐挨拶のとき、患者に笑顔を向けていますか
☐「人→物→人」の順に目線を配れていますか
☐信頼関係を築く3秒を惜しんでいませんか?
 
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