覆面調査ルポ

2023.02.07

覆面調査ルポ 低評価の書き込みが多い診療所、その要因は?

Case56 ネット上でスタッフへの評価が低い内科・小児科クリニック

 今回の覆面調査で伺ったのは、中核都市にある内科・小児科クリニックです。最近、受付の対応が悪いとのインターネット上の書き込みが立て続けにあったことを受け、本当に悪いのかを客観的に評価してほしいと院長から相談がありました。

 ネットの書き込みを見ると、「先生は明るくていいけれど、受付スタッフが冷たすぎる」「電話対応が怖くて、感じが悪すぎる」などが確かにありました。院長に聞くと、スタッフの皆さんは真面目でよく働き、長く勤めてくれているそうです。とても感謝しているので、院長から直接注意をするのは難しいとのことでした。そこで、覆面調査で原因を明確にし、調査結果のフィードバックを活用して接遇向上につなげたいとの考えでした。


患者へのあいさつがなく笑顔に乏しいスタッフ
 
 早速、覆面調査員のA子が調査に伺いました。
 
 A子が訪れると、人気があると思われ大変な混雑状況でした。順番予約システムがうまく機能し待ち時間を予測できたこともあり、待つことは不快に感じませんでした。
 
 しかし、A子がクリニックに入っても、受付スタッフから「こんにちは」などのあいさつがありませんでした。帰り際も「お大事に」や「お気をつけてお帰りください」などのあいさつをされませんでした。また、診察室への呼び出し時も、看護師からあいさつはなく、淡々と呼び出されているように感じました。
 
 スタッフからは総じて笑顔をあまり感じられませんでした。対応してくれているときは真顔が多かったのです。具合のよくない無表情の患者に影響されて、スタッフも表情がなくなっているように感じられました。
 
 受付スタッフは「~ですね」といった丁寧語を使われていたのですが、声のトーンは皆さん明るいとは言い難く、淡々と話されている印象です。受付で聞こえにくくて聞き返すことが2度ありました。フェイスシールドの着用やアクリル板の設置が要因だと思いますが、そうであれば、より一層はっきりとわかりやすく話す工夫が必要になります。
 
 一方、受付での確認作業は非常にスムーズでした。咳・痰・熱の有無だけでなく、周囲の濃厚接触者についても手際よく確認していました。説明や確認などの際にアイコンタクトがしっかりあり、不安にはなりませんでした。最後に質問がないかを聞いてくれたので、親切な対応だと感じました。

 
図1 今回の診療所のスコア


100点中46点でした。


 看護師の中に大柄でふくよかな方がいて、制服のサイズが合っていないようで、スカート丈が短い印象です。適したサイズの制服を選ぶか、パンツスタイルにすると、好印象につながると感じました。
 
 院長はとても明るく患者に接しており、受診した患者を元気にする力があると思いました。ただスタッフは常に淡々とした対応だったので、そのギャップがどうにも釈然としない気持ちをもたらします。声のトーンや表情などでもう少し調和が取れていると、安心感が高まるように感じました。
 


フィードバック時の明るく笑顔あふれる様子にギャップ
 
 このような結果を踏まえ、フィードバックと接遇研修を行うことになりました。そのために伺ったとき、調査時の淡々とした雰囲気とは全く異なり、とても気さくで親切な明るい様子でした。あいさつも元気で明るく笑顔にあふれていたので、ギャップに驚きました。
 
 スタッフの皆さんに調査結果をフィードバックしたところ、とてもショックを受けていたようです。患者思いの優しくホスピタリティあふれる皆さんですが、それを伝えるための技術が少し足りていなかったり、慣れで流れ作業的になってしまったりしているだけであると強調して伝えました。皆さんの気持ちが伝わっていないことが原因なので、コツをつかめばすぐにスキルアップできると説明しました。
 
 研修では、第一印象の重要性を理解してもらうとともに、あいさつのスキルアップを中心に据えました。スタッフの人柄の良さが伝わることを目指し、実施しました。
 
 なぜ第一印象を良くすべきなのかに関しては、見た目の印象の重要性を伝えました。よく知られていますが、第一印象で好感を持つかどうかは、見た目(視覚情報)の影響が最も大きいといわれています。今回明らかになった課題は、笑顔が感じられない、制服のサイズが合っていない、身だしなみが整っていない、あいさつが伝わっていない──などでした。
 
 笑顔については、マスクを付けていても目が笑っているように見えるにはどうしたらよいのかを考えてもらいました。2人1組のペアワークで、笑顔が伝わる表情を実践的に練習しました。コロナ下では常にマスクを着用して患者対応するので、目や眉毛の動きが笑顔を伝えるには重要だと気づいていただけたようです。
 
 次に制服については、調査結果を踏まえた院長の意向もあり、変更を検討することになりました。スタッフから「どのような色がよいのか」、「パンツの方がよいと思うが、スカートでないといけないのか」との質問がありました。
 
 色に関しては、幼児が多く受診するクリニックなので明るい色がよいのではと提案しました。幼児は赤、青、黄など明るく鮮やかで視認性の高い(見えやすい)色を好むといわれているからです。最近、医療機関では比較的濃い色のユニホームも増えてきていますが、黒や茶色、紺、紫などの暗めの色は好みにくいともいわれています。小学生だと、青や水色、赤、ピンクが人気だそうです。
 
 近年はジェンダーフリーや動きやすさの観点から、パンツも選択できるユニホームが増えてきました。体形が気になる方やしゃがんで患者とお話をする機会の多い方にとってはパンツの方が安心できると言えます。スタッフの皆さんが納得して安心できるユニホームに決めるとよい旨を伝えました。


患者がどのように感じるかを考えてみる
 
 身だしなみについては、次のようなお話をしました。『真実の瞬間』を執筆したスカンジナビア航空グループ元CEO(最高経営責任者)のヤン・カールソンが自社の飛行機に乗り込み、機内食用のテーブルを引き出した瞬間、それが汚れていることに気が付きました。「お客様はテーブルが汚れているのを見て、『ジェット・エンジンも汚い』と思うかもしれない」とふと感じたということでした。乗客は「テーブル」から連想して、その会社の全てを判断すると考えたわけです。
 
 これをクリニックに置き換えて考えてみると、後れ毛が垂れていたり、まとめた髪から毛先がピンピンと飛び出していたりすると、患者はそれを見てこのクリニックは衛生管理が行き届いていないのではないかと不安になる可能性があるといえます。ですから、スタッフの皆さんは清潔だったとしても、清潔だと感じさせるような身だしなみが求められるという視点を伝えました。
 
 また、スタッフの皆さんが実際にあいさつをしているところを動画で撮り、見てもらいました。すると、意外と笑顔が伝わっていないことや、声が小さくて聞こえづらいことを目の当たりにし、とても驚いていました。
 
 医療現場ではスピーディーな対応が求められることから、深々としたお辞儀より軽い会釈を多用した方がテキパキとした好印象につながります。しっかり笑顔を表現して相手の目を見て明るい声で言葉を伝えること、そしてその後軽く会釈をすることを実践的に練習しました。もともと明るい方ばかりでしたので、何度か練習するとあっという間に上達し、とても感じのよい明るいあいさつができるようになりました。
 
 このように、接遇に関しては、少しスキルを学ぶだけですぐに上達することが多いものです。優しくて思いやりや責任感にあふれるスタッフの皆さんが、患者に誤解されることなく人柄の良さが伝わるようなテクニックを身に付けていただくことで、より一層患者から信頼され、仕事にやりがいを感じられるようになることを願ってやみません。

 

〔今回のチェックポイント〕
☐第一印象の重要性を理解できていますか
☐マスクを付けていても笑顔を表現できていますか
☐あいさつが患者に伝わっていますか
 
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