覆面調査ルポ

2021.11.01

覆面調査ルポ オンライン模擬患者研修で初めて分かった接遇の癖

Case42 皮膚科クリニックのオンライン模擬患者研修

 今回はある地方都市の皮膚科クリニックからの依頼です。

 このクリニックでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で患者数が減少してしまいました。そこで今こそスキルアップの機会と考え、覆面調査と接遇研修を行いたいとのことでした。COVID-19の流行前は日常的に患者数が多かったので、研修などをする余裕がなかったそうです。

 とはいえ、COVID-19の患者が少ない地域であっても、県外から覆面調査員が訪問し、調査を行うのは難しい状況が続いています。そこで今回は、新しいタイプの調査を提案することにしました。その方法とは、あらかじめクリニック側で模擬患者によるロールプレイを行います。その様子を動画撮影し、データでこちらに送ってもらいます。それを当社の調査員が分析し、その結果を基に研修を行うという流れです。


各シーンを細切れで撮影
 
 動画撮影は次のような形で行いました。撮影機材は、解像度が適切であることと、動画の形式がMP4で互換性が高いことなどからスマートフォンを推奨しました。

 また、第一印象は6秒から30秒で決まるといわれています。そこで、最大30秒ほどの動画を診療の各場面で細切れに撮影していただきました。患者役と撮影役はスタッフが交代で行い、スタッフ全員が担当別に患者対応のロールプレイをできるようにします。もちろん普段通りのユニフォームを着用し、身だしなみもいつも通りに整えてもらいました。スタッフの表情、指先、姿勢がきちんと見えるように撮影することがポイントであると伝えました。

 まずは、受付の場面です。初診の患者が来たことを想定し、入り口から患者が入ってきて、受付スタッフが挨拶をするところから、保険証の預かり、問診票の記入を案内するところまでが1シーンになります。

 その次のシーンは診察室です。患者を診察室に呼び入れ、医師の診察が始まるまでの対応を撮影していただきました。このシーンでは患者の呼び出しや診察室への案内に加えて、手荷物を置く場所や座る場所の案内などがあります。

 続いて、院長の診察です。今回、院長の診察についてはロールプレイではなく、実際の患者に対応している様子を撮影しました。患者の姿や声、電子カルテの画面が映らないよう加工して、プライバシーに配慮しました。

 採血検査の様子も撮影してもらいました。こちらはスタッフが患者役になってもらいました。採血の説明、手荷物の置く場所、座る場所の案内など、実際に採血を行うまでの30秒ほどのやり取りを撮影してもらいました。

 患者対応のシーン以外では、駐車場からクリニックの入り口までの動線を実際に歩き、患者からクリニックがどう見えているのかを撮影してもらいました。それ以外にも、化粧室の様子や待合室などの様子も撮影してもらいました。

 
今回の診療所のスコア


100点中70点でした。


スタッフによる撮影でも改善点は多数見つかる
 
 「ロールプレイだから普段よりうまくできるはずだ」と思うかもしれませんが、プロの覆面調査員が見ると意外と課題が見つかるものです。今回は、以下のような内容が課題として挙がりました。

 表情に関しては、優しく穏やかな方が多かったのですが、表情の硬い方が2人いました。身だしなみに関しても、少し華美に感じられる方がいて、自分がおしゃれを楽しむより、相手のために身なりを整えるという視点を持つとよいと感じました。後れ毛を留めていないスタッフもいました。

 言葉遣いの面では、「こちらにお掛けになってくださーい」「お願いしまーす」などと、ほとんどのスタッフが語尾を伸ばしていました。無意識に誰かの話し方がうつってしまい、これがスタンダードになっていたのかもしれません。しかし、語尾を伸ばすと子どもっぽく、なれなれしい印象になりますので、ワンランク上の接遇を実現するには、改善した方がよいと感じました。

 また、患者が玄関に入った際には、受付スタッフが立ち上がりながら「こんにちは」と言っている場面がありました。患者の姿が見えたらすぐに立ち上がり、きちんと静止した後、相手の目を見て笑顔で「こんにちは」と言ってお辞儀をすると動きにメリハリが感じられ、キビキビとした印象になります。また手荷物を入れるかごをご案内するときも、手もそろえることなく、相手の顔もかごも見ていませんでした。場所を案内するために、物を指し示すときは、指をそろえること、目線を「相手→物→相手」の順で示すと、場所を理解してもらいやすくなります。

 そのほかにも「保険証をお預かりします」という前から、手が出ていたり、採血の際、「失礼いたします」という前に患者に触れていることがありました。これは、日ごろの業務の中で「癖」になっている動作なのかもしれません。ただ、患者に安心感を与えるためには、言葉で説明してから患者との接点を作ることを意識するとよいでしょう。


事前撮影で研修が効率的に進行
 
 動画から得られた改善点を基に、テレビ会議システムを利用してオンラインでフィードバック研修を行いました。表1の評価結果はスタッフ全員分をまとめて記載していますが、実際の研修では、一人ひとりに自分の動画を見てもらい、それに対して細かくコメントをしていくスタイルで行いました。

 従来の対面型の研修でも、その場で動画を撮影し、それを見ながらフィードバックを行ってはいたのですが、オンライン研修のために事前に撮影しておくことで時間を効率的に使うことができました。動画を基にしたフィードバックも一人ひとりに丁寧に行うことが可能です。

 当社は2年以上前から、遠方の事業所に対してオンライン研修を行っています。患者さん役をスタッフに行ってもらうことで覆面調査ならではの良さは失われるのですが、「染みついた癖」や「良かれと思ってやっていたけど改善すべき点」などは逆に浮き彫りになる印象です。院長も「オンラインでこれほどの研修ができるとは想像していなかった」と大変驚いており、今後も継続的に実施していきたいとのことでした。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐ウィズコロナ時代だからこそできる職員研修をしていますか。
☐「第一印象を決める最初の30秒」を意識していますか。
☐改善すべき「染みついた癖・しぐさ」はありませんか。
 
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