改善事例

2021.01.18

覆面調査ルポ 逆ギレして壁を蹴る職員、院長の指導にも問題

Case10  職員のだらしなさを放置していた診療所

 今回のご依頼は女性の院長からでした。受付、看護師とも、若い独身女性が多いクリニックです。スタッフのだらしなさが非常に気になり、注意すべきかどうか、注意するにしてもどのように伝えるべきかという相談がありました。

 院長の話によると、何人かのスタッフは、着用していたユニフォームを脱ぎっぱなしでロッカーの前に置いたまま帰宅してしまったり、靴を靴箱に入れないばかりか、揃えることもせずに、いつも玄関に脱ぎっぱなしだそうです。またユニフォームを全然洗わず、汚れたまま着用していることも見受けられたとのこと。

 さらには業務でも、院長や非常勤医からの指示に対して、返事をしない場合も少なくないとのことです。こうした非常識に感じられるマナーについて、大人のスタッフに対して、どこまで注意すべきか院長は悩んでいました。「親が子どもに向かってするような『しつけ』まで院長が行わなければならないのか?」「お小言のようなことまでは言いづらい」――という同様の悩みはよく聞かれます。

 そうした悩みを訴えてこられた院長先生に、弊社の覆面調査サービス(サロン・ド・クリニック)のご提案をすることがあります。スタッフのだらしなさは、患者にも伝わり、悪い影響が出ていることがよくあるためです。患者に悪影響があるのならば、それを理由として「しつけ」のような業務上の指示もやりやすくなります。


診療面でもマイナスイメージを持たれる恐れ

 

 さっそく覆面調査員A子がクリニックに伺いました。受付職員は、第一声が「こんにちは」と感じの良い挨拶ができていて、比較的良い印象でした。しかし、気になったのは受付後方にあるキャビネットの引き出しが少しずつ開いていたことです。きちんと閉めることが習慣になっていないため、使用したところが少しずつ開いているのです。中の書類が飛び出ているところまでありました。

 またユニフォームにしわが寄っていたり、裾がほつれている方がいました。待合室のソファは破れている箇所がそのままになっていて、壁紙は剥がれたり破れたりしているところもありました。

 このように、職員の身だしなみや院内の内装といった“見た目”が乱れていると、だらしのなさが医療の質まで影響しているのではないかと患者は不安になります。しわが寄っても破れていても、そのままにしておくというのは、診療においても「これくらい大丈夫」「まあ気にしないでおこう」「完璧ではなくとも適当でよい」という考えで医療行為を行っているのではないかと思われてしまう恐れがあります。

 「メラビアンの法則」で言われているように、対人コミュニケーションにおいて見た目は大きな影響を及ぼします。身だしなみが乱れていたり、不潔であるだけで医療行為にも不信感を持たれるとしたら本当にもったいないことです。

 

今回の事例のスコア

100点中42点でした。


 当初は、院長からスタッフのだらしのなさについて相談があったため覆面調査を行ったのですが、調査後に身分を明かしてヒアリングを行ったりバックヤードを見せてもらうと、様々な事実が浮き彫りになってきました。

 院長が業務指示をしても「別の仕事をしているのでその仕事はできない」と断わられるケースが頻繁に発生しているとのことでした。またどうしても担ってもらいたい仕事を何度も依頼をしたら、職員が怒り出して患者の前で壁を蹴るという事件も発生していました。

 その他にも、診察室で使用するタオルが干されているのに、自分の脱いだストッキングをその上に掛けているなど、共有部分の更衣室とは思えないような使用方法が見受けられました。院長がこうした状況を注意することができないまま日々が過ぎていたのです。

 思い切って院長が身だしなみを注意すると「先生だって前髪長いじゃないですか!」と口ごたえされたそうです。

 このように指揮命令系統が全く機能していない状態では、クリニックの雰囲気が悪くなるばかりか、診察さえスムーズに進まなくなってしまいます。院長の指示に誰も従わない状態になると、声が大きい人の発言が幅を利かせるようになって、正直者が損をするという雰囲気が形成され、モラルやモチベーションが低下することになります。

 今回の調査をきっかけとして、組織の乱れを重く捉えた院長は全てのスタッフに面談を行いました。それぞれのスタッフが感じているクリニックの問題について、1人15分以上のヒアリングを実施したのです。するとスタッフは、普段注意をされることがほとんどないのに、突然、思い出したように院長が激高して注意することに対して、反感を持っていると分かりました。

 このケースでは、心優しい院長が日ごろはスタッフに遠慮して注意をせず、ストレスがたまった時にだけ感情的になって注意をしてしまうことが、規律の乱れの原因となっていたのです。院長は、規律の乱れの背景に、自らの接し方の問題があると知り、驚くとともに随分考えさせられたようでした。

 組織の乱れを再建するためには、教育学者の森信三氏が提唱した「組織再建の3原則」がとても有効です。

1)場を清める
2)時を守る
3)礼を正す

 場を清めるというのは、具体的には、靴を片付け、整理整頓や清掃を徹底することです。時を守るというのは、時間前行動を心掛ける、期日までに仕事を終わらせるなど時間を守ること、礼を正すは、挨拶や返事をタイムリーにきちんと行うことを指します。院長は、思い出したようにこれらの点を注意するのではなく、普段からその動機付けを行うよう心掛けることにしました。

 まずクリニックで守るべきルールを明確にし、ルールを守ることができた場合は褒め、守れなかった場合は指導。整理整頓が行き届いていない場合などは、その日のうちに具体的に注意することを徹底し、返事をしないスタッフに対しても、気付いたときは都度伝えるようにしました。決して感情的になるのではなく、プライドを傷付けないように事実をそっと伝えることを続けました。

 こうした指導を徹底すると同時に、改善されたり、努力の跡が見られる事柄については、従来の3倍褒めるように努めました。返事が「はい」としっかりできたとき、アイコンタクトを取りながら笑顔で挨拶ができたときなど、一見当たり前に思えるような内容でも、良かったことは必ず伝えるようにしました。

 組織改善に向けた行動を開始してから2カ月が経過しましたが、だんだん規律が守られるようになり、スタッフの表情も明るくなってきました。スタッフは院長が自分たちのために気遣ってくれ、見守ってくれていると感じるようになったのです。

 院長自身が考え方や態度をほんの少し変えるだけでほとんどの問題は解決します。院長の気分で指導するのではなく、ルールに沿って適切に指導していくのです。簡単なようでいて大人でもこれらができていないケースは少なくありません。

 ルールを決めて明文化し、ルールに沿って行動することが重要です。院長は、ルール徹底のための声掛けをした日には、普段使用している手帳に丸印を付け、自分自身のモチベーションも上げることで、継続、習慣化につなげました。このように組織の規律の基本を徹底することが大きな成果をもたらします。
 
〔今回のチェックポイント〕
☐「場を清める、時を守る、礼を正す」を実践しているか
☐患者視点を持ちながら注意をしているか
☐気分、感情ではなく、事実に基づいてタイムリーに指導しているか
 
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