改善事例

2022.02.07

覆面調査ルポ コロナ検査を勝手に断るスタッフ…どう注意する?

Case49 受付職員が自分勝手に行動する小児科・内科診療所

 今回の舞台は、住宅街にある小児科と内科を併設したクリニックです。「私の見えないところで受付スタッフがどのような振る舞いをしているのか教えてほしい」という院長の申し出があり、覆面調査を実施しました。

 院長の話によると、受付スタッフのうちの1人が業者さんの来訪を断ったり、院長宛ての電話を自己判断で切ったりしたことがあったそうです。この調子だと、患者対応でも同じような問題が起きているのではないかと不安を覚えたために、調査を依頼したとのことです。

「あ、うちではやっていません」


 早速、覆面調査員A子が調査に向かいました。

 今回のクリニックは駅から徒歩10分ほどの住宅街にありましたが、道順が分かりにくかったです。住宅街は目印が少ないので、アクセスの案内は工夫が必要だと感じました。敷地近くにたどり着くと、クリニックの大きな看板が目に入ったので、通り過ぎたり、間違えたりすることはありませんでした。

 クリニックは北欧風かつ清潔な外観で、幅広い年代に受け入れられやすいと感じました。入り口から入ると、20歳代の若い2人の女性が受付を担当していました。こちらが話しかけても表情は固く、笑顔は見られませんでした。髪の長い方は後ろで1つに束ねていましたが、前髪を両サイドで長く垂らしていたため、顔が若干隠れることもあり、きちんとまとめて結ぶか、ピンなどで留めた方が清潔な印象を与えると感じました。

 他の患者の皆さんが受付で慣れた様子で診察券を渡していたので、A子はどのスタッフに初診の受付を依頼すればよいか迷っていましたが、特に先に声をかけてもらえませんでした。こちらから初診で来た旨を伝えると「あっそうですか。保険証お願いします」と言われ、特にあいさつはありませんでした。特に初めて来る患者は、どこで初診の受付をしてもらえるのか、診察を待つ場所はどこか、診察室はどこかなど、スタッフにとっては当たり前のことが分からないことも多いので、早めに声をかけると安心感を与えられます。患者の姿が入り口から見えたらすぐにお声がけするとよいと思いました。

 言葉遣いは、「~だよね、うん」といった相づちが聞かれ、少しカジュアル過ぎると感じました。スタッフ間でも「です・ます」を使うようにして、返事は「はい」にするとよいと思います。

 小さなお子さんに対して「よくがんばっているね」「すごいね」など、子どもが前向きになる言葉を積極的にかけていて、子どもも親も安心して受診できると感じました。相手の気持ちを明るく前向きにする言葉を敬語で伝えると、大人にとっても子どもにとっても、うれしいものだと思います。

 一方で、心配に感じたこともありました。A子が待合室で順番を待っていたとき、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査を希望したと思われる人から受付に電話がかかってきたのですが、「あ、うちではやっていません。○○病院に行ってください」とピシャリと断ったのです。代替案を提案していたのはよいと思いますが、言い方が早口で、間髪入れずに断っていたので、気になりました。お断りするときは、「申し訳ございませんが」というクッション言葉を付けてから伝えると、表現が柔らかくなります。

 全体として、医師、看護師は明るく優しい雰囲気でしたが、院長が不安に感じている受付スタッフに関しては、患者本位の対応をあまりしていないように見えました。

 

今回の診療所のスコア


100点中52点でした。


業者を勝手に追い出す事件も
 
 覆面調査の結果を院長に伝えると、院長は「えー! そんなことまで勝手にしていたんだ」と驚きました。院長によると、COVID-19の検査は以前は実施していなかったのですが、ちょうど今月から実施する方針に変更したとのことでした。スタッフミーティングで方針の変更を伝えた際も、このスタッフはひどく嫌がっていて、「コロナの検査、大変だからやりたくないです」と言っていたそうです。つまり、「自分が関わりたくない」というだけで、患者さんからの電話を断っていたのです。

 また、勝手な行動をとるスタッフは他にもいるとのことでした。院長が待ち時間解消のため、受付順番待ちシステムを導入しようとしたときのことです。ある受付スタッフは、「そんなの面倒だからいらないですよー」と最初から反対していました。ある日、院長が受付順番待ちシステムの業者さんから話を聞くために、診療時間終了後に訪問してもらう約束をしていたのですが、診療が長引いて対応ができないでいると、その受付スタッフが勝手に、その業者さんを追い返してしまったそうです。

 私も、これまでに様々な困ったスタッフさんにお会いしてきましたが、今回のように院長の指示に従わず、自己本位な対応をする人はさすがに珍しく、エピソードを聞いて私も驚いてしまいました。


「自分を知る」ことがコミュニケーションの第一歩
 
 フィードバック研修は2回にわたって行いました。

 1回目は覆面調査のフィードバックを含む通常の接遇研修で、2回目はコミュニケーションスキルの向上に重点を置いた研修です。

 この受付スタッフも、「院長を困らせたい」と思って自己本位な対応をしているのではなく、精神的に未熟な部分があるのか、自分の感情を自覚したり、他者の感情や医療機関の方針を理解することが苦手なために今回のような行動を取ったものと考えられます。この根源には、コミュニケーションの問題がある可能性が高いのです。

 コミュニケーションスキルを向上させるためには、まず「自分を知る」ことが大切です。自分の感情、信念、価値観を知り、それを1つの物差しにすることができると、「他人」と同じ部分、違う部分が明らかになってきて、「他人を知る」ことができるようになります。

 心理学者ジョセフ・ルフト (Joseph Luft) とハリ・インガム (Harry Ingham) が考案した対人関係におけるモデルとして、「ジョハリの窓」と呼ばれる考え方があります(図2)。これによれば、自分が知っている自分と他人が知っている自分の領域を大きくすることによって、対人関係のずれが軽減され、コミュニケーションが円滑に取れるようになります。

 

図2 ジョハリの窓

 つまり「自分は知っているけれど、他人は知らない部分」は自己開示し、「他人は知っているけれど、自分は知らない部分」はフィードバックを受けることで、自分も他人も知っている領域を増やしていくのです。


他者からの評価をソフトに伝えるには?
 
 今回の研修では、自分も他人も知っている領域を増やすために、「自分は知らないけれど、他人は知っている」部分をフィードバックする「性格フィードバック」というワークを行いました。このワークは、組織内に無自覚で感情のまま行動してしまう人がいるときに、その事実を本人にソフトに気付かせる効果があります。

 ワークの方法は以下の通りです。まずは簡単なエゴグラムテストを実施し、自分の性格の傾向を知ります。エゴグラムテストというのは、その人の心の特徴を明らかにするテストです。心の特徴ですから、良い・悪いを判断するものではありません。エゴグラムでは、人の心を5つに分類し、その5つの自我状態が放出する心的エネルギーの高さを折れ線グラフで示します。5つの心の特徴は以下の通りです。
 

エゴグラムにおける5つの心の特徴

批判的な親心(CP)……責任感が強い、理想や信念を持っている、厳しい、批判的

養育的な親心(NP)……養育的、保護的、受容的、優しい、甘やかし、お節介

理性的な大人心(A)……理性的、客観的、分析的、冷静、理屈っぽい、冷淡

自由な子ども心(FC)……創造的、積極的、元気、自由奔放、衝動的、わがまま

従順な子ども心(AC)……従順、素直、遠慮がち、人見知り、消極的、依存的

※諏訪茂樹著『コミュニケーショントレーニング(改訂新版)─人と組織を育てる』(経団連出版、2012年)より
 

 まずはスタッフの皆さんにエゴグラムテストのシートを配布し、自分自身の心の特徴を確認してもらいます。自己評価の段階では、自分の診断を他の人に見せず、次に性格フィードバックのシートを配布します(図3)。

図3 研修で用いる性格フィードバックシート(抜粋)

 
 性格フィードバックシートでは、氏名の欄に書かれた人の性格について同僚に考えてもらいます。エゴグラムの5つの心の特徴のうち、氏名欄の人はどれが強いと思うか記入していきます。例えばCPという特徴が強いと感じれば斜線を2つ、普通だと思えば斜線を1つ、弱いと感じられれば斜線を引かないというように、自分以外のスタッフ全員(今回は10人だったので、最大値は20)に記入してもらいます。全員に記入してもらったら、本人にその性格フィードバックシートを渡します。

 すると、他人から見て自分がどう見えるのかが、数値で確認できます。エゴグラムテストの結果シートには、黒ペンで自己評価による数値を、赤ペンで性格フィードバックによる数値をそれぞれ折れ線グラフで記入します。

 記入したグラフを見ると、看護師の皆さんは比較的、自己評価と他の人の評価の折れ線グラフの形が似ていました。つまり、自分の思っている自分と他の人が思っている自分にそれほど違いがなかったのです。

 反対に、受付スタッフの2人は、自分の診断と他の人の診断に大きなかい離が見られました。

 自己評価で「養育的な親心(NP)」と「従順な子ども心(AC)」が高いとしていたスタッフは、性格フィードバックでは「批判的な親心(CP)」が一番高いパラメーターを示し、NPやACは低い値でした。つまり、自分としては優しくて従順だと思っていたのに、責任感が強く、批判的であり、周りからは優しいとか従順といった性格には見えていなかったということが分かりました。

 また、「自由な子ども心(FC)」と「理性的な大人心(A)」が高いと自己評価していたスタッフは、FCは周りの評価でも最大値を示していました。つまり、どのスタッフから見ても「元気で自由奔放でわがまま」に見えていたのです。本人もある程度は自分のことを自由人だと思っていたのですが、ここまで自己中心的に見えているとは気付いていませんでした。さらに、自分では高いと思っていたAが、他人からのフィードバックではゼロに近かったのです。


全体ミーティングでは伝わらないこともある
 
 このように、自分の評価と他人の評価にかい離のある人は、院長がクリニックのスタッフ全員に注意をしたり、方針を伝えたりしても、「これは自分が言われていることじゃないからいいや」などと、ストレートに伝わらないことがあります。ですから、本人に個別にかみ砕いて目的を伝えたり、疑問や質問を確認して、誤解のないよう理解してもらうことが求められるのです。

 院長は今回の結果を受けて、受付スタッフの自己本位に見える行動は、本人としては悪気もなく自分の感情だけで行動してしまっていること、院長は全体ミーティングで方針を伝えていたものの、それをスタッフが深く理解できていなかったことに気付いたとのことでした。

 自己評価と他者からの評価にかい離があり、コミュニケーションを取りにくい人と一緒に仕事をするのは大変な面もあるでしょう。でも、コミュニケーションのスキルはワークによって向上します。辛抱強くトレーニングすれば、解決することも多くありますので、参考になさってください。

 
〔チェックポイント〕
☐方針、指示、報告が伝わっているか確認していますか
☐自分勝手に見える行動は何がそうさせているかを想像していますか
☐お互いに納得するまで話し合っていますか
 
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