改善事例

2021.02.08

覆面調査ルポ 職員が苦情対応を間違え、火に油を注ぐ結果に

Case13  受付職員の対応に問題を抱えるクリニック

 今回は、ある整形外科クリニックの40歳代の院長からご依頼を受けたケースです。このクリニックは開業したばかりで、接遇に力を入れていきたいとの思いから、現状を評価してほしいとのことで依頼を受けました。看護スタッフは院長が前に勤務していた病院からの転籍で信頼関係は構築できており、院長も患者接遇には問題がないと感じていました。ただ事務スタッフは全員新たに雇用したので、不安が大きいというのです。

 そこで早速、弊社の覆面調査サービスである「サロン・ド・クリニック」を実施することになりました。


素晴らしいエントランスも受付で印象が一変!

 
 弊社の覆面調査員A子がクリニックを訪れました。さすがに開業したばかりの郊外型の整形外科です。国道からのアクセスが分かりやすく、駐車場も平面駐車場で停めやすく、まずは好印象でした。外観はすっきりとした白と青を基調としたシンプルなデザインで清潔感があり、住民へのアピール度は高そうです。

 自動ドアが開き、中に入ると、入り口近くの掲示板には患者の笑顔の写真と、院長やクリニックのスタッフに対する感謝のメッセージがたくさん貼ってありました。「なんて明るく温かい雰囲気のクリニックだろう」と感じながら、A子は受付へと足を運びました。

 ところが、受付でそれまでの印象は一変しました。受付スタッフからは、やる気や心遣いが感じられず、事務的に淡々としているだけなのです。クリニックの掲示板の感謝と喜びにあふれた雰囲気に比べて、正直、かなりの温度差を感じました。かえって掲示板の内容が空々しく感じられるほどです。

 A子が「初診ですが」と声を掛けると、特に挨拶も気の利いた声掛けもなく、「保険証はここに入れてください」と言われただけでした。

 ここでA子は、患者がスタッフにクレームをつける場面を目撃しました。受付カウンターで会計をしていた女性患者が、苦情を述べているのが聞こえてきたのです。

「まだ診察券を返してもらっていませんけど」

「あの~返してなかったですか~、え~、あの~さっき誰かが持って行ったかも……」と受付スタッフはうつむいてもぞもぞ言っています。

「なくしたんですか?」

「あの~その~、私にはよく分かりません」

 しばらく苦情を言っていたようだったのですが、スタッフは「分かりません」というあいまいな返事に終始。患者は「そろそろバスの時間なので、いい加減にしてください。もう帰ります!」と言って、クリニックを足早に出ていきました。

 受付スタッフはその後、診察室の方に行き、報告をしていたようでしたが、そのまま何もなかったかのように業務を続けました。


女性患者の夫から院長に怒りの電話が…

 
 覆面調査を終えて、院長にこの件について報告をしました。事実を確認すると、診察券は結局、受付のマニュアルと書類の間に挟まっていたそうです。

 

今回の診療所のスコア

100点中44点でした。


 しかしながら、受付スタッフは、「当初から診察券は預かっていない」「自分は悪くない」と思っていたため、患者に誠意ある謝罪ができなかったとのことでした。結局、単純な受付スタッフによるミスであったので、すぐに受付スタッフから患者の自宅に電話をしたものの、つながりませんでした。そこで、すぐに患者に謝罪文書と診察券を郵送しました。

 しかし、その日の夕方、大変立腹した女性患者の夫から院長宛に電話がかかってきました。「診察券を紛失したのにお詫びもなく、理由の説明もない」「業務管理の仕方がおかしい。院長のマネジメントにも問題があるのではないか」とかなり怒り心頭の様子であったそうです。

 このように、患者は発生した不愉快な出来事に対して、感情的に非難、批判をし、不信感を持ちます。加えて、起きたことへの対応がまずいと、それが増幅してしまうので、苦情は初期の対応が一番重要です。


誰の過失か分からない場合の対応法

 
 医療の現場では、患者の勘違いなのか、スタッフの過失なのか、苦情が発生した時点では、分からないことが多いものです。ましてや医療事故などの場合は、安易な謝罪が、その後大きな問題となることがあります。

 しかしながら、どちらが悪いか分からないとしても、相手が不快な思いをしていることに変わりはないのです。ですから、その不愉快な思いをしていることに対して、共感の気持ちを伝えて「お詫び」をすることが重要です。

活用しやすい言い回しとしては、
「不愉快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
「この度はご心配をおかけしております」
「お忙しいところ、お時間をとらせてしまい申し訳ございません」
など、不快な思いをさせたこと、時間を割かせたことに対してお詫びをするのです。

これはこちらが非を認めて「謝罪」するのとは違います。
「もう少し、詳しくお話をお聞かせくださいませんか?」と促し、座ってゆっくりお話しできる環境に場所を移すことも有効です。

共感しながら、ゆっくり話を聞くことにより、相手の感情が落ち着いたところで
「すぐに確認して参りますので少々お待ちくださいませ」
「早急にお調べして改めてご連絡いたします。しばらくお時間を頂きたいと存じます。何とぞよろしくお願いいたします」
と伝え、慎重に事実確認を進めます。

 またスタッフ本位の言い訳は絶対にしないようにします。「私のせいではないのですが……」「私は知らなかったので……」という言葉は、相手の怒りの炎に油を注ぐことになります。

 そのほかにもただ「すみません」を連発したり、黙ったままうつむくのも、誠意を持って話を聞いていないという印象を与え、どんどん相手の怒りはエスカレートしてしまいます。

苦情の初期対応のポイントを以下の通りまとめました。パートスタッフも含め、クリニックのスタッフ全員で共有するとよいでしょう。

 

・ 相手の言い分を十分聞き、途中で話を遮らない
・ 不快な思い、時間を割かせたことに対してのお詫びの言葉を述べる
・ 安易な謝罪はしない
・ 十分に話を聞く姿勢を取る
・ 相手には最大の誠意を表現する
・ 対応、行動は早く。遅いと評価されない

 
 今回のクリニックでは、その後の研修で上記のような苦情対応の基本を伝えました。研修では、当該クリニックで実際にあった苦情事例を紹介。4~6人のグループに分かれて、問題点は何か、どうすれば苦情を防ぐことができたか、苦情にはどのように対処すべきかについて話し合いを行いました。

 最後に、苦情が発生してしまった場合の対応について、脚本を作り、最高だと考える対応をロールプレイで発表してもらいました。それをビデオに撮影し、自分たちの姿を改めて見ることにより、相手に共感した表情で声をかけることができているか、具体的な言葉の言い回しが適切だったのかを気付いてもらえるようにしたのです。

 このクリニックの受付職員にやる気や心遣いが感じられなかった点については、個別に面談を実施しヒアリングを行ったところ、職場は気に入っているし、できれば長く勤めたいと思って頑張っているとのこと。やる気がないわけではなく、無表情であり、声のトーンが事務的で暗いことからやる気が伝わってこないのだと分かりました。

 受付職員は、研修でビデオに撮影された自身の姿を見て、自分たちの事務的な対応や自己本位な対応に気付くことができ、改善につながりました。やはり百聞は一見に如かず、自身の姿を客観的に見ることの重要性を再認識しました。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐苦情があったときの初期対応のポイントは理解しているか
☐謝罪とお詫びの違いを理解しているか
☐ミスを防ぐ業務手順書を整備しているか
 
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