覆面調査ルポ

2021.02.15

覆面調査ルポ 「怖すぎる」と苦情相次ぐ電話応対、自主研修が裏目に

Case14 事務職の電話応対に問題を抱える眼科クリニック

 今回は、ある眼科クリニックの事例です。40歳代の院長からご依頼がありました。3年前にクリニックを開業したのですが、患者から「電話応対があまりに怖すぎる」という苦情が相次いで届いており、院長は悩んでいました。そこで、今回は電話応対に限定した覆面調査サービス(サロン・ド・クリニック)を実施しました。

 なお、弊社では電話応対のみで覆面調査を実施することも少なくありません。特にクリニックの場合、電話に最初に出た方の応対が印象を決定付けることも少なくないからです。受診する前から「なんか怖そう」と思われるか、「親切そうだ」と思われるかは、クリニックの経営にとって大きな問題なのです。

 


表情の乏しさが推測される応対
 
 早速、弊社の覆面調査員A子がクリニックに電話をかけました。弊社の電話応対調査では、ラジオのナビゲーター経験もある話し方のプロが、チェックに当たっています。

 今回、苦情が相次いでいる職員はいつも電話に出る受付のスタッフではなく、受付スタッフが電話に出られないときに応対する、経理・総務の事務担当の男性スタッフです。

 ですから、受付スタッフが患者対応に追われる時間帯に、A子は電話をかけることにしました。

 第一声は「〇〇クリニックです」と暗くて低い声でした。通常、電話での会話は、普通に話すだけでは暗く聞こえることが多いため、高めの声で出る方が感じが良いものです。目安としては、女性はドレミファソの「ソ」のトーンで、男性は「ミ」のトーンでと言われています。今回のスタッフは「ミ」どころか、「ド」よりも低いトーンで出ていました。

 声の大きさ、滑舌には問題はなく、はっきりと聞き取ることができました。しかし、恐らく一切微笑んでいない、まるで能面のような表情で応対しているのだろうと感じさせるほど、感情が伝わってこない無愛想な対応でした。

 「診察内容についてお聞きしたい」と伝えたのにもかかわらず、「チッ、あの、どういったご用件でしょうか」と、舌打ちをした上、まるで不審者のような扱いをされてしまいました。再度「診察内容のことをお聞きしたいんです」と伝えたところ、5秒ほど無言になり、重苦しい空気が流れました。

 

今回の電話応対のスコア

100点中20点でした。


 終始、迷惑そうな対応をされたため、あまりに恐ろしく、覆面調査にもかかわらずA子は、早く電話を切りたいという衝動に駆られたそうです。クリニックへの道順を尋ねたときは「は?ナビに入れれば大丈夫です」と面倒くさそうに言われ、さらに嫌な気持ちになってしまいました。

 後日、この調査結果を基に、患者応対に当たらない職員も含め、事務スタッフの研修会を開くことになりました。

 私は「どんなに怖そうな方なのか」と、内心ドキドキしながらクリニックに伺いました。すると電話応対をした男性スタッフは、実際にお会いしてみると、極めて誠実に一生懸命お話をされるタイプの方で、決して怖いという印象ではありませんでした。

 それではなぜ、怖いと感じさせてしまったのでしょう。そのクリニックでは、実は少し前から職員同士が自主的に電話応対の研修をしていました。当該の男性スタッフも滑舌練習や言葉使いの練習をしていたのでハキハキとした話し方、正しい言葉使いを身に付けられていました。しかし、その練習には、「心をこめる」ことを考慮していないという大きな欠点があったのです。

 相手の感情に共感して声をかける練習をしていなかったので、相槌が全くありません。また、研修で習得した「正しい言葉使い」や「ハキハキとした話し方」を意識しすぎるあまり、かえって棒読みになってしまい、相手との言葉のキャッチボールが成り立たない状況に陥っていたのです。


心のこもっていない電話応対を改善する方法とは
 
 クリニックでは、電話のやり取りを通じて患者さんが求める情報を提供し、安心してもらうことが重要です。このような本来の目的を職員が認識する必要があります。患者さんが、「思い切って電話をしてよかった」と安心できるように意識すること……、つまりホスピタリティーの気持ちが最も重要なのです。

 単に聞かれたことに答えるだけでなく、相手の気持ちを考え、何が不安で、どうしたら安心してもらえるのかを考えながら話すことにより、心のこもった応対ができるようになります。

 今回の研修では上記のような心構えをまず説明し、当該男性職員には電話応対時の表情と相槌について改善ポイントを実践してもらいました。すると、わずか2時間の研修でしたが、その後落ち着いた誠意が感じられる電話応対に変わったとクリニックから連絡をいただきました。

 改善ポイントの1つは表情です。電話は顔の見えない相手との会話になるので、対面コミュニケーションに比べて自分の表情や相手の表情に対する意識が低下しがちです。そのため電話応対では、実際に目の前に患者さんがいると思って、その方に優しく話しかけるという意識を持つことが不可欠です。

 これを実践するために、電話の前に小さな鏡を置き、電話応対時はその鏡に映った自分の顔に笑顔で話しかけるようにして、意識を高めます。

 もう一つは相槌。電話は顔の見えない相手との会話になるので、ただうなずいただけでは相手に伝わりません。「はい」「そうですね」「承知しました」というように、様々なバリエーションで相槌を打つと、相手は聞いてくれているなと感じ、安心して話すことができます。

 反対に「チッ」「は?」「で?」などと感じたことをそのまま口に出してしまったり、不必要に「へへっ」と笑ったりするのは、不快な印象を与えるので厳禁です。

 電話応対を見直す必要がありそうでしたら、下記の電話応対チェックリストも参考に、職員同士でお互いに確認し合ってみることをお勧めします。

 
【電話応対チェックリスト】
☐姿勢は正しいか、笑顔で受けているか
☐出だしは(ドレミファソの)「ソ」のトーンで始めているか(男性は「ミ」のトーン)
☐相手への気配りができているか(ありがとうございます、お待たせしました)
☐抑揚がありすぎないか、事務的でないか
☐早口でないか
☐語尾上げ・語尾伸ばしがないか
 
日経メディカルオンライン掲載記事はこちら
研修メニューはこちら

PAGETOP