改善事例

2021.10.18

覆面調査ルポ 「ばい菌扱い」されていると感じさせない方法

Case41 感染防止対策を徹底した眼科クリニック

 今回、覆面調査を行ったのは地方都市にある眼科クリニックです。周辺の地域では、最近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規患者数はゼロが続いているのですが、外出自粛の影響で患者数がめっきり減ったようです。患者数の減少は致し方ないものの、地域医療を守るため、診療所を休業することはできません。

 クリニックとしては、スタッフが安心して働けるよう感染防止対策をとっているものの、「患者はどう感じているのだろうか」と院長から相談がありました。

 偶然、弊社スタッフである覆面調査員A子が目に違和感を訴え、眼科を受診するとのことだったので、こちらのクリニックを受診しつつ、覆面調査も実施することになりました。


A子が問診票に手を伸ばすと…
 
 眼科クリニックに行くと、受付にはビニール製のカバーが設置されていて、飛沫感染防止に対する配慮が行き届いているようで安心感がありました。しかし、カバーの奥にいる受付職員からは挨拶がなく、マスクの奥に笑顔も感じられませんでした。

 受付で「初診です」とお伝えしたところ、職員に「保険証をお願いします」と言われたので、A子は保険証を渡しました。するとそのまま奥にいた別の職員に渡し、「住所書いてある?」と尋ねました。奥の職員は「書いてません」と答えていました。

 受付職員はそのやりとりの後、問診票が挟んであるバインダーを手に持って飛沫感染防止カバーの下から顔を出して、「住所を教えてください」と言ってきました。A子は聞き書きをしてもらうのも申し訳なく思い、「自分で書きましょうか」と申し出て問診票に手を伸ばそうとすると、「この時期ですので」と言われて断られました。A子は、しばらく考えてから、「ボールペンの共有を避けて感染を防止するための対応か」と理解できたようです。とはいえ、自身の手が汚いものだと扱われているようで、少々悲しい気持ちになったそうです。

 検査のために3つほど機器を使いました。言葉遣いは丁寧でしたが、早口でパパっと話されていたので、何の検査をしているのか分かりませんでした。会計では思ったより検査費用が高額だったのでA子は驚いたそうです。

 検査が終わるや否や、すぐにA子を案内していた職員とは別の職員がやって来て、無言かつ無表情で使い捨てのアルコールタオルを使って機器を拭きました。自分の検査が終わってからすぐに拭かれると、「ばい菌扱いされているようで、あまり気分のいいものではなかった」とA子は話していました。

 検査を担当したスタッフは、検査後、すぐに手を洗っていました。それ自体は衛生的で好印象だったのですが、その後、洗面台にかかっているスタッフ共有のパイル地のタオルで手を拭いていたのが衛生的ではないようにA子は感じたようです。

 
今回の診療所のスコア


100点中48点でした。


感染防止と接遇は両立できる
 
 前回のコラムでは、マスクを付けたままでの患者対応のコツについて取り上げました。今回も、COVID-19の問題が続く中で非常に難しい「感染防止対策」と「接遇」の両立がテーマです。

 その前に、個人的な思いを書くと、そもそも医療機関というのは第一に「患者の健康を守る」という大切な社会的使命があります。今回の感染症の問題では、スタッフにも感染の危険がある中で、診療を続けることは非常に大変なことだと思います。また患者数が減少しても、感染防止対策を行うために、普段より業務量が増えていることも多いとお聞きしています。

 そんな中で「接遇を両立させる必要があるのか」という意見も当然あるでしょう。ただ、このコラムでも触れましたが、私は「医療機関は患者の心を元気にさせるのが役割の1つ」だと考えています。緊急事態宣言が解除されても、今後もしばらくは感染症と付き合いながら医療を提供していかないといけないでしょう。院長先生やスタッフの皆さんの心に多少の余裕ができたときで構いませんので、改めて患者の心に寄り添うことを意識してみていただければと思います。


感染対策の意図を丁寧に伝える
 
 さて、今回のクリニックでは、職員が安心して働けるように感染防止対策がとられていました。飛沫対策など、このクリニックが取り入れている感染対策自体は間違いではありません。ただし、それによって患者に「感染者(ばい菌)扱いされている」という印象を与え、悲しい気持ちにさせてしまうことは避けたいものです。

 解決策の1つが、「感染対策を行っている」という説明を丁寧に行うことです。A子のケースでは、A子が問診票を書こうと申し出たところ、職員が「この時期ですので」と言うだけで断りました。このシーンでは、「現在、感染防止のため、問診票は私どもで記入しております。恐れ入りますが、ご住所を教えていただけますか?」と尋ねることで、印象はガラッと変わります。せっかく感染防止に取り組んでいるのですから、患者に誤解を与えてはもったいないと思います。

 今は、「問診票は職員が書く」といった内容をあらかじめ受付の近くに掲示している医療機関も多いでしょう。しかし、その場合でも患者が問診票を書くと申し出たときには口頭による説明が必要になります。患者が問診票の記載を申し出た時点で掲示を読んでいないことは明らかなのですから、「掲示にも書いてあるでしょ」という態度で接するのは、相手の気分を害することになってしまいます。

 また、A子のケースでは、検査終了後にすぐに機器のアルコール消毒が行われました。この時期は特に、患者が使用した機器をアルコールで拭くことは適切な行為だと思いますが、可能であれば、使用した患者が見ていないときに拭いたり、患者の目の前で拭かなければならないときは、「失礼します」と会釈をしてから拭くと配慮が感じられます。


職員から患者への感染防止も配慮を
 
 今回のクリニックでは、患者から職員への感染を防ぐという点に関しては、対策が進んでいるようでした。しかし、職員から患者に感染させるかもしれないという視点があまり感じられなかったようです。COVID-19は新しい感染症であるため、感染に対する恐怖感は人によって大きく異なります。「相手が無症状であったとしても感染していて、うつされる可能性がある」と考える患者も多くいますので、この点についても留意することが必要です。

 例えば今回では、職員が「住所を教えてください」と言った際、問診票のバインダーを手に持ったまま飛沫感染防止カバーの下から顔を出しました。マスクをしながらカバー越しで話すと、どうしても声が届きにくくなりますし、患者の中には耳が遠い人もいるため、もちろん限界はあるのですが、感染防止の観点から、まずはできるだけカバー越しに話すようにした方がよいと感じます。

 また、検査を担当したスタッフは洗面台にかかっているスタッフ共有のパイル地のタオルで手を拭いていました。一部の職員は、せっかく手を洗っていたのに、何度も自分の髪の毛を触っていたようです。これからの時代、「感染管理」に関する患者の目が以前より厳しくなるのは事実でしょう。改めて、可能な範囲で院内の対応を考え直してもいいのではないかと、このクリニックの院長にはお話ししました。

 感染症が蔓延し、不要不急の外出の自粛が要請されている中で医療機関を受診する患者の不安は、大きく分けて2つあります。1つは「医療機関に行くことで自分が感染するのではないか」ということ、そしてもう1つは、本来は自粛しなければならないのにそれを無視して受診したと思われ、「周りの人に非難されるのではないか」という不安です。そもそも患者は不安を抱いて医療機関を訪れるものですが、その不安は以前より増しており、ぜひそうした不安な気持ちに寄り添っていただければと思います。

 改めて、地域住民の不安を解消するために感染リスクを感じながらも働き続ける医療機関のスタッフの方々に、私たちは心より敬服しています。だからこそ、このような危機的状況におけるスタッフの皆さんの努力や頑張りが患者に伝わり、「この地域にこの医療機関があって安心できた」と思ってもらえるような関係が構築できることをお祈りしております。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐患者や取引業者さんから、スタッフを守る感染防止対策はしていますか。
☐スタッフから患者に感染させないような対策はしていますか。
☐感染防止対策の意図を患者に丁寧に伝えていますか。
 
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