改善事例

2020.12.28

覆面調査ルポ 陰口と不満ばかり「ダメ医院」が生まれ変わった

 今回は、新年の最初のコラムということで、対応が素晴らしく、覆面調査で高得点を獲得した事例をお伝えしたいと思います。

 取り上げるクリニックは整形外科の無床診療所で、実は当初、陰口や不満ばかり言い、周囲のやる気を停滞させるスタッフが複数名在籍し、院長と事務長がとても困っていました。

 主任として採用した看護師が、同僚の仕事ぶりについて「あんなやり方はあり得ない」「○○さんは、全然仕事ができなくて困る」と、公然と批判。院長に対しても、「あの院長、どう思う? 本当、最低よね」と他のスタッフに同意を強要するようにネガティブキャンペーンを繰り広げていたのです。

 他にも、「このクリニックの給料は普通よりずっと低いのよ。院長が報酬を取り過ぎだから私たちの給料が低いってこと、あなたは分かってる?」と、その不平不満は労働条件にまで及び、この看護師に引きずられるように他のスタッフも様々な陰口や不満を言うようになりました。職場の雰囲気が悪化したことはサービス面にも影を落とし、患者応対のレベルが下がってしまったのです。

 しかしその後、私どもがホスピタリティー・マナー研修、覆面調査を継続して職場風土の改善をお手伝いさせていただいた結果、スタッフ一人ひとりが自立し、自ら考え、患者の立場で対応することができるようになりました。

 ここで、クリニックで最後に行った覆面調査の結果をお示しします。初回に調査に入った際は、どの項目もかなり得点が低かったのですが、改善活動を経て点数は上昇。3回目の調査で97点という高得点を挙げました。

 

今回の診療所のスコア

100点中97点でした。


雰囲気の悪いクリニックが生まれ変わるまで

 

 改善活動としてまず行ったのは、アンケートにより職場の問題点を明確にすることです。職場のルールが守られているか、不公平感がないか、組織で安心して働くことができているか――についてのアンケートです。

 アンケート実施後、浮き彫りになった問題点を逐一検証。クリニックのメンバーを集め、どうしたら理想のクリニックになるかを話し合い、スタッフ自身が考えたアイデアを基にルールを決めました。例えば、「スタッフ同士でも、笑顔で相手の目を見て挨拶を行う」「悪口、陰口は言わない」「患者の状況をきめ細かく観察し、真に必要とされているサービスを提供する」「業務上の問題点があれば事務長に伝える」といった基本的でありながら実行できていないことを、100%実施できるよう目標を立てて、徹底して行いました。

 決めた項目を一人ひとりが実施できたかどうかを毎日チェックすることも始めました。すると、当初問題があった看護師は、クリニックの居心地が悪くなり、退職するに至ったのです。

 院長や事務長はスタッフの退職を非常に恐れていたのですが、結果的に看護師部門の雰囲気が良くなり、他職種も含めた全スタッフの離職率が低下し、ホスピタリティーを大切にするスタッフが集まるようにもなりました。

 このクリニックのように、職員の退職を恐れて院長が介入しきれない例はよく見られますが、トップが「辞められても構わない」と腹をくくり、強い意思を持って臨むことで、事態が好転することは多々あります。

以下にご説明するのは、3回目の調査時の模様です。


入口外の様子まできめ細かくチェック

 

 覆面調査員のA子がクリニックの入り口に入ると、受付スタッフの「おはようございます」の挨拶が聞こえました。2階のリハビリ室からも患者に挨拶をしているスタッフの声が聞こえます。挨拶の声は大き過ぎず、元気をもらえるクリニックだと思いました。スタッフ全員が笑顔にあふれ、患者に話し掛けられやすい表情を意識することができていました。

 マスクをしているスタッフからも、目の表情に笑顔が感じられました。けがをした患者には「これは、痛みますね。お辛いことだと思いますが、診察までしばらくお待ちいただけますか」と共感の表情と言葉を添えて、心を込めた対応することができていました。

 さらに、タクシーで来院した患者にすぐ気付き、車イスを準備し出迎えをしていました。診察券を出すために受付カウンターに来た患者だけでなく、ドアのガラスの向こうに見える患者にも素早く気付き、思いやりのある対応ができるのは、素晴らしいことだと思います。

 リハビリのスタッフも、患者に話し掛けるときは目線を合わせるために常に腰を下ろし、胸の名札を見せながら名前を述べて挨拶しており、とても好感が持てる対応でした。


スタッフ同士のスムーズな連携で安心の対応

 

 1階が診察室、2階がリハビリフロアとなっているのですが、スタッフ同士が連携して素晴らしい患者対応ができていたのも注目されるポイントです。高齢の患者に階段を利用してもらう際は、1階と2階のスタッフがお互いに声を掛け合い、見守りを実施することで、安全なご案内をしていました。会計の際は、リハビリを終えた患者がすぐに会計できるようにシステムが整っていました。

 スタッフ同士でファイルや物を受け渡しする際も、「お願いします」「ありがとうございます」と笑顔とアイコンタクトを添えて行っていて、温かさが感じられました。こういった細かい行動の積み重ねの結果作られた場の雰囲気を患者は敏感に感じ取り、居心地の良さとして認識するのです。


思いやりの心を意味するホスピタリティー

 

 私はホスピタリティーコンサルタントとしてクリニックに関わっていますが、読者の方々は「ホスピタリティー」とはどのような意味だとお思いになりますか? ホスピタル(病院)と同じ語源なのですが、ホスピタリティーというのは、「思いやりの心、おもてなしの心」という意味です。クリニックのスタッフの応対で必要なものは、何よりも患者を思いやり、安心していただく、元気になっていただくために、心を込めて対応することです。例えば、高齢の患者に対応するときは、耳が遠いのではないか、体で不自由なところがないか――と想像します。

 次に様子をよく観察します。そこで、耳が遠いことを察したら、通常の患者に対応するときより少し近づいて、大きな口でゆっくりと話したり、相手に伝わったかどうか、丁寧に優しく確認することが、心を込めて対応する1つの方法です。

 元客室乗務員など接客のプロフェッショナルによる接遇研修は、近年、多くの医療機関で導入されるようになってきました。しかしながら、お辞儀の角度とか笑顔の作り方とか、マナー、礼儀作法だけの接遇研修では、患者中心の温かいクリニックになることはありません。

 どんなにそのようなテクニックを「知っていた」としても、クリニックのスタッフの一人ひとりが、患者様に「安心していただこう」「元気になっていただこう」という気持ちがなければ、形だけの慇懃無礼な対応になってしまうのです。

 安心して前向きな気持ちでスタッフが働く組織風土ができているクリニックであれば、ホスピタリティーの気持ちを醸成するマナー研修も効果があります。なぜなら、スタッフの一人ひとりがその必要性と効果を認識し、自ら行動し、成果が出るからです。しかし、ネガティブで、やる気が感じられないスタッフが多いと、単なるマナー・接遇研修を実施しても、大きな効果が得られません。まずは前向きにやる気のある組織となるよう風土を変える必要があるのです。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐前向きでやる気のあるスタッフがクリニックの8割以上を占めているか
☐患者に安心してもらいたい、元気になってもらいたいという意識を高める取り組みを行っているか
☐思いやりの気持ちを伝える方法(マナーや気配りの工夫)を学んだり、共有する機会を作っているか

 

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