改善事例

2020.11.09

覆面調査ルポ「何しに来たの」と言わんばかりの受付職員

 はじめまして。医療・介護事業者などへのスタッフ教育事業を手掛けるホスピタリティ・コンサルタントの榊原陽子と申します。

 私どもマザーリーフは、全国の医療機関でサロン・ド・クリニックという覆面調査のサービスを提供しています。医療機関から依頼を受け、元客室乗務員である弊社社員が患者や利用者の家族になりすまし、良い点や課題を抽出してフィードバック研修を実施、課題の解決をお手伝いするというサービスです。

 診療所の中にいる医師やスタッフには、患者の視点や思いはなかなか分かりづらいと思います。私たちは覆面調査で、スタッフの方々の表情や言葉遣い、チームワーク、心遣い、医療機関の内装や表示の分かりやすさなどを、患者視点で細かくチェックします。さらに、目に見える問題点だけでなく、スタッフ間の人間関係など、生じている問題の背景にある事情も洞察するよう心掛けています。

 この連載では、私たちが全国の医療機関で行った覆面調査の結果を、当事者が分からないよう、一部内容を変更してお伝えします。どうぞ貴院の接遇向上などにお役立てください。


Case1 問題ある受付職員に周囲は何も言えず

 今回は、慢性疾患患者への専門治療をメーンに提供する内科診療所で行った覆面調査の様子をお伝えします。調査は、看護師長と医事課スタッフの強い要望を受け、実施しました。

 なんでも受付職員の対応が悪く、患者のみならず提携病院のドクターからもクレームが出ており、看護師長も医事課スタッフも困りきっているとのこと。
 しかしながら、当の受付職員は、事務長(先代院長の奥様)の親友であり、しかもその職員のお子さんは現院長の友人でもあります。

 そんな背景があり、問題意識を持ちながらも事務長は強く注意することができず、周りのスタッフももちろん注意できず、問題が放置されてきました。そこで、私たちは第三者からの視点で、受付の対応が患者にどう見られているのか、気付いてもらうという目的で調査を行いました。

 

今回の診療所のスコア 

100点中56点でした。

 


「初診は受け付けていません」とピシャリ断られる

 

 覆面調査員のA子は、風の強い金曜日の午後、その診療所を訪れました。自動ドアが開き、A子はきょろきょろしながら診療所に入りました。しかし、2人の受付職員に笑顔・会釈はなく、挨拶もありません。このうち1人が問題の職員でした。

「何しに来たの?」と言わんばかりで、不審者でも見るように、怪訝そうな顔でA子を見ています。

「こんにちは。あの風邪で辛いんですけど診てもらえませんか?」と聞くと、「金曜の午後は初診を受け付けていません」とぴしゃり。A子が「なんとか診てもらえませんか?」とお願いしても、受付職員は顔を見合わせて「無理だよね~」とつぶやき、「だったらすぐ近くに別の内科があるのでそちらに行かれたら」とおっしゃいました。

 後から診療所入り口の看板をよく見ると、「月・水・金は初診は午前中だけ」とありましたが、表示が分かりにくく、A子はその内容を見落としていたのです。

 仕方がないので、A子は出直すことにしました。週明けの月曜日に再度訪れると、今回も受付で挨拶はありません。しかし、1人の受付職員がA子の顔を覚えていて、無表情で「風邪でしたよね」と言い、診察の手配をしました。

 以上が受付の対応でした。確かに、決して良い印象とは言えません。1回目も2回目も会釈や笑顔がありませんでした。ここは長期に通院する慢性疾患患者が中心で、急性疾患の初診患者が少ないとはいえ、これでは患者は気持ちよく受診することができません。受付は病院の顔なのでもう少しにこやかに、おだやかな表情があった方がいいと思いました。

 また、質問に対する答えがすべて最後までなく、ぶっきらぼうな印象を受けました。明確な受け答えができていません。ここも改善ポイントです。

 


対照的に良い印象の男性スタッフ

 

 さて、風邪の診察が終わり、A子が処置室の見学を受付で依頼したら「2階です」の一言。どこから2階に上がればよいか分からなかったのですが、何とか2階に上がりました。

 A子がもじもじしていると、処置室のスタッフが「何かお探しですか?」と声を掛けてくれました。

「今度、母が旅行でこちらに来るのですが、処置をお願いしたくて見学に参りました」と言うと、そのスタッフはとても丁寧に案内してくれ、様々な質問にも丁寧に答えてくれました。旅行中でも安心して処置が受けられるようにしてくれるとのこと。受付の印象が悪かったのとは対照的な、とても良い印象のスタッフでした。

 


悪い印象を与えていた自覚は全くなし

 

 調査を実施した後、スタッフ全体に向けてフィードバック接遇研修を6回にわたって実施しました。問題の受付職員はプライドが高いことがあらかじめ分かっていましたので、全員の前で恥をかかせるのは逆効果と考えました。そこで、接遇研修の時間は、この覆面調査の結果を医院名を伏せて、あるクリニックの例として紹介した上で、問題点について、スタッフ全員で話し合いました。

 その後、本人だけをお呼びして、マンツーマンで、具体的に丁寧な指導を行いました。当の受付職員は「これまで普通に対応していたと思っていました。決して患者さんをないがしろにしたつもりはなく、悪い印象を与えてしまっていたことに驚きました」と神妙な面持ちで話していました。

 その後、その職員は「アイコンタクトを取り、笑顔で挨拶をする」といった基本的な行動を実行するだけで、格段に感じが良くなることを深く認識したようでした。彼女は単に、接遇のポイントを知らなかっただけなのです。

 その後、受付の対応は驚くほど改善し、常に笑顔で受付に立っている彼女の姿を見て、事務長も悶々とした気持ちが晴れ、院内の雰囲気が良くなったとのことです。

 


患者や外部者からの指摘が“薬”に

 

 残念ながら、医療業界において、今回のケースのような受付の対応はそれほど珍しくありません。スタッフが自らの対応の問題点を全く自覚していないというのは、よくあることです。そうしたケースでは、患者や外部の人間からの指摘が一番の“薬”となります。接遇に関する患者アンケートを実施したり、コンサルタントや顧問の社会保険労務士などの協力を得て課題を指摘してもらうことをお勧めします。

 受付担当者は診療所のドアが開いたら、「誰が」「なぜいらっしゃったのか」を見極めるためにも、相手の目を見て、笑顔で挨拶をするのは必須です。当たり前のことのようですが、意外なことに、これが実践できているクリニックはほとんどないと言っていいでしょう。笑顔だけで患者が受ける印象は随分と違ってきます。

 今回のケースのように、初診の受付ができない場合であっても、患者の気持ちに寄り添うことはできます。例えば、「先生に確認して参りますので、少々お待ちくださいませ」と声を掛けます。その後、「本日は、あいにく内科の先生がおりません。大変申し訳ありませんが、こちらでは診察をいたしかねます。近くに〇〇内科がございますので、そちらの場所をご案内しましょうか」と言えば、患者の残念な気持ちを和らげることができるのです。

 サロン・ド・クリニック(覆面調査)では、こうした点も含め丁寧に時間を取ってフィードバック研修を行います。悪い点を単に指摘するのではなく、良い点は良いと褒め、本人の心情にも配慮しつつ、課題に対する改善策を提案することにより、スタッフのモチベーションアップにつなげるよう心掛けています。

 

 最後に、先生の診療所の接遇で下記の点をきちんと実践できているかどうか、ぜひチェックしてみてください。

 

〔今回のチェックポイント〕
☐診察時間、診療科は、HP、看板ともに分かりやすく明記されている
☐患者が来院したら、笑顔で明るく挨拶をしている
☐お断りするときは、気配りの一言を付け加えることにしている

 

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