改善事例

2021.12.27

覆面調査ルポ 部下・同僚に耳の痛い話を受け入れてもらう工夫

Case46 職員の情報共有が不足している皮膚科診療所

 今回はある地方都市にある皮膚科クリニックの事例です。40歳代前半の医師による開業4年目のクリニックで、医療脱毛などの自費診療にも積極的に取り組んでいます。覆面調査の依頼があったのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する直前でした。

 依頼の際、院長は、「スタッフに恵まれてクリニックはとても良い雰囲気なので、正直、あまり不足を感じていない。ただ、接遇の技術を自分も含めた職員がきちんと学んだことはないため、自信が持てない」とおっしゃっていました。丁寧に患者応対に取り組んでいるスタッフからも、「正しいやり方が分からないので、患者さんからどう見られているのか意見を聞きたい」という声が上がっているそうです。

 そこで、既にできている部分については安心して今後も取り組んでもらい、課題があれば改善に向けて行動してもらうためにも、覆面調査を行うことにしました。院長からは「プロの厳しい目で、ぜひ細かく調査してほしい」と依頼されました。


誤って別の看護師が個室に入室
 
 早速、覆面調査員A子がクリニックに向かいました。

 事前に電話で診療予約をしたのですが、電話先のスタッフは笑顔であることが伝わってくる明るい声で、良い印象でした。ただ、最後までご自身の名前を名乗ることはありませんでした。

 訪問時、受付には3人のスタッフがいましたが、出迎えの表情は少し硬いように感じました。電話応対がとてもよかったので、ギャップを感じました。診察時はすてきな笑顔で対応してくださいました。

 身だしなみについては、髪形も後れ毛がないようきちんとまとめられており、清潔感がありました。爪、腕時計など細部にわたり、華美過ぎることなく好感が持てました。

 言葉遣いに関しては、おおむね丁寧でしたが、「そうなんです~」「なので~」「くださいね~」「下げま~す」と語尾が伸びているのが気になりました。また相づちが「うんうん」になっていたので、患者によってはなれなれしい印象を抱くかもしれません。

 クリニックはプライバシーに配慮した作りになっていて、各施術室が独立していました。患者としては安心できる半面、スタッフの情報共有が難しいように感じました。名前の呼び間違いがあったり、案内された個室に入ると、別の看護師の方がその部屋で作業をしていたり、私が待っている中待合室に突然、看護師の方が入ってきたりなど、せっかく患者のために作ったハード面の工夫が逆効果になっていることが残念に感じました。

 
今回の診療所のスコア


100点中48点でした。


電話で名乗るべき場面・名乗らなくていい場面
 
 覆面調査の後、COVID-19の流行が広がり、各地で緊急事態宣言が出ました。しばらくフィードバック研修ができずにいたのですが、調査からフィードバックまでに期間が空くと効果が薄れることもあり、オンラインでフィードバックをすることにしました。A子による調査の結果を受けて、以下のようなことを伝えました。

 まず、電話についてです。サービス業において、電話に出るときに担当した職員が名前を名乗るのは一般的です。しかし、クリニックなどでは、面識のない不特定多数の方から電話を受けることもあり、安全上の配慮から名乗らないようにしているところも少なくありません。

 ただ、診療予約など複雑な用件を受けた場合、一度、電話を切った後に、患者が追加で担当者に伝えたい用件が出てくる可能性があります。その場合、担当したスタッフの名前を伝えておいた方が二度手間にならずにスムーズです。また、名前を名乗った方が電話相手に「この人が責任を持って用件を伝えてくれる」という安心感を与える効果があります。

 そのため、クリニックなどでは電話に出た際、必ずしも最初に名乗る必要はありませんが、ある程度、複雑な用件を受けたり、伝言を頼まれた際には「私、○○が承りました」と伝える方がよいでしょう。また、既に自院で診察を受けたことのある患者と電話をする際も、「△△クリニックの○○です」と名乗ってから電話をかけることをお勧めします。

 言葉遣いについては、多少フレンドリー過ぎる部分があったほか、敬語の誤りも幾つかありました。例えば、「ご質問がございましたら、申し出てください」との声かけがあったのですが、「申し出る」は謙譲語ですので相手にお願いする動作としては不適切です。「お知らせください」「おっしゃってください」などが適切な言葉遣いです。

 所作について、看護師から書面を見せられつつ説明を受けることがあったのですが、ペンの先で該当の文章が指し示されました。ペンの先より、手のひらを上に向けて、指をそろえて指し示すと、丁寧な印象に変わります。

 職員間の情報共有については、患者のプライバシーを守ろうとするあまり、担当のスタッフ以外はその患者のことを把握していないようにも感じました。患者の施術内容、使用する部屋などをスタッフ間で共有する仕組みづくりをされるとよいでしょう。例えば、患者さんのいる部屋に間違えて入室することがないように、在室かどうかを明らかにするよう札を表示する、または何かしらのマークを付けるなどの工夫が考えられます。スタッフ間できちんと情報が共有されていると患者が感じると、クリニックへの信頼感・安心感につながります。


「承認」と「ほめる」は微妙に違う
 
 ここからは、やや番外編で、覆面調査のフィードバックのやり方についてご説明します。これは、院長先生が職員に対して業務改善を求めるときの方法にも通ずる話だと思いますので、参考にしてください。

 覆面調査のフィードバックをするときには、スタッフの皆さんにとって耳の痛い情報を伝えなければなりません。ですから伝え方には配慮が必要です。スタッフの皆さんに聞く耳を持っていただくには、まず受け入れられやすい情報から提供することが大事です。「この人の情報は聞いてよいのだ」と脳が話を受け入れる状態になってから、耳が少し痛い情報を提供するようにするとスムーズに伝わります。

 受け入れやすい情報を伝える際に有効なのが、相手を「承認する」ことです。「承認する」というと、最近は「ほめる」という意味だと思っている方もいて、よく「特にほめるところもないから、どうしたら承認できるか分からないんだよね」と言われることがあります。

 では、「承認する」というのは具体的にどうすることなのでしょうか。

 「承認する」は日本語の意味としては「良しと認めて許可すること」ですが、コーチング等のコミュニケーションスキルにおいて「承認する」というのは英語「Acknowledgement」を指し示します。「Acknowledgement」の語源は、「そこにいることに気付く」であり、そこから派生して「認める」「承認する」「感謝する」という意味になったと言われています。

 つまり、「承認する」というのは、「相手の行動に気付いていることを言語化する」ことが主であって、「ほめる」(良いという判断を下す)とは微妙に異なるのです。まず、スタッフの皆さん一人ひとりの考え方やそれに基づく行動に気付くこと、その行動に光を当てて、それがクリニックの価値上昇に貢献していることを言語化して伝えるのが「承認」なのです。

 
 「承認する」には3つの種類があります。

(1)相手の存在を承認する
(2)相手の成長を承認する
(3)相手の成果を承認する
 
 つい(3)の成果だけに目が行きがちですが、存在や成長にも目を向けてみると、たくさん承認できるところが見つかると思います。

 例えば、今回のフィードバックであれば、次のような言葉をかけました。

 「スタッフの皆さん、おしゃれな方ばかりですが、爪が短めにお手入れされていて、医療従事者としてふさわしい身だしなみだと感じました。クリニックの信頼感、安心感につながっていましたし、プロとしての意識の高さを感じました」

 「担当いただいた受付スタッフ、看護師の方が出口までお見送りしてくださりました。そこまでしてくれるクリニックはなかなかないので、感動しました」

 「スタッフの方が施術室に入ってこられたとき、床のごみに気付いて『失礼いたしました』とすぐに拾っていました。常にクリンネスの意識が高く、細かなところまで心配りが行き届いていると感じました」

 このようにプラスのメッセージを伝えて、スタッフの心のコップが上を向いた状態にすることで、さらに改善するための情報も受け入れてもらうことができます。

 一見、当たり前だと思える行動・姿勢であったとしても、それを言語化した上で感謝を伝えることによって、スタッフの皆さんは認められた気持ちになり、モチベーションが湧いてきます。院長をはじめ、スタッフ同士でもお互いに承認し合う文化が醸成されていれば、成長できる組織になると思います。

 
〔チェックポイント〕
☐スタッフや部下の行動・思いを言語化できていますか
☐改善すべきポイントを指摘するときは、その前に承認していますか
☐スタッフ同士で承認し合う文化が醸成されていますか
 
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