改善事例

2022.02.21

覆面調査ルポ 丁寧にしすぎて…相手に違和感を与える敬語

Case50 接遇に熱心に取り組んできた内科診療所

 今回は開業3年目、ある地方都市の内科クリニックへの覆面調査でした。院長からは、「開業当初から接遇に力を入れているものの、実際プロの目から見たらどのように見えるのか調査してほしい」というご依頼でした。

 早速、覆面調査員A子が調査に出向きました。その内科クリニックは新幹線の停車駅から、さらにJRで40分ほど離れた町にあります。駅前に最近、建ったばかりだというビルの中のテナントとして入っていました。

 A子がクリニックに到着したのは午前中。比較的患者さんが多い時間のようでしたが、スタッフの皆さんは、全体的に明るく穏やかな表情をしていました。ユニホームの着こなしについても、清潔感があり、気になることはありませんでした。

 受付前に座っていたご年配の方へ、少しかがんで目の高さを合わせてお話しされているのも、優しく丁寧な印象でした。

 少し気になったこととしては、猫背気味だった方がいらっしゃったことです。肩が内側に入ると、だらしない印象を与えることがあるので注意が必要です。また、前髪が垂れ下がっていて、目にかかる状態の方がいました。今は皆さんマスクをしていますので、患者さんにはこれまで以上に「目の表情」の重要性が増しています。せっかくですので、目元がよく見えるよう前髪は短めにするか、留めるとよいと感じました。

 また、入り口に消毒液が「手動式」と「自動式」の2種類、設置されていたのですが、自動式の方が壊れていたのか、A子が3回手をかざしても一度も出ませんでした。せっかく設置していても壊れていると印象が悪くなってしまいますので、こういった備品の確認も日々のルーティン業務に取り入れるとよいと思います。


多かった「文末を濁す話し方」
 
 全体的にこのクリニックは、明るく活気もあり、スタッフの方々の接遇レベルは高いと感じました。ただ、強いて言えば、言葉遣いに幾つか課題が見つかりました。

 まず、このクリニックで多かったのは、文末を省略してしまうことです。「混雑していると、90分ほどお待ちいただくことになりまして……」「コロナワクチンの予約は中学生以上からできまして……」など、文章を最後まで言い切らずに、途中で終わってしまっていました。「大変申し訳ございませんが、長時間お待たせする可能性もございます」「中学生以上でしたら受け付けております」と、述語まできちんと言うと信頼感のある表現になります。

 他のスタッフも患者から問い合わせを受けた際に、「そういうことはないと思うのですけれども……」と口を濁していたので、曖昧な回答をするのではなく、「さようでございますね。念のため確認いたしますので、お待ちいただけますでしょうか」と一旦引き取り、自信を持って伝えられるようにすると安心感につながります。

 また、相づちとして「なるほど」という言葉を何度も耳にしましたが、敬語表現としてはふさわしくありません。「はい」「承知しました」「さようでございますか」「ご事情はよく分かりました」という表現を使うとよいです。

 今回訪問したクリニックでは、患者さんに「こちらにおかけください」と適切な表現でソファをご案内しており、意識の高さを感じました。もし、「お座りください」と言ってしまった場合、患者さんが「犬のしつけ」を連想してしまい、失礼だと感じさせてしまう可能性がありますので注意が必要です。

 
今回の診療所のスコア

100点中58点でした。


医療版・注意を要する敬語表現とは?
 もう一段階高いレベルで相手に安心感を与えるという意味では、正しい敬語表現や言葉選びが重要になります。そこで、フィードバック研修では、「言葉遣い」を重点的なテーマとしました。

 医療機関などで間違えやすい敬語表現を中心に、現場でよく使う尊敬語、謙譲語、丁寧語をいま一度、確認してもらうようお願いしました。今回のクリニックのように接遇に関する意識の高い医療機関では、スタッフが丁寧な説明をしようとするあまり、余計な言葉を付けてしまうなど、相手に違和感を与えることもあります。そうした点を、具体例を挙げながら考えてもらいました。

 
注意を要する表現と言い換え例
× 壁沿いの椅子になります
○ 壁沿いの椅子でございます
※ 「なります」は変化するという意味があります。変化して椅子になるわけではないので、「ございます」が適切です。

 
× すぐ接種になります
○ すぐ接種でございます
※ こちらも「接種に変化していく」わけではなく、「次の順番です」とお伝えしたいわけなので「ございます」が適切です。

 
× 待っていただく形になりますね
○ お待ちいただきます
※ 「形」は不要な言葉なので付けなくて構いません。つい、丁寧な表現をしようとするとこのような余分な言葉を付けてしまうことはよくあります。

 
× お薬の方は
○ お薬は
※ 「方(ほう)」も丁寧にしようとするあまり付けてしまいがちですが、付けると耳障りになります。

 
× よろしかったでしょうか
○ よろしいでしょうか
※ 過去のことではないので、過去形ではなく現在形を使用します。

 
× ご苦労さまです
○ お疲れさまです
※ 「ご苦労さま」は目下の人に対する表現なので、目上や同じ立場の人には「お疲れさま」が適切です。

 
× 了解しました
○ 承知しました
※ 「了解」は対等な関係で使用する言葉です。「承知しました」「かしこまりました」が適切です。

 
× しばらくぶりです
○ ご無沙汰しております
※ 「しばらくぶり」も目上の方には使いません。「ご無沙汰しております」が適切な敬語表現です。

 
× ご一緒します
○ お供します
※ 「ご一緒します」は謙譲語ではありません。「一緒する」という動詞はありませんので、目上の方に随行するのであれば、謙譲語である「お供する」が適切です。

 
× 大変参考になりました
○ 大変勉強になりました
※ 「参考」というのは、自分の考えを決める助けや手掛かりとなるものを指します。ですから、少々軽んじているように受け取られることがあります。「勉強になりました」の方が適切です。

 
× お分かりいただけましたでしょうか
○ ご理解いただけましたでしょうか
※ 「分かりましたか」という表現をどんなにへりくだって言っても、上から目線な印象を拭うことはできません。その場合は「ご理解いただけましたでしょうか」を使用したり、「ここまでのご説明でご不明な点はございますでしょうか」と確認するとよいと思います。

 
× どうされました?
○ いかがなさいましたか?
※ 来院の理由をお聞きするときによく使用される「どうされました?」は「どう」の部分を「いかが」という敬語表現にすると、正しい敬語表現になります。いかがに続く言葉としては、「されました」より「なさいました」の方がスムーズです。

 
× 休診させていただいております
○ 休診しております
※ 「させていただく」という言葉は、文化庁によると「基本的に他者の許可を得た上で、自分が行うことについて、その恩恵を受けることに対して敬意を払っている場合」とのことです。患者さんが「休診の許可をした覚えはないですけど」と感じると、違和感・不快感を与えることがあります。「させていただく」という表現は使用方法が難しいので、「休診しています」の謙譲語「休診しております」と平易な表現にした方が誠実な印象です。

 
 また今回のクリニックでは、「恐れ入りますが」というクッション言葉を適切に使用できていました。「受付がカードでできるようになりました。恐れ入りますが、カードをこちらにタッチしていただけますか」というように、動作を促す際に相手の気持ちに配慮をしていることを伝える言葉がクッション言葉です。

 クッション言葉は、「失礼ですが」とか「恐れ入りますが」を使うだけで、相手への配慮の気持ちを伝える表現としての役割を果たします。しかし、これ以外にも伝えたい内容に応じて、様々な表現があります。状況に応じて適切なクッション言葉を使えるようになると、一層、相手への思いやりの心を込めることができます。

 こちらも敬語表現とともに定期的に復習するとよいでしょう。

 
状況別クッション言葉の例
【何か尋ねるとき】
「お差し支えなければ」ご家族の状況もお聞きしたいのですが。

 
【依頼するとき】
「お手数をおかけしますが」新しい保険証をお持ちいただけますでしょうか。

 
【お断りするとき】
「大変、申し訳ございませんが」本日の受付は終了しました。

 
【改善してほしいとき】
「私どもの言葉が足りなかったかもしれませんが」全ての書類にご署名をいただけますでしょうか。

 
【援助を申し出る】
「私どもでお力になれることがあれば」喜んで対応させていただきます。

 コロナ禍の今、表情が伝わりにくいからこそ、「言葉選び」が大切です。ぜひ、この機会に普段使っている言葉遣いを振り返ってみてはいかがでしょうか。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐尊敬語、謙譲語、丁寧語の使い分けはできていますか
☐間違えやすい表現を使っていませんか
☐状況にふさわしいクッション言葉を選んでいますか
 
日経メディカルオンライン掲載記事はこちら
研修メニューはこちら

PAGETOP