改善事例

2021.02.01

覆面調査ルポ 院長の前では別人! パワハラ職員の豹変に驚く

Case12  患者からの苦情絶えず新規職員が定着しないクリニック

 今回は、ある心療内科クリニックの事例です。1年ほど前に開業したクリニックで、40歳代の院長から依頼がありました。患者からスタッフに対する苦情が多いが、自分ではどう解決すべきか分からない。弊社のサービスであるサロン・ド・クリニック(覆面調査)を通して、問題点を明らかにした上で解決してほしい。このようなご依頼でした。

 つい最近も、患者から院長あてに苦情のお電話があったそうです。なんでも、患者が受付終了時刻の3分前に来院し、診察券を差し出したら、受付スタッフがちらっと時計を見て舌打ちをしたのだとか。その後もずっと不機嫌な様子で、余計に気分が悪くなったとご立腹だったようです。

 院長としては、受付や看護師の雰囲気が常時あまり良くないと感じているものの、少し意見を言うと、すぐに「先生、前の病院ではこうやっていましたから大丈夫ですぅ」「先生、普通はそんなやり方をしませんよ~、ははは!」と言われてしまうので、面倒になり、「一応仕事をしてくれているのだから、それだけでもありがたい、全てを任せよう」と考え、そのままにしていました。

 ところが最近、患者からの苦情が増えていること、性格の明るいスタッフを新たに採用しても次々に辞めていったことから、さすがに問題を解決しなければならないと院長は考えたのです。


受付で好印象も、すぐに人間関係の悪さを察知

 
 早速、弊社の覆面調査員A子がクリニックを訪れました。

 受付にいたスタッフは控えめな印象で、優しく丁寧な対応でした。A子はそれほど悪い印象ではないと最初は感じました。しかし、その印象はすぐに一転しました。

 その背後には、髪がボサボサ、清潔感が感じられずだらしがない印象の40歳代後半と思われるスタッフB美が、受付スタッフをにらみつけていたのです。

 しばらくすると、B美はツカツカと受付スタッフのところにやって来て、「〇〇してください!早く!!」と、苛立った様子で命令していました。受付スタッフは、渋々うなずいています。A子はその様子を見て、クリニックの人間関係が非常に悪いことを察知しました。

 

今回の診療所のスコア

 

100点中71点でした。


予想外の報告に院長絶句

 
 一通りの調査を終えて後日、A子はフィードバック研修会を実施しました。すると、覆面調査のときは非常に不機嫌に見えたスタッフB美が、笑顔ですり寄ってきました。そして、こう言いました。

 「このクリニックってホント仕事のできない人ばかりで、困っているんです。何とかしてくださいよ~」。A子はその豹変ぶりに驚きました。

 さらに彼女は続けました。「私はきちんと仕事をしたいのに、このクリニックのスタッフって、何度言っても全然直らなくて、本当に腹が立つんです。仕事がぜーんぜんできない人、もちろんここにいますけど、誰とは言いませんが……」。

 先日の受付スタッフを見ると、目に涙を浮かべて、うつむいていました。A子は、このまま彼女にこの場で話をさせるのはまずいと考え、後でゆっくり話を聴く約束をして、発言を制止させ、フィードバックを続けました。

 この出来事を重く受け止めたA子はクリニックのスタッフ全員にヒアリング調査を行いました。すると見えてきたのはB美のパワーハラスメントです。管理職であるB美は新しく入ってきたスタッフが美人だったり聡明だったりすると、次々と執拗にいじめるのです。

 B美は新しいスタッフのあることないこと、あらゆる悪口を他のスタッフに言いふらし、新しいスタッフを仲間外れにします。さらに休憩室では患者の悪口ばかりを、いつも言っていたそうです。そして「あの患者の言うことばっかり聞いてると疲れるから、適当にあしらえばいいのよ~」などと大声で話しているというのです。

 しかしながら、B美は院長に対しては表面上何もないように常に笑顔で振る舞い、自分は後輩育成に熱心に取り組んでいることをアピールしていたのです。

 A子は一連の状況を院長に報告しました。院長はこのようなことが起こっているとは全く予想していなかったと絶句しました。


職員のパワハラに気付かない院長たち

 
 このようにクリニック内にいじめやパワハラがあっても、院長が把握できていないケースはしばしば見られます。なぜなら院長が、「逐一教えなくても職場の常識は分かっているだろう」「社会人としてのマナーをわざわざ教える必要はない」「規律の問題は業務遂行上大したことではない、何とか現場でうまくやっていくだろう」と考え、職場のルール作りや、違反した場合の注意を怠っていることが少なくないからです。

 B美は、明らかに身だしなみが乱れていたり、自己中心的な患者対応をしても、院長が注意することがなかったので、「自分は院長に気に入られているから大丈夫だ」と考え、どんどん横暴な振る舞いをするようになってしまったのです。

 このままだと、クリニックの医療の質そのものが低下したり、地域に悪いうわさが広がりかねません。そして、転職してもやっていけるような優秀な人材ほど流出し、生産性の低い職員や業務効率の悪い職員ばかりが残るようになってしまうのです。

 ハラスメントのあるような職場では、まず職場のルールを定め、院長のリーダーシップのもと、規律を定着させていくことが重要です。就業規則にハラスメントを禁止する項目を盛り込む方法のほか、比較的簡単にできるやり方として、誰もが同意できる共通のルールを5つ程度決めて、実践していくことをお勧めします。院長はそのルールが守られているか否かを毎日チェックし、できている人は褒める、できていない人には指摘することを、まずは1カ月継続します。

 このケースでの方法を具体的にご説明しましょう。クリニックでは覆面調査に続いて接遇研修を実施することになっていたので、研修の中で第一印象の重要性についてお話ししました。

 その上で、スタッフ全員で「私たちの身だしなみのルール」を話し合いました。1つひとつの意見を付箋に書いて張り出したところ、「ユニフォームの汚れやほつれがない」「前髪が目に掛からない長さまたはピンで留めている」「健康的なナチュラルメイクをしている」など、幾つかの項目が挙げられました。次にスタッフ同士が話し合い、重要なものを5つ選定し、チェックリストを作成しました。

 でき上がったチェックリストを基に、毎朝、身だしなみチェックを実施。朝礼で、2人1組でペアとなり、一つひとつの項目で、できていれば〇、できていなければ×を毎日付けました。

 院長はチェックリストを見て、〇が多い人には褒める、×が多い人には「〇を増やすよう励ましの声掛け」を1日に1回は実施するようにしました。特に×の部分については、具体的にどう改善すると〇になるかのアドバイスも実施しました。これを1カ月続けたのです。

 一般に、院長が苦手意識を持つスタッフに対して腫物を触るように対応し、放っておくとクリニックの秩序が保たれず、増長する職員が出てくる一方で、前向きに努力する人が報われない組織になってしまいます。そうした組織ではパワハラが生じやすくなるので要注意です。

 直接的にパワハラを防止するような「スタッフ同士のいじめをなくす」「人の悪口を言わない」といったルールではなくても、院長がリーダーシップを取り、このケースで決めたようなルールをきちんと守るよう徹底することにより組織は安定してきます。

 つまり、院長がきちんとスタッフを観察し、見守り、フィードバックをすることが、前向きな組織づくりには不可欠なのです。

 このケースでは、B美は医師から注意を受けることが増えたため、馴れ馴れしい態度が減り、同僚への対応も少しずつ改善してきました。そうこうしているうち、B美の夫が転勤することになり、B美は退職していきました。辛い思いをしていた受付スタッフは、明るく元気に仕事を続けています。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐クリニックの規律を維持するためのルールを定めているか
☐患者から苦情があった場合、指摘するだけでなく、再発防止策を実施しているか
☐スタッフの育成・管理をスタッフ任せにしていないか
 
日経メディカルオンライン掲載記事はこちら
研修メニューはこちら

PAGETOP