改善事例

2021.06.28

覆面調査ルポ 言葉遣いは適切でも患者に怖がられる人の特徴

Case32 「話し掛けにくい看護師」がいる大規模診療所

 今回、調査を依頼されたのは整形外科・脳神経外科・内科がある大規模クリニックです。院長は高いレベルの接遇応対を目指しているのですが、評判の良いスタッフとあまり良くないスタッフがいて、どう底上げすべきか悩んでいらっしゃいました。

 話を聞くと、評判のあまり良くないスタッフは、患者さんから「あの人は怖い。話し掛けにくい」と言われることがよくあるとのこと。ある看護師は評判が特に悪く、「彼女からしゃくに障る話し方をされた」という苦情もあったようです。

 院長は以前、状況を詳しく把握するために、その看護師の話している言葉を他のスタッフに聞いてもらい、内容を報告してもらったそうです。しかしながら、話している言葉や敬語自体にはそれほど問題がなく、院長には問題の在りかを突き止めることができなかったとのことでした。そこで、評判がそこまで悪化している理由を明確にするために、覆面調査を実施しました。


説明は一方的、理解できない患者が謝るシーンも
 
 早速、覆面調査員A子がこのクリニックに向かいました。A子はまず、このクリニックの規模の大きさに大変驚きました。建物に入ったところにいる総合受付と会計スタッフだけでも5人が常駐し、まるで大きな病院のようです。

 整形外科のカウンターにいた受付職員は、A子にとてもにこやかな笑顔で対応してくれました。ただ、パソコン作業中だった会計スタッフは表情が硬く、少々怖く感じました。この方は、同僚同士で話しているときは笑顔なのに、作業時や患者との応対では急に真顔になっていたので、笑顔への意識をより高めるとよいのではないかと感じました。常に患者に見られているという意識を持ち、話しかけられやすい雰囲気づくりが必要です。

 整形外科の看護師は、事前に院長から聞いていた「特に評判が悪い方」でした。基本的に無表情で、表情から優しさや温かみを感じられません。A子が中待合で待っている際、何度かその看護師が目の前を通り、チラッとA子を見て目も合ったのですが、特に何のリアクションもなく、印象が良くなかったようです。「柔らかな表情で軽く会釈をする」もしくは「もう少々お待ちくださいね」などの対応があればよいのですが、チラッと見たまま目を逸らすのはマイナスの印象を与えます。

 診療の結果、A子は検査を受けることになり、先ほどの看護師が説明のためA子のところにやって来ました。A子は、当日にその検査も受けられると思っていたので、「今日は受けられないのですか?」と聞いたそうです。すると、看護師は「今日の今日というのは、緊急な場合のみですよ」と少々呆れたような口調で言いました。また、その看護師が最初に提案した日(火曜日)は予定が入っていたために、A子が「その日はダメです」と言ったら、「火曜日は毎週ダメですか?」と強い口調で返されました。

 再度、診察を受けた後にA子が待合で待っていると、当の看護師が予約検査案内票を持って説明に来ました。しかし、話している敬語は全く問題ないのですが、とにかく説明が一方的かつ早口で、こちらの理解度を一切気にせずに話しているような感じでした。A子はよく分からず、「次の診察の日にちは決まっているけど、時間は決まっていないということですか?」と質問したら、「さっきも言いましたけど」というニュアンスで再度説明され、A子は思わず「すみません」と謝る羽目になりました。

 
今回の診療所のスコア


100点中44点でした。


 実はこうした対応はこの看護師だけではありませんでした。A子が最初に受診する際、予約の電話をしたときに対応してくれた受付職員も、言葉遣いは丁寧でしたが口調から怖い印象を受けたのです。A子は予約の電話を入れた際に、提案された予約時間より遅い時間を希望しました。すると、受付職員はA子に「早い時間から順番に取っていますので」と、冷たい口調で告げたようです。


「言語」「準言語」「非言語」を意識する
 
 このクリニックには、確かに「あまり感じが良くない」スタッフが複数いたようです。でも、スタッフが使っている敬語や丁寧語だけを切り取れば、それほど問題はないのも事実でした。では、何がいけないのでしょうか。今回は対面コミュニケーションの観点からご説明します。

 人は対面でコミュニケーションを取るとき、「言語」「準言語」「非言語」の3つのチャンネルで同時にメッセージを伝えます。言語はその言葉の意味そのもの、準言語は話し方や抑揚、非言語は表情や身振り手振りなどのことです。

 例えば「うれしい」と言うとき、明るい声で語尾が少し上がる感じで、笑顔で言うのであれば、言語、準言語、非言語の3チャンネルのメッセージが一致するため、「この人はうれしい気持ちになっているんだな」ということが、相手に誤解なく正確に伝わります。また「腹が立つ」と言うとき、低めの声で、強い語気で、眉をひそめながら言えば、3チャンネルのメッセージが一致するので正確に伝わります。

 ところが、低い声で強い語気で、眉をひそめながら「うれしい」と言った場合、「うれしい」という感情は正確に伝わりません。言語、準言語、非言語のどのメッセージが正しいのか、受け手に迷いが生じるからです。そしてどちらかというと、意識的なコントロールが容易な「言語」より、コントロールが難しい「準言語」や「非言語」から、話し手の本音を読み取りがちです。

 このようにメッセージを伝える際に「言語」だけにとらわれていると、思わぬ誤解が生じたり、相手に違和感を抱かせることになります。ですから、言語、準言語、非言語という3つのチャンネルで、正確にメッセージを伝えるように意識することが必要です。

 今回の例では、看護師がA子に「今日の今日というのは、緊急な場合のみですよ」と呆れたように伝えていますが、これは言語、準言語、非言語すべてにおいて適切ではありません。「当日に検査ができない」というメッセージを伝えるのであれば、言語は「あいにく当日に検査ができるのは、緊急な場合に限られております」と修正し、準言語(話し方)はゆっくりと、一語一語、抑えたトーンで丁寧に発音し、非言語(表情)は、相手の要望に応えられないという残念な気持ちを表現すれば、冷たい印象にはならなかったでしょう。

 また、看護師が予約検査案内票を持って説明に来たとき、話している言語には問題がなかったものの、「一方的かつ早口で」(準言語)、「こちらの理解度を一切気にせずに」(非言語)話していたために、悪い印象を与えてしまいました。これが「ゆっくりと温かみのある声で」(準言語)、「相手が理解しているか確認しながら」(非言語)話せていれば、印象はぐっと良くなります。

 このほかにも、「早口で適切な間がない」「アイコンタクトがない」などの行為があると、話している言葉がいくら適切でも受け手は良くない印象を抱いてしまうものです。このクリニックのように、「言語」の部分の職員教育は行き届いていても、準言語、非言語をおろそかにしているところは少なくありません。皆さんのクリニックでも、あえて準言語、非言語に焦点を当てて、患者さんへの対応を見直してみてはいかがでしょうか。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐ 敬語やポジティブな表現を意識していますか。
☐声のトーンや抑揚、スピードに注意して話していますか。
☐常に表情を見られていることを意識していますか。
 
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