改善事例

2021.03.29

覆面調査ルポ 苦情相次ぐ職員が「自己都合退職」に至るまで

Case20 高圧的な受付職員に院長も同僚も困惑

 今回は、内科診療所の50歳代前半の男性院長からのご依頼です。「患者さんや同僚の職員から苦情が相次ぐ受付スタッフがいるため、非常に困っている。正直、辞めさせたいくらいだが、実際はどうなのか把握しておきたい」とのご相談でした。

 院長は診察をしているため、受付の現場を見たことはありません。しかし、「『態度が横柄だ』『上から目線の対応が気になる』という患者さんからのクレームが非常に多い」とのことでした。そこで、その受付スタッフがどのような対応をしているのか、ありのままに報告してほしいということで弊社のサロン・ド・クリニック(覆面調査サービス)をお申し込みになりました。


患者をにらみつけるような視線
 
 早速、弊社の覆面調査員A子が診療所に向かいました。15年ほど前に建てられた建物で、新しくはないのですが清潔感のある外観です。出入り口の植栽の手入れが行き届いており、診療所スタッフの誠実さが感じられました。

 ドアを開けるとすぐ左手に受付があり、保険証を提出しました。最初に対応した受付スタッフは、柔らかな笑顔で保険証を受け取り、初診患者用の問診票を手渡し、「あちらの椅子に座って書いてくださいね」と案内してくれました。もちろん「あちらの椅子にお掛けになり、ご記入くださいませ」と伝えた方がより丁寧ではありますが、適切な笑顔と声のトーン、大きさだったので、好印象を受けました。

 問診票を記入し、受付に行くと、先ほどのスタッフは席を外していました。そこでA子が、パソコンに向かって作業をしているもう一人の受付スタッフB子に「あの……、問診票を書いたのですが」と話し掛けると、A子ににらみつけるような視線を向け、「そこに置いておいてください」と、ドスの利いた大きな声で答えました。

 A子はその迫力にドキっとしました。B子はその後、すぐにパソコンに視線を戻し、常に眉間にしわを寄せたまま、作業を続けていました。A子は、どこに問診票を置くべきか、よく分かりませんでしたが、これ以上、声を掛けるのが怖かったので、問診票をカウンターの上に置き待合室で名前が呼ばれるのを待つことにしました。

 A子が待っている間に、B子が待合室に出てきて、別の患者と何か話をしていたのですが、椅子に腰かけた患者に対し、B子は仁王立ちで話していたので、威圧感を与えており、患者は終始硬い表情でした。

 B子以外のスタッフは、優しく寄り添ってくれる雰囲気であるにもかかわらず、B子がそうした好印象を全てひっくり返してしまうほどの対応だったので、非常にもったいないと感じました。院長や同僚がおっしゃる通り、彼女の存在が残念ながら、診療所の雰囲気を台無しにしていることが、覆面調査からも明らかになりました。
 
今回の診療所のスコア

100点中44点でした。


フィードバックは院長だけに実施
 
 覆面調査の結果をフィードバックするに当たって、今回のケースでは通常とは異なった対応をすることにしました。通常、覆面調査のフィードバックは院長に実施した後、改めてスタッフ全員向けに接遇研修を実施することがほとんどです。しかしながら今回はB子に向けた指摘ばかり。全員の前で彼女を追い込むことになりかねないため、スタッフ全員へのフィードバックは控えることにしました。

 院長にお話ししたところ、「この結果を本人に伝え、能力が不足しているため解雇したい」とおっしゃったのですが、この程度の能力不足だけで解雇することは非常に難しいとお伝えしました。

 私は社会保険労務士としての仕事もしており、問題職員に関する相談をよく受けるのですが、実際のところ、能力不足で従業員を解雇する場合は、相当な理由が求められます。つまり、院長の考える能力不足と、解雇が適当と法的に判断される能力不足には、大きな隔たりがあるのです。法的に解雇が認められるケースは、著しく成績が不良で活用のしようがなく、辞めてもらうより他に方法がなさそうな場合を指します。そして、能力不足を理由にした解雇が正当と認められるためには、少なくとも次の四つを満たすことが求められるとアドバイスしました。
 
(1)著しく成績が不良であること
(2)評価が公正なものであること
(3)改善の見込みが乏しいこと、改善の機会を与えてもダメだったこと
(4)労働者の能力不足が原因で、業務に支障が生じていること
 
 B子の場合、著しく成績が不良かどうかの客観的な事実の面で厳しく、評価も覆面調査を1回実施した程度では公正とはいえません。さらには現状ではB子に研修をしたり、面談をしたり改善の機会を与えているわけでもありません。またB子の場合、患者接遇は良くないのですが、レセプト入力や会計作業は比較的正確で、業務に支障が出ているわけではないのです。

 こういった場合、安易な解雇は避けることが必要です。安易に解雇してしまった場合、労働基準監督署に駆け込まれる可能性がありますし、万一訴えられて裁判となり、解雇無効との判断が下されると、解雇してから後に復帰するまでの期間の給与を支払わなければならないこともあります。ですから、「能力が低いから解雇する」というのは非常に困難であると院長が肝に銘じて、一方的な解雇は避け、法的なリスクを下げることが重要です。

 ただ、そうは言っても改善の見込みがない従業員にはどう対応すればよいでしょうか。一つの手段として「退職勧奨」という方法があります。退職勧奨は、院長(経営者)が従業員と話し合いをして、「あなたには他の仕事の方が向いていると思うので退職をした方が良いのではないでしょうか」と勧めることを指します。提案に合意して本人の「辞めたい」という意思を確認すれば退職してもらうことができます。

 「もうクビにしてしまいたい!」と思うようなスタッフとの遭遇は、多かれ少なかれ院長は経験するかもしれません。しかし解雇は簡単にはできないので、専門家に相談しながら、丁寧に進めていく必要があります。

 退職勧奨をする際には、幾つか注意すべき点があります。例えば、必要以上の人数で長時間の面談を実施すると、退職の強要や脅迫となり、不法行為とみなされる可能性があります。また退職届を必ず提出してもらわなくてはなりませんが、その際は、自己都合ではなく会社都合による退職(退職勧奨に合意しての離職)になることもご注意ください。


一貫性をもった対応が不可欠
 
 さて、今回のB子ですが、結局、退職勧奨に至ることなく、自己都合で退職しました。調査結果をB子に伝え、態度が良くないときにはすぐに指導するよう体制を整えたところ、B子はさっさと次の就職先を決めて退職していきました。

 医療機関の中には、こういった問題職員に対してきちんと注意していないところが非常に多いと感じています。注意したら辞めてしまうのではないかという不安から注意しない場合もありますし、細かいことまで注意するのが面倒、注意すれば機嫌が悪くなるのでできれば関わりたくないなどの理由で、野放しにしてしまっているのです。

 ほとんど注意もしていないのに、突然、退職勧奨を告げられると従業員も受け入れることが難しく、退職に合意することは難しくなります。

 問題職員のトラブルは、「いけないことはいけないときちんと注意をする」「できたことは認める」と、一貫性をもって対応していくことで、自己都合で退職していくか本人が変わることによって問題が解決していくケースが多々見られます。そうした一貫性のある対応を行っても改善が見られない場合は、退職勧奨を検討するとよいと思います。

 指導期間には内容によっては始末書を書いてもらうことも必要ですし、誰にいつ、どれだけの時間、どのように指導したのかを必ず書面にまとめておくことが重要です。また指導の際は相手の感情に配慮し、感情的に一方的に指導するのではなく、課題を明確にして端的に伝え、話を進めていけばよいでしょう。

 怒鳴ったり人格を否定するような対応は、パワーハラスメントとなるリスクがあります。客観的に落ち着いて対応することが大切です。

 
退職勧奨をするときの注意点
☐面談は必要以上の人数で実施せず、時間は30分程度までとする
☐プライバシーが保たれる別室で話すこと
☐録音すること
☐就業時間中に行う
☐退職勧奨をする回数制限はないものの強要にならないようにする
☐感情的にならない
☐退職届をもらうこと
 
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