改善事例

2021.04.26

覆面調査ルポ 職員が2グループに分裂、退職相次ぐ事態に

Case24 職員の同時退職から再生を図った内科診療所

 今回は、ある内科診療所に対して行った弊社の覆面調査(サロン・ド・クリニック)のサービスについてお伝えします。院長から「スタッフが二つのグループに分かれてしまい、非常に雰囲気が悪い。患者さんにそれが伝わっていないか心配なので、第三者の目で確認してほしい」とのご依頼を受けました。

 院長の話によると、診療所は開業から14年。大きな問題もなく経営をしてきたものの、2年ほど前からスタッフがギクシャクしてきたと感じていました。とはいえ、診療所を増築して毎日忙しかったので、「スタッフ同士の面倒なことには正直関わりたくない」と考え、院長はそのままにしていたそうです。

 しばらくすると、あるグループのそれぞれのスタッフが、別のグループのスタッフに対する不満を院長に対して入れ代わり立ち代わり伝えるようになりました。院長は鬱陶しくなってしまい、「君たちの問題なので自分たちで解決するように」と言うと、皆何も院長に言わなくなりました。

 それからというもの、院長と話してくれるスタッフは勤続14年のパートスタッフだけ。あとのスタッフは、ろくに挨拶もしないし返事もしない。一応、毎日遅刻せずに出勤し、患者とは普通に応対しているように見えましたが、別のグループのスタッフや院長とは目も合わさない状態でした。

 さすがに半年前、何とか解決しようと院長が食事会を提案したところ、全員の日程が全く合わず、半年が経ってしまったそうです。それでも開催した食事会は、地元で有名な大皿料理のイタリアンを選んだのに、誰も取り分けようとしない。院長がみんなの分を取り分けるありさまで、せっかくの食事会もお通夜のよう。院長が最近のスポーツの話題を取り上げても、スタッフたちは「へえ。そんなんですね。私、あまりよく知らないので」と素っ気ないまま。中には、黙ったまま食べているスタッフもいました。

 こんな状態に院長はほとほと疲れてしまったようです。食事会の次の診察日も、勤続14年のパートスタッフだけが小さな声で、「先生、昨日はご馳走様でした」と言ってくれただけで、ほかの誰からも声掛けはありませんでした。

 そんな状況を院長から伺った後、覆面調査員のA子は日を改めて診療所に伺うこととなりました。


コミュニケーション不全が伝わる現場
 
 A子が訪問すると、開業して14年経つとはいえ、院内は掃除が行き届いていて清潔でした。ただし、玄関、待合室、診察室に装飾品となるような置物、絵、観葉植物がほとんどなく、温もりが感じられず、やや冷たい印象でした。壁には薬剤のポスターや、警察署からのお知らせ、休日診療所の案内などが、ところどころに貼られていましたが、古いものが多く、角が折れ曲がっていたり、色が褪せているものもありました。誰も剥がす人がいなかっただけで、患者さんに有益な情報を提供するという視点で貼っているようには感じられませんでした。

 受付、診察室では、スタッフから通り一遍の声掛けはあるものの、スタッフと目が合うことはありません。受付で問診票を記入してお渡しするときに、症状について書ききれなかったので、口頭で伝えようとしたら、「診察室でお話しください」とピシッと遮られてしまいました。「余分なことは聞きたくない」という気持ちがダイレクトに伝わってきて、残念でした。

 一方、診察室では院長が丁寧に迎えてくださり、ほっとしました。受付で話そうとしたことを診察室の看護師に伝えると、「そういうことでしたら、受付で言ってくれればよかったのに」とぼそっとつぶやかれました。「受付でお話しようとしたら、こちらでって言われたんですよ」と言うと、「ちゃんと受付の仕事をやってくれないと、私たちが困るのよね。患者さん、すみません」と言われました。A子はお詫びをされているのか、不満を聞かされているのか、よく分かりませんでした。

 スタッフ同士のコミュニケーションが悪く、情報共有がうまくいっていないこと、スタッフ同士の信頼関係が築けていないことは、はっきり伝わってきました。
 
今回の診療所のスコア


100点中40点でした。


 そんな覆面調査を終えて、まずは院長にフィードバックをしようとしたところ、ちょうど同じタイミングで院長からお電話がありました。なんと、スタッフが3人同時に「今月で退職する」と言い始めたとのことです。

 スタッフのうち1人は出産のため退職することが以前から決まっていたのですが、それに合わせて同じグループの他の2人も「辞めたい」と言い出したのです。

 これには院長も驚きました。地域の院長同士の会話で、スタッフが全員一度に退職してしまうことがあるという話は聞いていたものの、まさか自分がそんな経験をするとは思っていなかったからです。


すぐに人材を募集、院長は再生に向けて決意
 
 院長は仕事において、「友達が辞めるから私も辞める」という考え方をする人がこの世にいることが信じられませんでした。彼女たちは「この機会を失ったら退職できない」と思い、申し出たとのこと。院長が何を言っても、彼女たちは「退職する」の一点張りだったため、受け入れざるを得ませんでした。

 その後院長は、すぐに人材募集をしました。院長は、「もう二度とこのようなことにはしたくない」とおっしゃり、私たちは、新たな職場づくりのお手伝いをすることになりました。

 今回の集団退職の原因としては、やはり院長とスタッフのコミュニケーション不足が挙げられます。院長にはリーダーシップを身につけてもらうためPM理論について説明し、これらを実行できるような年間コンサルティングを提案しました。

 PM理論とは、社会心理学者の三隅二不二氏が集団機能という観点からリーダーシップの類型化を試みた理論で、概略は下記のようなものです。


・集団機能は一般に、P機能(Performance function:目標達成能力)とM機能(Maintenance function:集団維持能力)により成り立っている。
・P機能は目標設定や計画立案、指示、叱咤などにより、成績や生産性を高める能力を指す。
・M機能は集団の人間関係を良好に保ち、チームワークを強化、維持する能力を指す。
・PM理論では、P機能とM機能の2つの能力要素の強弱により、リーダーシップを以下の4つに分類して評価している。(PM型、Pm型、pM型、pm型)


【1】PM(P・Mともに大きい)
生産性を高め、目標を達成する力もあり、集団を維持しまとめる力がある。リーダーの理想像。
【2】Pm型(Pが大きく、Mが小さい)
生産性を高め、目標を達成する力はあるが、集団を維持しまとめる力は弱い。
【3】pM型(Pが小さく、Mが大きい)
集団を維持し、まとめる力はあるが、生産性を高め、目標を達成する力が弱い。
【4】pm型(P・Mともに小さい)
生産性を高めることができず、目標を達成する力も弱く、集団を維持し、まとめる力も弱い。リーダー失格タイプ。


 この院長はPm型のリーダーシップのタイプでした。ですから開業以来順調に患者数を増やしていくという点では、非常に優れていたと思います。数字上の経営は順調そのものでした。

 ところがメンテナンス力があまり強くなかったので、スタッフ同士のいざこざに耳を傾けることなく、ないがしろにしてきたため、今回のような事件になってしまったのです。

 スタッフの心のメンテナンスは多くの医師にとって、やや面倒な仕事ではありますが、そこに意識的に取り組むことが、長い目で見るとストレスの少ないクリニック経営を実現させる上で重要です。

 メンテナンスが苦手な院長の場合は、クリニックにまずはスタッフの個別面談制度を導入することをお勧めしています。スタッフ面談は半年に1回、1人15分程度実施します。必ず、あらかじめスタッフと相談の上、具体的な日時を定めて実施します。この面談の目的はスタッフのメンテナンスなので、聞き役に徹するとよいでしょう。

 また半年に1度だとタイムリーな対応が難しいこともありますので、日々の業務の中でもメンテナンスをしていくことは重要です。かといって気づいたら声を掛けるというだけでは、なかなか継続性がありません。

 このような場合、毎日、日替わりでスタッフに1人ずつ、挨拶にプラスアルファの声掛けをするというふうにルーティンを決めることが効果的な方法です。スタッフの名前を書いた簡単な表を作成し、声を掛けたら正の字を書くようにすれば、公平に接することができると思います。ついつい話し掛けやすい人ばかりとコミュニケーションを取ってしまうと、話し掛けにくい人から嫉妬されることになりかねないので、公平性にはご注意ください。

 このクリニックでは上記の二つの方法を取り入れ、現在、実践しています。「スタッフが何を考えているか、少しずつ分かるようになってきた」。まだ改革途上ではありますが、院長は一定の手応えを感じているようです。

 
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