改善事例

2021.09.06

覆面調査ルポ 真面目に働いているのに「怖い」と思われる理由

Case38 「怖い」「冷たい」という投書が相次ぐ内科クリニック

 今回は、地方にある大規模な内科クリニックの事例です。「受付の対応が悪い」「きつい人がいる」「怖い」といった苦情がご意見箱に度々入っているのですが、院長は職員の様子を見ることができません。そのため、今のところ具体的な注意ができていないとのことです。院長は「受付スタッフは真面目に仕事をしているので、不足を感じているわけではない」とも言っていました。

 ただ、近隣に別のクリニックがオープンしたばかりだという事情もあって、今後の経営に不安を感じたため、覆面調査を依頼されました。


周囲に無関心な職員たち
 
 早速、覆面調査員A子がクリニックを訪れました。建物自体はそれほど新しいわけではありませんが、受付はブルー、床は白、待合室の椅子は暖色系でまとめられて統一感があり、きれいで掃除も行き届いていました。

 ただ、A子が待合室に入ったのにもかかわらず、受付スタッフの誰からもアイコンタクトがありませんでした。院内はさほど混雑していなかったのですが、職員は忙しそうで、どちらかと言えば、常に険しい表情のスタッフが多く、口調も大声できつい言い方のスタッフもいました。A子は「ここに入っていいのか」と一瞬、ひるんでしまったそうです。

 他の患者さんの会計の場面では、「○○さーん!」と声を張り上げているスタッフが見られました。多くの患者さんは体調を崩して辛い中、医療機関を訪れています。もちろん、耳の遠い患者さんなどもいるので、大きな声で呼ばざるを得ないことも多いと思いますが、もう少し柔らかく温かい印象を与えるような口調を心がけた方がよいのでは……とA子は思ったそうです。

 A子が受けた印象は「職員全員がとにかく周囲に無関心」だということです。医師が受付スタッフに書類を手渡しているときも、アイコンタクトや笑顔が全くなく、無言、無表情で手渡していて、非常に事務的な印象でした。看護師の方も同じです。診療前に問診票を作成する担当の看護師から、色々と質問をされたのですが、A子のことを一瞥もせずに作成を終えました。とても冷たい印象を受けたそうです。

 言葉遣いは概ね丁寧でしたが、一部に改善の余地がありました。診察券のデータを登録するためにタブレット端末を使って入力する仕組みでしたが、受付スタッフから「タブレットで入力します。後で説明します」など、必要最低限のことしか言われず、流れ作業的に感じたとのこと。これは患者さんにお願いすることであるため、「お手数をおかけしますが」「恐れ入りますが」などのクッション言葉を使った方がよいでしょう。

 

今回の診療所のスコア


100点中44点でした。


アイコンタクトは「目線」と「視線」に気を配る
 
 このクリニックが患者さんに怖い印象を与えてしまっている最大の理由は、職員にアイコンタクトが全くないことです。人は、ずっと目をそらされていると「私に対して冷たい」という印象を抱いてしまいます。

 「目は口ほどにものを言う」と表現されるように、目は相手に気持ちを伝える上で重要な要素となります。医療機関では、マスクを付けて患者さんと応対することが多いので、「目の表情」やアイコンタクトの取り方に一層、留意することが求められます。

 アイコンタクトで重要になるのは「目線」「視線」の2つです。

 目線とは目の高さのことです。「自分と対等」もしくは「自分より低い」立場にあると考えている相手の目線が自分よりも高い位置にあると、人を見下すような態度だと感じ、不快な気持ちになりやすくなります。つまり、私たちは自分と相手の関係に応じて、適切な目線を個人的に設定しており、それを逸脱していると違和感や不快感を抱くのです。

 よって、目線の位置によって相手に対する敬意を示すこともできます。相手を尊重する気持ちを表す際は、相手よりもやや低い目線で接すると効果的です。ただ、目線を低くしすぎて相手の顔を覗き込むように見るのは、不快な印象になるので気を付けてください。目線は自分が思っているより、相手にとってインパクトが大きいことを理解しておくとよいと思います。


視線は「人→物→人」の順に
 
 次に視線、つまり目の方向について考えてみましょう。社会心理学者の井上忠司先生によると、ラテン系やアラブ系の人々は互い視線を合わせながら会話をするのに対して、日本は視線をそらす文化の典型だそうです(井上忠司 著、『まなざしの人間関係―視線の作法』、講談社現代新書、1982年)。

 確かにフランス映画やイタリア映画では、男女が愛を語り合うとき、お互いをしっかり見つめ合っています。それに対して、伝統的な日本映画では、2人で海などの風景を見ながら愛を語り合うシーンが珍しくないと言われています(諏訪茂樹 著、『人と組織を育てるコミュニケーショントレーニング』、日本経団連出版、2000年)。

 しかし、日本がいくら視線をそらす文化だからといって、患者と一度も視線を合わせないのは不自然です。相手の顔をじっと覗き込むのでもなく、適切なアイコンタクトを取るのが、患者との応対では最も自然なコミュニケーションになるのです。

 例えば、挨拶をするときは笑顔で相手の目を見て、「おはようございます」「こんにちは」と言ってから、軽くお辞儀をします。そして顔を上げた後、もう一度、患者さんの目を見てほほ笑むと、好印象です。

 また書類や診察券を受け渡す際は、患者さんの目を見て「どうぞ○○です」と伝えた後、書類や診察券を見て手渡します。お渡ししたら再度、患者さんの目を見てほほ笑むと自然で優しい雰囲気が伝わります。このように物の受け渡しをする際は、「人→物→人」の順で視線を配るのがコツです。


周りから見られていることを意識する
 
 このクリニックが「怖い」と思われているもう1つの原因は、スタッフに「周りから見られている」という意識が欠けていると思われる点です。通路を歩く際も、患者が近くにいてもスタスタと歩いていたり、風を切って走っていたり、だらだらとゆっくり歩いていたりなど、自分のペースで移動していました。通路は広いとはいえ、杖をついた方や車いすの方もいらっしゃったので、注意が必要です。

 受付の奥では、不機嫌そうに壁にもたれて書類で顔をパタパタとあおぐ姿が見られました。これだと、どうしてもやる気がないように見えてしまいます。猫背で患者さんの問診票だけを見て、流れ作業のように人をさばいている方もいました。

 動作や姿勢も、その人の印象を決める重要な要素です。

 動作とは、動きのある身体反応のことです。仕事がつまらなかったり、退屈していると、ノック式のペンをカチカチ鳴らしたり、ペン回しをする人がいます。これらの動作は固着反応といわれ、欲求不満のときに無意味な反応の繰り返しとして現れます。書類で顔をあおぐのも固着反応に見える可能性があります。固着反応が動きとして表に出ていると、それを見ている相手(今回の場合は患者さん)に「つまらない」「退屈だ」という感情が伝わってしまいます。

 姿勢とは、動きのない身体反応のことです。よく知られているのが腕組みです。腕組みはちょうどクルマのバンパーと同じ役割を果たしていて、何か不安を感じているときの防衛反応の1つです。手をポケットに入れるのも防衛反応です。猫背になり、目を合わせないようにすることも防衛反応といえます。防衛反応が出ていると、見ている相手に「私はあなたに心を開いていません」というメッセージを送ることになってしまいます。

 例えば、物を指し示すときも、手の甲が上だと「防衛反応」、手の平で指し示せば「相手に心を開いている」という印象を与えることができます。


「待ち時間削減」のために接遇をおろそかに
 
 こうした固着反応や防衛反応は、患者さんと接する場面では円滑なコミュニケーションの障害になってしまうので避けなければなりません。不安を和らげ、少しでも元気になっていただくお手伝いをするところがクリニックなので、背筋を伸ばし、いつも見られている意識を持ちながら、患者さんに対して心を開いていることを動作や姿勢で示していくとよいでしょう。

 今回のクリニックは、人間関係や特定のスタッフに問題があるわけではありませんでした。しかし、全体的に患者視点に欠けていたため、せっかくスピーディにミスなく仕事をしていても、患者さんに満足感を与えることができませんでした。

 そのため、覆面調査のフィードバック研修では、患者視点で考えたとき、どのような目線、視線で、またどのような動作と姿勢で対応すればよいのか、考えていただきました。そして、個別の患者さんに時間をかけなくても、患者満足感を高めるのに効果があるアイコンタクトのインパクトについてお話しさせていただきました。

 研修の中でスタッフの皆さんからは、「これまで患者さんの待ち時間を減らすことだけに集中し過ぎていた」との声が上がりました。仕事を効率的に行い、患者さんの待ち時間を減らすことはもちろん大事なのですが、患者さんの不安を取り除くような職員の対応があってこそ、患者満足度の向上につながります。スタッフの皆さんは今後、「笑顔とアイコンタクト」を合言葉に、接遇改善に取り組むことにしたそうです。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐患者接点における目線について、確認していますか。
☐視線を人→物→人の順番で配っていますか。
☐動作と姿勢について、患者に見られている意識を持っていますか。
 
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