改善事例

2021.03.22

覆面調査ルポ 看護師同士が険悪に、いったいどうすれば…

Case19 仲が悪い2人の看護師を抱えた耳鼻咽喉科診療所

 今回は、耳鼻咽喉科の40歳代男性院長からのご依頼です。弊社に覆面調査サービス(サロン・ド・クリニック)を依頼されるのは、この先生のような40~50歳代前半の院長がほとんどです。親から診療所を承継したり、新規に開業したりと形態は様々ですが、この年代の方々の中に、患者対応への高い意識を持っている方が少なくないようです。

 院長のお悩みは、看護師同士の関係、さらに看護師と院長の関係がぎくしゃくしていて、仕事がスムーズに行かないというものでした。院長がちょっとした頼み事をするだけでも、看護師が、「は? 自分でやれば? 私忙しいんですから」という気持ちが透けて見えるような態度を取るとのこと。非常に話し掛けづらいし、看護師同士の会話も最低限の業務的なことに限られ、その言い方がとげとげしいというのです。

 院長はこの険悪な雰囲気が患者に伝わってしまっていないか不安になり、看護師に態度を改めてもらいたいという気持ちで弊社のサービスをお申し込みになりました。


無表情で怖い印象の看護師たち
 
 早速、弊社の覆面調査員が診療所に向かいました。診療所のドアを開けると、無表情の受付職員が1人いましたが、それ以外の方は自然な表情で対応していると感じました。

 人の第一印象は6~30秒で決まり、そこで受けた印象は3年も継続するという研究結果があります。初診患者が抱いた印象がそれほど長く続くこともあると意識して、職員は応対することが大切です。全職員が患者を和やかにさせる笑顔で案内できると、感じの良い診療所という印象を残すことができます。

 診療所の受付は可もなく不可もなくという感じでしたが、診察スペースに入ると全く違っていました。院長は挨拶をしてくれたのですが、看護師の方は、2人ともマスクをしていて、無表情で怖い感じです。

 看護師の患者に対する言葉使いも「ああ、○○なんだ」「そうだね~」とカジュアル過ぎて気になりました。一方で、「○○してください!! はい! こうして!!」「早くやってくださいね」といった指示、命令的な言葉遣いが、強くて厳しい印象を与えていました。

 患者に何かお願いをするときには「○○していただけますか?」というように、疑問形でお願いして、その場にふさわしいフレーズ「恐れ入りますが」「お手数ですが」を使用するとグッと感じが良くなります。


覆面調査後に喧嘩が勃発
 
 こうして患者接遇に問題があると感じた覆面調査員が調査を終えて診療所を出た後、看護師同士の喧嘩が勃発しました。院長によると、看護師のAさんから「私、あの人の態度には腹が立ちます。もう一緒に仕事をするのは限界です」と相談があったとのことです。

 
今回の診療所のスコア

100点中50点でした。


 Aさんの訴えは、看護師Bさんの自分に対する態度が横柄かつ命令的で、気に入らないというもの。パートのAさんは30歳で1児の母であるのに対し、常勤のBさんは25歳の独身。Aさんの方が年上で、診療所での勤務経験も豊富であるにもかかわらず、BさんはAさんに対して「○○してください!!」「Aさん、早くしてください」「はあ~」「もう~」など、常に上から目線で指示するような話し方。たまりかねてAさんが院長に申し立てました。

 前日に、Aさんの堪忍袋の緒が切れる事件も起きていました。普段、Aさんが器具を洗浄するタイミングが少しでも遅くなるとBさんはすぐに洗浄するよう指示します。しかしこの日はAさんが患者に付きっきりで処置をしていて、手が離せません。Aさんが代わりに器具の洗浄をしてほしいと思ってBさんを見ると、ヘラヘラ、ニコニコして、別のスタッフと明らかに私語と思われる話をしながら、盛り上がっていたのです。

 Aさんは、かっと頭に血が上り、思わずBさんに「あなた、いつも偉そうに『早くやれ』って言うけど、自分は全然できていないんじゃないの!!」と言ってしまいました。そこでAさんとBさんはちょっとした言い合いになり、結果として2人のコミュニケーションは一切なくなってしまいました。


「自分発見インタビュー」で打開目指す
 
 困り果てた院長からこの報告を受けた私どもは、当初予定していた患者接遇に重きを置いた覆面調査のフィードバック研修の内容をガラッと変えることにしました。職員同士のコミュニケーションを円滑にできるような研修を中心に進めることにしたのです。

 人と人とがうまくいかないとき、多くの場合、「相手が間違っている」「自分は正しい」という気持ちが強固になり頑なになっています。人はみな不完全で未熟であること、自分と他人は「違っていること」に気づくことができれば、人間関係のトラブルが回避できるケースが少なくありません。

 今回は「自分発見インタビュー」というワークを通じて、自分の良いところや大切にしている価値観を、院長を含め診療所の全職員が互いに伝えることにしました。

 すると大きな変化が生まれました。喧嘩をしていたAさんとBさんが、自発的に話し始めたのです。その心境の変化を個別面談の場で聞いてみると、年上のAさんはBさんのことを「思ったより素敵な方で、尊敬に値する人だと思った」とのこと。一方でBさんは、Aさんのことを「思いやりのある優しい人と思った」そうです。

 「自分発見インタビュー」の場でAさんは、日ごろの努力や、子育てをしながら働くことの大変さと楽しさについて語り、Bさんは自身のペットの飼育に関する魅力や苦労話などをユーモアを交えて語りました。これにより、お互い、相手の今まで知らなかった部分が見えてきて、印象が変わったようです。相手の嫌な部分ばかりがどうしても目につきやすいものですが、このようなワークを開催して、ざっくばらんに語り合うと、自分が相手の一面しか見ていなかったことに気付かされることが多々あります。

 医療の仕事は非常に忙しいことが多い上、勤務シフトの関係でコミュニケーションを取る時間が限られるという事情もあり、同僚のプライベートな面や、どうされると嬉しいかといった点を全然知らないまま、仕事をしていることが少なくありません。しかしその状態では、ちょっとしたいさかいが疑心暗鬼を生む結果になってしまうことがあります。

 さて、今回のようなケースを考えるときよく引用されるのが、心理学で使われるモデル(手法)の「ジョハリの窓」。自分自身と他人がそれぞれのことを知っているかどうか、下記のように4つの窓(カテゴリー)に分類して理解することで、自己分析したり、他人とのコミュニケーションを円滑にする方法を考える際の材料にしようというものです。
 
「開放の窓」 自分も他人も知っている自分の性格や癖
「盲点の窓」 自分は気がついていないが、他人は知っている自分の性格や癖
「秘密の窓」 自分は知っているが、他人は気づいていない性格や癖
「未知の窓」 誰からもまだ知られていない性格や癖
 
 自分も知っている、他人も知っている「開放の窓」が大きくなればなるほど、自分のことを他人が理解してくれるため、職場の人間関係は良くなると考えられます。クリニックにおいてもプライベートを含め自分のことを話すなど、スタッフ同士で意識的にお互いを知る時間を取るとよいかもしれません。

 
【職場のコミュニケーションチェックリスト】※一つでもチェックがある場合は要注意です。
☐同僚の家族構成を知らない
☐業務以外の話をしたことがない
☐批判ばかりしている
 
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