改善事例

2021.05.31

覆面調査ルポ 患者情報が漏れる受付に院長が講じた一手

Case24 受付職員の私語・情報漏洩が問題となった内科クリニック

 今回は、内科のAクリニックに対して行った覆面調査の事例をご紹介します。院長は、40代の男性医師。ある患者さんから「受付スタッフが、『あの患者さん、○○会社の奥さんだよね』と、こそこそ話していたけど、このクリニックの情報管理って大丈夫?」と言われたことがきっかけで、調査を依頼されました。院長は普段、診察室にいて、受付や検査室の状況は全く分からないので、スタッフの私語が目に余るものなのか、教えてほしいとのことでした。

 弊社が覆面調査を行う場合、調査員には必ず確認してほしいポイントを伝えますが、「こういう問題があって、こうしたいから、このあたりがどうなっているのかを確認してきてほしい」というような具体的な伝え方はしていません。なぜなら1人の患者として、先入観を持たずにその施設を調査してほしいと思うからです。今回も、調査員B子に対しては、スタッフの私語の問題はあえて伝えず、受付や検査のスタッフを中心に、患者対応を丁寧にチェックするよう指示しました。

 B子は、早速覆面調査に向かいました。Aクリニックは、とてもハイセンスな外観で、内装は明るくすっきりとしたインテリアでまとまっており、待ち時間も快適な印象でした。駅から近く、大きな通りに面しているので、とても分かりやすい立地です。駐車場はないのですが、ホームページに最寄りのコインパーキングが案内されていて、すぐにたどり着くことができました。

自分のことを噂されているような気が…
 
 院内に入ると、「こんにちは」という挨拶の声が聞こえてきました。受付の方を見ると、特にこちらを見ている方や笑顔の方はいらっしゃらなかったので、どなたの声だったのかはよく分かりませんでした。

 初診受付に行くと、「こんにちは」と挨拶をしてくださったのですが、笑顔がありません。初診であることを告げると「保険証ありますぅ?」と砕けた言葉遣いでお話をされたのが気になりました。

 患者さんと対応するときには、あまり笑顔が出ていなかったのですが、スタッフ同士で何かを話しているときは、体を揺らしながら、やや大きめなジェスチャーで話しており、その時は満面の笑顔でした。B子は「その笑顔を患者さんにも届けてあげるとよいのに」と残念に思ったとのことです。それ以外の場面でも、スタッフ同士がこそこそと話しているのが見えて気になりました。自分のことを噂されているような気がして、あまり気持ちの良いものではありませんでした。

 受付では、奥のスペースにつながる出入り口付近で立ったままペットボトルのドリンクを飲んでいる姿が見えました。また2階の待合室のソファに座ると、採血検査の窓口から、2人のスタッフが奥の方でくつろいでお菓子を食べている姿が見えました。

 
今回の診療所のスコア

100点中54点でした。

 私はこれらの調査結果を、院長に率直にお伝えしました。その際に分かったのですが、院長によると、私が報告に伺う前日、来院された患者さんから、またも情報漏洩の報告があったそうです。

 小学生C君の母親が、学校で別のクラスのお母さんに会ったとき、「息子さん、交通事故に遭ったんですね。この前、Aクリニックのスタッフさんに聞いたんですよ」と言われたそうなのです。この母親はクリニックの患者です。ギプスをした息子と一緒にAクリニックを訪れたときに、息子さんのC君が交通事故に遭ったことをぽろっと話し、それがクリニックのスタッフを通じて他のお母さん方に伝わっていたのです。情報漏洩が度重なる事態に、院長は危機感を抱いているようでした。

 弊社の覆面調査で調査員B子が目撃した光景の数々と、院長が話してくださった情報漏洩の問題は関連があるように思えました。スタッフの方々の仕事ぶりは全体的に緊張感を欠き、統制が取れていないように見えました。また、仕事中の私語が目立つなど、公私混同されている印象も受けました。普段のプライベートな感覚で仕事をしていると、患者とのやり取りも、オフの時間の友人たちとの会話のようになりかねません。軽い世間話のつもりが、いつの間にか患者家族の情報の漏洩という問題となっていた――。そんな状況が透けて見えました。


看護師の情報漏洩で敗訴した事例も
 
 患者情報の漏洩は、深刻なトラブルにつながりかねません。過去には、看護師の守秘義務違反に関するこんな判例がありました。

 ある病院の看護師が、担当したユーイング肉腫の患者さんについて「まだ19歳になったばかりで、余命が半年。とても気の毒だ」という話を、自分の夫にしました。その話をうっかり夫が居酒屋で話したら、居酒屋の女将さんのお嬢様が、その患者さんだったのです。女将さんはお嬢様から病気のことは何も聞かされておらず、そんな形で初めて耳にすることになってしまったのでした。

 女将さんは後日、このことにより精神的苦痛を受けたとして、病院に対し慰謝料を請求する訴訟を提起しました。裁判所は、秘密漏洩が看護師の不法行為に当たるとした上で、病院の責任を認めて損害賠償を命じました(福岡高裁2012年7月12日判決)。

 患者情報は機密性の高いものであり、刑法134条にも、国家資格を持つ医療従事者の守秘義務が規定されています。違反すれば、6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金に処するとあります。

 Aクリニックの改善策を考えた場合、まず必要なのは、私語を減らすなど公私の線引きをきちんとすることだと思われました。スタッフの言動は、自分たちが想像している以上に患者さんから見られているものです。スタッフたちが、ひそひそ話をしていると、自分のことを言われているのではないかと感じる人は少なくありません。そのため、今回のケースでは、患者から見えるところでは私語は慎むことを徹底してもらうようにしました。

 また、患者にはスタッフ同士の話の内容までは聞こえないため、業務連絡なのか私語なのかを見た目で判断することがあります。そのため、「私語をしている」という誤解を招かないよう、スタッフ同士の会話であっても姿勢を正しく、ハキハキと話すことがポイントです。多くの場合、私語を話しているときは、体がふらふら、くねくねしたり、ボソボソ話していたりするものなのです。

 患者情報の漏洩に関しては、個人情報の管理について守秘義務を遵守するための体制を整え、指導することが、安心して受診していただくために必要不可欠です。

 今回のクリニックでは、改めて就業規則を見直しました。服務規律の中に個人情報の管理の規則を追加し、クリニックのルールとして織り込むことにしたのです。具体的な規定の例としては、表1のような形が考えられます。


表1 就業規則における情報管理規定の例

【情報管理および保護関係】

(1)業務上知り得た医院および患者情報の守秘、知り得た個人情報の保護には万全を期し、一切の情報漏洩が起こらないよう、常に留意しなければなりません。
(2)事業場の内外を問わず、在職中または退職後においても、医院ならび取引先などの機密、機密性のある情報、個人情報、企画案、ノウハウ、データ、ID、パスワードおよび会社の不利益となる事項を第三者に開示、漏洩、提供してはなりません。また、これらの利用目的を逸脱した取り扱いをしてはなりません。
(3)個人でホームページやブログを開設したりSNSを利用する場合は、情報の漏洩がないよう確実に対策を取らなければなりません。
(4)医院の許可なく営業上の秘密の情報を事業場外に持ち出したり、FAXや電子メールで送信したり、SNSで開示してはなりません。
(5)医院の業務の範囲に属する事項について著述もしくは講演などを行う場合は、あらかじめ医院の許可を受けなければなりません。
(6)院名の入った名刺を業務以外の目的で使用してはなりません。
(7)医院の許可なく、関係者以外の者を事業場内に入場させてはなりません。
(8)医院の許可なく、業務上守秘すべき情報および個人情報が入ったファイルを持ち帰ってはなりません。これは電子メールなどでの送受信も同様とします。
(9)医院の許可なく、個人所有の外部記憶媒体に業務に関連する情報を保有してはなりません。
(10)社外で、業務に関することを話してはいけません。


 Aクリニックに在籍していたスタッフには、就業規則の追加ということで院長が15分ほど説明を行い、個人情報秘密保持に関する誓約書に署名していただくという手続きを取りました。また、入職時と退職時に個人情報秘密保持に関する誓約書を都度、取り交わす仕組みを導入し、現在もそのような運用を続けています。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐個人情報管理規定を設けていますか
☐秘密保持に関する誓約書をスタッフに書いてもらっていますか
☐個人情報の管理に関して具体的な指導をしていますか
 
日経メディカルオンライン掲載記事はこちら
研修メニューはこちら

PAGETOP