改善事例

2021.04.19

覆面調査ルポ 患者応対を改善させる「マジックフレーズ」

Case23 対応に温かみが感じられない産婦人科診療所

 今回は、産婦人科診療所における覆面調査を取り上げます。開院して半年ほどのクリニックですが、職員の対応について患者から時々苦情があるため、院長からのご依頼で弊社の覆面調査(サロン・ド・クリニック)を実施することになりました。

 院長の話によると、職員は皆まじめで性格は悪くないのですが、患者さんとのコミュニケーションでいつも一言足りず、応対がギクシャクしていると感じているとのことでした。


挨拶は良かったものの小声で単調な応対が続く
 
 さっそく覆面調査員のA子がクリニックを訪れました。診療所は駅から非常に近いビルに入居していました。ウェブサイトには駅出口からの経路が写真を交えながら、細かく丁寧に書いてあったので、全く迷うことなく到着できました。

 エレベーターを降りると、目の前にクリニックの入り口が。近づくと自動ドアが開き、受付職員がすぐに挨拶をしてくれました。挨拶のタイミングはとても良かったのですが、声がとても小さく自信がないように感じられたのが気になりました。

 実際に受付の前に行くと、職員は立ち上がって応対しているのですが、目を合わせることもなく、何の声かけもありません。こちらから「あの、初診なのですが……」と話しかけて初めて、「保険証お願いします」とだけ、ぼそっと話されました。保険証を渡すと今度はバインダーに挟まれた問診票を差し出し、「問診票、書いてください」と渡されました。言葉だけでは何を言っているのかわからないほど、小さな声でした。問診票を記載して渡しても、「はい」とだけ言って受け取りました。

 その後も同じような単調な対応が、診察室でも続いていきました。患者としては、ひどく対応が悪いとは思いませんでしたが、思いやりの気持ちは感じられませんでした。そつなくこなしており、業務上、問題はないのかもしれませんが、温かさを感じさせる対応ではありません。

 

今回の診療所のスコア

100点中53点でした。


事務的な対応をどう改善すればよいか?
 
 この覆面調査の結果を院長に伝えると、「ではどうすれば感じが良くなるのか」と相談されましたので、今回の対応を文章で再現してみることにしました。それを見ながら、どうすればより感じが良く、温かさを感じさせる対応になるのかをお伝えしたのです。

 以下、受付と診察室における惜しい対応、感じのよい対応を並べ比較してみました。
 
[受付の対応]

★惜しい対応

受付スタッフ: こんにちは
患者:こんにちは
受付スタッフ:……
患者:あの、初診なんですが
受付スタッフ:保険証お願いします
患者:はい
受付スタッフ:あ、問診票も書いてもらえますか
患者:はあ

患者:あの、問診票書いたんですが……
受付スタッフ:あ、はい。ではお待ちください

★感じのよい対応

受付スタッフ:こんにちは
患者:こんにちは
受付スタッフ:本日はいかがなさいましたか?
患者:◎◎が気になっていて……
受付スタッフ:そうなんですね。それはお辛いですね。恐れ入りますが、こちらのクリニックで受診されるのは初めてでしょうか?
患者:はい。初めてです
受付スタッフ:承知しました。それでは保険証をお願いいたします
患者:はい
受付スタッフ:ありがとうございます。お手数をおかけしますが、こちらの問診票のご記入もお願いいたします。あちらのお席におかけになってご記入くださいませ。記入が終わりましたら、私どもが取りに伺いますので、そのままお待ちくださいませ
患者:はい。わかりました
受付スタッフ:(記入が終わったことを察して)◎◎さん、問診票のご記入は終わられましたでしょうか?
患者:はい。ここがちょっとわからなくて……
受付スタッフ:かしこまりました。それではこちらは空欄で結構ですので、問診票をお預かりいたします。診察の順番が参りましたら、こちらの番号でお呼びしますので、そのままおかけになってお待ちいただけますでしょうか
患者:はい
受付スタッフ:(軽く会釈をして、カウンターに戻る)


※ポイント

スタッフが受け身ではなく、患者さんとの関係づくりを積極的に行っている
例:本日はいかがなさいましたか?

共感を示す声かけがあるため、安心感がある
例:それはお辛いですね

マジックフレーズ(後述)を活用しているので、配慮を感じさせることができる
例:恐れ入りますが+依頼文になっているため、指示的、命令的な印象がなく、受け入れられやすい

具体的な場所と行動の案内があるため、迷うことがない
例:あちらの席におかけになってご記入ください


[診察室の対応]

★惜しい対応

診察室スタッフ:7番の方、どうぞ(声をかけたらすぐに診察室に入ってしまう)
患者:はい
診察室スタッフ:はい、どうぞ(椅子を指差す)
患者:あの、荷物はここに置いてもいいですか?
診察室スタッフ:はい、どうぞ(何か作業をしながら)
患者:あ、はい

★感じのよい対応

診察室スタッフ:7番の患者さん、お待たせしました。どうぞ診察室にお入りください。(診察室ドアで待つ)
患者:はい
診察室スタッフ:◎◎さん、こんにちは
患者:こんにちは
診察室スタッフ:お待たせいたしました
患者:ありがとうございます
診察室スタッフ:まもなく先生が参ります。診察まで、おかけになってお待ちください
患者:はい、わかりました


 以上、惜しい対応、感じの良い対応を並べてみて、いかがでしょうか。感じの良い対応はテクニックで習得できる部分がかなり多いのです。例えば、周囲への配慮をしながらお名前を呼ぶと、患者は大切にされていると感じるでしょう。

例:◎◎さん、こんにちは
(名前で呼び掛けることでねぎらいの気持ちも込められる)

例:お待たせいたしました
(マジックフレーズを活用しているので、配慮を感じさせることができる)

例:差し支えなければ、お手荷物はこちらにお入れくださいませ
(差し支えなければ+依頼文になっているため、指示的、命令的な印象がなく、受け入れられやすい)

例:まもなく先生が参ります。診察まで、おかけになってお待ちください
(具体的な場所と行動、大まかな時間の案内があるため、迷うことがない)


配慮の気持ちが伝わる「マジックフレーズ」
 
 相手に何かお願いしたいことがあるときや、相手の意に沿えない時など、すぐにその旨を切り出すと角が立ちます。それを防ぐためには、マジックフレーズと呼ばれるクッションとなるような言葉をはさむのが効果的です。マジックフレーズをはさむだけで、相手の印象ががらりと変わります。

 前述の例のほかにも、マジックフレーズには下記のようなものがあります。

・失礼ですが
・あいにくですが
・お手数をおかけしますが
・申し訳ございませんが
・恐れ入りますが
・大変恐縮ですが
・大変失礼いたしました
・おっしゃるとおりです
・確かに~
・早速ですが
・できましたら
・よろしければ
・ご面倒をおかけしますが
・残念ながら
・せっかくですが
・おかげさまで
 
 これらのマジックフレーズをつけることにより、こちらが相手の気持ちに配慮していることが伝わり、相手は受け入れやすくなるものです。さらに語尾を依頼形にすると、相手に選択の余地を残すことができるので、押し付けがましい印象がなくなります。

 このようなちょっとした声かけが良好な関係づくりにつながるのです。

 このクリニックでは、具体的に会話例を作っていくことにより、声かけの質が上がり、声かけの頻度も増えました。結果として、事務的だった対応を明るく温かいものに変化させることができました。

 会話がうまくつながらない、一言が足りないという場合は、よくある場面を選択し、自分たちの応対の内容を一度、文章にして再現してみることをお勧めします。患者さんの心情を考え、どう声をかけるとよいか、控えるべき内容は何かを考える良い機会になるはずです。
 
〔今回のチェックポイント〕
☐共感と配慮を感じさせる声かけができているか
☐マジックフレーズを活用できているか
☐具体的にわかりやすく案内ができているか
 
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