改善事例

2021.09.20

覆面調査ルポ 患者さんに「仕える」業務という思い込み

Case39 職員に活気がない内科クリニック

 今回は、田園地帯にある地方の内科クリニックが舞台です。顔なじみの高齢患者が多く、スタッフも長く働いている方が多いとのこと。先日、ある患者さんから職員の接遇に対してクレームがあり、院長はそれを職員全員に伝えたのですが、「改善しよう」という意気込みがあまり見受けられなかったそうです。「今まで患者応対について、あまり口うるさく言ってこなかったのも良くなかったのではないか」と院長は話していました。

 院長が診察している間は、受付などの様子は見られません。患者対応についてなかなか指導しづらいという理由から、覆面調査と結果を基にした研修を依頼されました。


所作は好印象なのに冷たい印象
 
 早速、覆面調査員A子がクリニックに向かいました。単線の駅から徒歩10分ほどの位置にあるのですが、伝統的な家屋と田園風景が広がる中、このクリニックは近代的でスタイリッシュな建物が印象的でした。

 実は来院前、電話で駅からの道のりを尋ねたのですが、「すぐ分かります」とだけ案内されました。しかし実際に最寄り駅からクリニックまでの道中、看板などがなく、建物が見えてくるまでは分かりづらかったようです。この点、新規の患者さんに対する心遣いに欠ける印象を受けました。

 建物の入り口で靴をスリッパに履き替えるのですが、患者さんの靴が棚に入っておらず、散乱していました。待合に入ったところで、受付にいる職員と目が合いましたが、職員から挨拶はありませんでした。受付に近づいていき、A子から声をかけて初めて挨拶を返してくれましたが、声もあまり元気がなく、ハキハキとした気持ちよいものではありませんでした。

 受付内にいる他のスタッフはA子のことを気にかけることなく、自分の仕事に没頭していました。結局、最初の受付職員以外の人から挨拶はありませんでした。

 スタッフの皆さんはずっとマスクをしたままで、全員が淡々と仕事をしています。話しかけにくい雰囲気でしたし、常に忙しそうで余裕がなく、覇気がないようにA子は感じたそうです。杖をついている足の不自由な患者が待合を移動していても、手を差し伸べたり、優しい声かけなどはなく、少々冷たい印象を受けました。

 診療前、待合から診察室前に移動するよう案内をしてくださったのですが、壁とパーテーションとの間の非常に狭い空間だったため、A子は「ここでいいのかな」と戸惑ったそうです。そこでキョロキョロと周囲をうかがっていましたが、職員からは何の声かけもありませんでした。

 このように、職員たちは全体的に冷たい印象で、不満を抱く患者さんがいても無理はないとA子は感じました。

 しかしながら、診察券や問診票などを渡す際には両手で丁寧に渡してくれましたし、トイレの場所を聞いた際は、きちんと指先を揃えた状態で指し示してくれましたので、丁寧な所作は定着しているようでした。

 さらに、予約時間を間違えて来院した患者さんに対して、対応した職員が「遠いところ来ていただいたのにごめんなさいね」と声をかけていたそうです。スタッフは決して冷たい人たちではなさそうなのに、なぜかA子は冷たい印象を職員から感じ取ってしまったのです。

 一体なぜでしょうか。

 
今回の診療所のスコア


100点中34点でした。


サービスとホスピタリティーの違い
 
 覆面調査の結果を受けて私がこの内科クリニックに研修に伺うと、A子のレポートから受けた印象とは異なり、明るく優しいスタッフに出迎えられ、少々驚いてしまいました。同時に、スタッフの良さが患者さんに伝わっていないことがとても残念でした。

 研修では、医療機関におけるホスピタリティー精神の大切さについてお伝えしました。医療機関もサービス業の1つと言われるようになって久しいですが、私は医療機関はサービス業というより、ホスピタリティー産業といった方が、ふさわしいと考えています。

 サービスという言葉は、ラテン語の「servire」(仕える)が語源です。派生した英単語にはservant(使用人)などがあります。つまり、サービスという言葉には、相手と主従の関係があるのです。医療において患者と医療従事者の関係を考えてみると、患者が医療従事者に仕えているわけではないですし、医療従事者が患者に仕えているわけでもありません。ですから、サービスというのはしっくりこないように感じます。

 これに対して、ホスピタリティーはラテン語のhospesが語源で、こちらは「客人の歓待」を意味します。旅に出た巡礼者に対し、現地の主人が慈善の気持ちで食事の世話をしたり、病気やけがの看病をするといった意味も含まれています。

 巡礼者が旅を続けるためには、食事をし、眠る場所が必要です。巡礼者は主人のおかげで、元気を取り戻すことができるのです。

 また現地の主人は巡礼の旅に出なくても、巡礼者を助けることによって自分自身も参拝をしたことと同様の意味を持つと考えられていたそうです。このように旅人と主人の関係は主従関係ではありません。それぞれが対等であり、協働の関係と言われています。

 患者と医療従事者の関係を考えてみると、患者は安心して充実した日々を過ごしたいと考えている主体者であり、医療従事者は医療のプロフェッショナルとして、患者の願いを叶えるために医療知識や技術を持つ人だといえます。医療従事者の皆さんは、患者の「心と体を元気にする力」を持っているのです。

 一方で、患者の心と体を元気にすることが医療従事者の仕事のやりがいであるはずですし、それによって喜びを感じることができます。


ホスピタリティーを発揮するために意識すること
 
 クリニックの業務について、「サービス」つまり「仕えること」に焦点を当てれば「やるべきことを正しくする」ことが最優先になります。今回の内科クリニックのスタッフは、患者との関係において、「正しく丁寧にすること」に多くの比重を割いていました。

 しかしながら、患者に対するホスピタリティー、つまり「心と体を元気にする」ことについては、あまり意識していなかったようです。自分たちがなすべき仕事(医療行為や医療事務)以外に患者に貢献する方法が分からなかったからです。

 患者は不安を抱えてクリニックに足を運ぶものです。診察を受けて、お薬をもらって、帰るときまでに、少しでも心を元気にすることができるのではないか──。研修では、サービスとホスピタリティーの違いについてお話しした後、「自分たちができることは何か」について、覆面調査の結果も踏まえてグループワークを行いました。

 すると、「患者には笑顔でハキハキと挨拶をする」といった基本的な部分から、「足が不自由な方への心遣い」などの具体策まで、様々な意見が出ました。

 「何かお手伝いをしましょうか」「お困りのことはありませんか」「車いすはご利用になりますか」といった心遣いを示す声かけは、患者の心を温かくし、元気にすることができます。

 またこのクリニックでは玄関で靴が散乱していました。靴を靴箱に入れるよう患者に促すには、分かりやすく文字で表示するだけでなく、こまめにスタッフが靴箱に入れるなどして、「靴がきれいに収納されている環境にする」とよいといったアドバイスもしました。

 新規の患者から電話で駅からの道のりを尋ねられた際の案内法については、実際にスタッフが駅から歩いてみて、どのような案内をすべきか確認し、受付に案内の受け答えのテンプレートを用意しておくことにしました。

 このように、漏れなく正しく素早く診察し、会計をするという「業務の正しさ」だけでなく、「クリニックの職員は患者の心を元気にするのが役割の1つである」ということを意識して仕事をするのが大事です。それを続けていると、クリニックの評判が上がるだけでなく、患者との関係が良くなることで、職員自身もやりがいや安らぎ、学びを得られるものなのです。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐サービスとホスピタリティーの違いを理解していますか。
☐「患者の心を元気にする」ことを実践していますか。
☐アクセス方法などは誰でも答えられるようテンプレートが用意されていますか。
 
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