改善事例

2021.08.02

覆面調査ルポ 待ち時間のイライラを増幅させた「仕方ない感」

Case36 好立地で混雑している皮膚科診療所

 今回は、都市部の住宅街にある皮膚科クリニックの事例です。最近、待ち時間が長く、苦情が多く集まっていることに悩んだ院長から、覆面調査の依頼がありました。

 特に院長が診察を行う日は、患者が多く集まり、混雑するとのこと。院長の希望もあって、最も混雑する曜日・時間帯で調査を実施することになりました。


「皆さん、立って待っていらっしゃいます」
 
 早速、覆面調査員A子が調査に向かいました。依頼のあった診療所は地下鉄の駅から徒歩1分で、分かりやすく便利な場所にありました。近くに皮膚科がないため、患者が集中しているのもうなずける立地でした。

 11時半過ぎにクリニックに入ったところ、待合室の椅子はぎっしり埋まっていて、受付の周りには立っている方もいました。A子はかき分けるように受付に行き、診察の希望を伝えました。受付スタッフには笑顔が全くなく、A子は「怖い」と感じたそうです。このスタッフはマスクをしていることもあり、目だけしか表情が見えない状態でした。患者に伝わる笑顔にするには、より目立つように表情を作らないといけません。

 職員は「こんにちは、初診ですね」と保険証を見ながら言い、アイコンタクトもなく、事務的に対応していました。言葉遣いそのものは不適切ではないのですが、冷たい印象を受けたそうです。

 A子が待ち時間について尋ねたところ、職員は「2時間以上かかります」と真顔で、恐縮する様子もなく答えました。驚いたA子が「外で待っていてもいいですか?」と聞くと、「診察受付終了時間の12時20分には必ず戻ってください」との返事がありました。

 待合室にあふれかえる患者の数から考えると、1時間弱ではまだ診察が回ってこないような気がしましたが、A子は言われたとおりに12時20分に診療所に戻りました。すると、11時半のときよりさらに多くの人が待っていました。受付スタッフに「座る所が全くないので、再度、外で待っていてもいいですか?」と尋ねたところ、少し、ムッとした様子で「皆さん、立って待っていらっしゃいます」とのこと。「でも、本当に場所がありませんから」と、A子が再度お願いすると、迷惑そうに「13時までに必ず戻ってきてください」と言いました。

 結局、14時前に診察の順番が回ってきました。院長からは「お待たせしました」という言葉があったのですが、それ以外の職員からは待ち時間に対する配慮の言葉はありませんでした。患者たちを立ったまま待たせていることに対して「仕方ない」「当然だ」という考えが見て取れる職員たちの対応について、A子はとても不快に感じたそうです。

 
今回の診療所のスコア


100点中40点でした。


不満をわざわざ表明せず、「次から来ない」人が大半
 
 クリニックで患者満足度調査を行うと、不満項目の常連に挙がるのが「待ち時間の長さ」です。2017年に日本医師会総合政策研究機構が発表した「第6回日本の医療に関する意識調査」でも、普段受けている医療に対する不満として、最も多かったのが「待ち時間」(32.1%)に関するものでした(次点は「治療費」で18.6%)。

 「患者の不満」は数字に表れるものだけではありません。米国のeサティスファイ・ドットコム社の調査によれば、一般の店舗で不満を抱いた客のうち、企業や職員に不満を伝える人はたった4%、残りの96%は不満を抱いても伝えない「サイレントクレーマー」だといいます。そして、サイレントクレーマーのうち約25%は「黙って立ち去る」人たちです。つまり、何も言わずに、次から行くのをやめます。当然、知人に奨めることもありません。待ち時間の長さによる不満を放置していると、中長期的に患者の減少を引き起こすのです。

 ただ、この待ち時間の問題に無頓着な院長も少なくないのが現状です。なぜなら、待ち時間に対する患者の不満の矛先は、受付職員に集中するからです。職員は待ち時間が長くなると患者から苦情を言われ、午前診が延長すれば残業する羽目になって、お昼休憩の時間がどんどん短くなります。診察が14時、15時まで続けば、空腹にも耐えなければなりません。そういったストレスの高い状況を放置していると、患者に対する接遇レベルが低下し、ひいては離職にまでつながりかねません。今回、調査を行った診療所のスタッフも、疲弊していたため、ムッとした様子に見えてしまった可能性があります。院長が診療しながら待合室の状況まで気を配るのは大変です。定期的に「何曜日」の「どの時間帯」が混んでいるのか、職員に確認するとよいです。

 待ち時間が長いことのデメリットは、まだあります。「待たせないようにしなくちゃ」というプレッシャーから焦りが生じるのです。そして、一人ひとりの患者に向き合う時間を短くしようとするあまり、「患者の話をしっかり聞かない」「患者の話を途中で遮る」「一方的に説明する」「説明を省く」「患者の顔を見ないで、パソコンを見ながら話す」など、待ち時間以外の部分でも患者に不満を抱かせる可能性が高まります。今回のクリニックでは、診察時間の短縮のため、診察前に看護師がお話を聞くというシステムを導入していました。しかし、傾聴する時間を省こうとしていたのか、知識が足りなかったのか、機能しているとは言えない状況でした。

 では、この待ち時間の問題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。


「ねぎらい」や「申し訳なさ」を表現する
 
 当然のことですが、医師の診察ペースを上回るスピードで患者が来院すれば、待ち時間は必ず生じます。しかし、これだけで「待ち時間の不満解消は難しい」とあきらめてはいけません。

 まずは、システムで解決する方法です。待ち時間が不快に思われないように仕組みを工夫するのです。銀行のように、待ち時間や待ち人数が分かるようなシステムを導入したり、携帯電話の番号を登録するだけで、順番が来ると着信音が鳴るようなシステムを導入すれば、クリニックの外で待つことができるようになります。ほかにもスマートフォンから当日予約ができるようなシステムを導入しているクリニックは非常に増えています。種類も豊富なので、自院に合ったものを検討するとよいでしょう。

 それでも待ち時間は生じるものですので、受付職員が患者に与える印象も重要になります。「待つのは当たり前」「仕方ない」というのは、ある意味、職員の正直な感情でしょう。ただし、その思いを患者に察知されると、悪印象を持たれ、無用なクレームが発生してしまいます。待ち時間を減らすことが難しいのは事実であっても、お待たせしていることに対して「ねぎらい」や「申し訳なさ」を表情や言葉で表しながら対応するのです。

 待っている患者に対する「声掛け」も大切です。一見、単純な手法ですが、これが意外に効果的。長い待ち時間に苦情を言う患者の多くが、「どれだけ待てばいいのか分からない」ことに腹を立てているといいます。彼らの怒りが頂点に達する前に、「すみません、あと○分ぐらいお待ちいただけますか?」「○○さんは○番目に診察予定です」などと伝えるようにするのです。このちょっとした心遣いによって、「待ち時間はあっても丁寧なクリニック」だという印象に変化するのです。

 それでも残念なことに、待ち時間に対する苦情が発生した場合は、どう挽回すればよいのでしょう。まずは誠実なお詫びが大事ですが、その上で、詳細な事情を聞くのが有効です。待ち時間の苦情といっても、表2のように様々な事情があるからです。

表2 待ち時間に対する不満のバリエーション
 
・「待ち時間が長い」と単に不満を伝えている
・予約時間から大幅にずれていることに疑問を抱いている
・診察まであとどれくらいなのか分からず、予定が立てられないことに不満を抱いている
・忘れられているのではないかと不安に思っている(順番を飛ばされているような気がする)
・帰りの時間やその後の予定が気になって、イライラしている
・何もすることがなくて、ただ退屈している
・待たされているのに説明がないので、不満を抱いている

 
苦情の本質がどこにあるのかしっかり傾聴した上で、共感し、患者の意見を復唱します。その場で解決できない場合は、「いただいたご意見を院長や他のスタッフなどと共有し、それを基に今後、改善してまいります」などと締めくくるとよいでしょう。そして、終礼などでこうしたクレームを集約・共有できる時間を作り、院内で改善につなげられるような仕組みにします。可能であれば、その患者が再来院した際に改善の進捗状況を伝えるようにすれば、その後も継続して通ってもらえるようになると思います。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐患者の待ち時間が、どの曜日にどの程度の時間になっているか把握していますか。
☐待ち時間そのものを減らす工夫をしていますか。
☐待ち時間に対する患者の不満を軽減するような「心遣い」を職員が意識していますか。
 
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