改善事例

2021.03.15

覆面調査ルポ 同僚批判ばかりの殺伐とした職場をどう変える?

Case18 受付スタッフが互いに文句ばかりの診療所

 今回は、整形外科クリニックの40歳代男性院長からのご依頼です。先代が診療所を開設してから20年余り。1年前に先代が引退して息子である院長が診療所を引き継ぐと、長年勤めてきた受付スタッフが相次いで退職。その後もスタッフが定着せず、受付はずっと殺伐とした雰囲気で、患者からの苦情が続いているとのことでした。

 苦情は「待ち時間が長い」、「薬を薬局にもらいにいくのが面倒」といったよくある内容ですが、患者が訴えたときのスタッフの対応が悪いために、火に油を注いで患者を怒らせてしまっているようです。

 受付で何が起こっているのだろうか――。院長はそれを知りたくて、覆面調査を依頼されました。


院長はじっくり話を聞いてくれるタイプだが…
 
 弊社の覆面調査員A子は、早速そのクリニックを訪れました。診療所は20年余りの月日を感じさせる外観でしたが、清掃は行き届いており清潔感がありました。

 A子がドアを押し開けると、正面に受付がありました。受付スタッフは書類を凝視していたり、パソコンの入力作業に集中していてA子に気づく様子は全く感じられません。

 そこで「初診受付」と書かれた場所でしばらく待っていましたが、全く声をかけられません。気づいていないのか、気づかないふりをしているのか、受付エリア内のスタッフが誰も動こうとしないのです。

 A子は、「あの~」と声をかけてみましたが、それでも誰も動きません。今度は「あの~すみません、初診なんですけど!」と大きな声で言いました。すると、ようやくパソコンで入力作業をしていたスタッフが面倒くさそうに立ち上がりA子のところへやってきました。スタッフはA子に「保険証出してください、問診票書いてください」と矢継ぎ早に言いました。これではA子が「感じが悪い」という第一印象を抱いたのも仕方がありません。

 問診票を記入して、再度、受付に行っても相変わらずスタッフは自分の作業を続けたままで、顔を上げてくれません。「あの~問診票書いたんですけど…」とA子が言うと先ほどのスタッフが、「あ、そこに置いといてください」とパソコンの画面を見たまま、A子の方を全く見ずに言いました。

 その後、問診票は受付の台に置かれたままで、しばらくしてスタッフが診察室に持っていきました。

 診察室に入ると、院長は挨拶もあり、じっくり話を聞いてくれて信頼感を抱かせる対応でした。診察室は受付とは正反対の雰囲気で、安心できる空間が提供されていました。


受付スタッフが口々に「明日にでも退職したい」
 
 覆面調査の結果、確かに受付スタッフの患者対応は悪く、受付スタッフ同士のコミュニケーションがないことも分かりました。

 このような状態の場合、すぐに接遇研修をしても多くの場合、効果は表れません。なぜなら積極的に真面目に参加すると後で陰口を言われてしまうため、研修が盛り上がらず冷めた雰囲気となり、誰も発言をしないお通夜のような状態になりかねないからです。

 接遇を良くする前に、受付スタッフの人間関係がどうなっているのかを明らかにするために、個別面談と「組織診断」を実施することになりました。

 

今回の診療所のスコア

 

100点中40点でした。

 
 個別面談は、A4サイズ1枚の「スタッフ面談シート」を活用して進めることにしました。第三者との面談を実施する目的をあらかじめ明確にして、スタッフの抵抗感を少なくしてから行います。

 目的としてスタッフに伝えたのは、次の二つです。1点目は診療所の接遇向上に向けて、スタッフの皆さんの力を集約するよう促すのが狙いであること、2点目は、皆さんが日常の仕事において困っていることや、院長との認識のギャップがあればそれを把握し、私たちが第三者的にフォローをし改善を図っていくこと。こうして目的を明らかにすると、スタッフの本音が引き出しやすくなるのです。

 同時に「ICM組織診断」という手法に基づくアンケートを実施しました。このアンケートは、企業研究などを手がける原田教育研究所が開発した組織診断ツールで、院内の人間関係の状態を把握するのに効果的な手法です。

個別面談の結果、受付スタッフは口々に「明日にでも退職したい」「診療所に出勤するのが辛い」「誰も信じられない」と不満を語り、非常に厳しい状態であることがわかりました。

 とりわけ問題だったのは、受付スタッフ全員が面談で他人の悪口ばかり言っており、聞くに堪えないということでした。組織診断の結果も、受付部署は互いに相手を信用しない「インプルーバブルタイプ」という、最も厳しい状態の組織だということが分かりました。このような状態では、トップダウンで組織風土を改善しなくてはなりません。


「悪口、愚痴は言わない」を徹底
 
 院長に状況を報告すると、「残念でたまりません。みんな素晴らしい人材だと思い、採用したのに、こんな状況とは……。どうしたらこの状況を解決できるか分からない」とがっくり肩を落としました。

 ですが、私はこう申し上げました。「今の状態を改善する方法はシンプルです。ルールを決めて実行するだけで、必ずよくなります。ただ、徹底して守っていただくことが必要なので、トップダウンで決意を持って取り組むことが必要です」。

 すると院長は「すぐに職員全体で取り組むように指示します」と答えてくださいました。こうして、院長がトップダウンで組織改革を進めることになりました。

 私は「悪口、愚痴は言わない」「感謝の気持ちを伝える」「良いところを見つけて声をかける」など10項目の改善策を院長に提案。自分ができているか、そして周りのスタッフができているか、各スタッフに毎日5段階で評価してもらうことにしました。

 最初の2週間は、「自分はできている」と思っているが、「周りはできていない」と感じるという自己本位な評価でした。しかし、自分はできていないけれど、周りはできているという評価が次第に増えていき、謙虚さが見られるようになってきました。コンサルティングを開始して1カ月半で、組織診断のスコアは大幅に改善していきました。


患者への声かけが増加
 
 組織風土の改善とともに接遇面においても改善が見られ、スタッフ同士が笑顔で声をかけあい、助け合うようになりました。患者への声かけも増えアイコンタクトも長くなり、よく気付くようになったと感じます。

 接遇が悪い場合は、接遇に関する知識がないことだけにとどまらず、組織内のスタッフの足を引っ張りあう風土が原因となっていることがあります。個別面談、組織診断を活用し、様々な角度から原因を分析して現状を改善していくことが効果的だと考えています。

 
【職場の人間関係チェックリスト】※一つでもチェックがある場合は要注意です。
☐互いに陰で悪口を言っている
☐よかれと思って実施したことが、批判されることが多い
☐話しかけても嫌な顔をされるなど自分を避けている同僚がいる
 
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