改善事例

2021.03.08

覆面調査ルポ 古参職員が新人いじめ、院長はどう介入すべき?

Case17 やる気のある新人と周囲がうまくいかず悩む内科院長

 今回は、ある内科クリニックの40歳代男性院長からのご依頼です。診療所を開設してから7年。少しずつ患者が増えてきたところです。ところが、昨年の春にある看護師を採用してから、院内の雰囲気が一変してしまいました。新人看護師と他の職員との間がうまくいっていないようで、診療時間中に全く口を利かないのです。院長は、そのことに気づいてはいたものの、どのように注意すべきかわからず、悶々と悩んでいました。

 何より、職員の雰囲気の悪さが患者に伝わっていないかが、とても心配になり弊社の覆面調査サービス(サロン・ド・クリニック)をお申し込みになりました。


笑顔の裏に隠された本当の表情
 
 さっそく弊社の覆面調査員A子は郊外にあるクリニックに車で向かいました。高級住宅街の一角にあるそのクリニックは、青い屋根が印象的な北欧からの輸入住宅で、周囲のおしゃれな街並みによく馴染んでいます。温かく優しい雰囲気は、クリニックではなく、まるでおしゃれなカフェのようです。

 中に入ると、北欧らしい無垢材のフローリングがピカピカに磨かれ、センスの良い動物のオブジェが、梁の絶妙な場所に置いてあるなど、ナチュラルなテイストで安心できる空間が広がっていました。

 受付職員は、笑顔は出ていましたが「はいはーい! そうなんですね。分かりました~」とやや馴れ馴れしい話し方が気になりました。初診であることを伝えると「保険証お願いします」「こちらの問診票にご記入ください」とアイコンタクトもなく、いつも言っていることをただ反復しているだけの「心のこもっていない対応」が少し気になりましたが、比較的明るく元気な印象でした。

 ところが、診察室から看護師がカルテを持って受付ブースに入ってくると、受付スタッフの表情が急にこわばりました。彼女をにらみつけて、はあっと吐き捨てるようなため息をついたのです。その時の様子がなんとも言えない嫌な雰囲気で、人間関係の悪さはすぐに伝わってきました。

 患者は応対時の職員の表情のみならず、応対していないときの表情も意外とよく見ていて、後者の態度こそ「その人の本質だ」と考えているものです。ですから受付職員のような表情の変化があると「いい人のふりをしているけれど、本当は感じの悪い人」だと思われてしまいかねません。


「はぁ?自分でやれば」と言い放つ職員に驚く患者
 
 診察室では、穏やかで控えめな院長が丁寧な診察をしてくださいました。その間、先ほどの看護師が別の患者の処置をしていました。看護師が処置の途中で、何か必要なものがあったようで、他のスタッフに「○○さん」と呼びかけたのですが、当の○○さんは、聞こえないふりをして、自分の別の作業をしています。

「○○さん、すみませんが、△△お願いします」ともう一度言うと、○○さんは、看護師の方を見ることもなく「はあ?自分でやれば」と言い放ちました。看護師は、仕方なく患者に断りを入れて、自分で取りにいき改めて処置をし直していました。ほかの患者たちは、驚きの表情でそのやり取りを見ていました。
 
今回の診療所のスコア


100点中48点でした。


 私は覆面調査員からの報告を基に、院長に人間関係の悪さは、患者に伝わっていると報告しました。院長は「やっぱりそうですか……」とがっくりと肩を落としました。そしてぽつぽつと語り始めました。「看護師の彼女、向上心があって私から見るといい子なのですが、周りとうまくいかなくて……。他の職員が悪いのか、彼女に問題があるのか、よく分からないのです。どう解決すればよいのでしょうか」。

 私は、現在起こっていることを明らかにするために、全員と面談をすること、さらに面談の結果を踏まえて研修を行うことを提案しました。

 面談をする際、外部の人が突然、「職場でいじめや仲たがいがありませんか?」と直接、尋ねても答えてくれることはありません。こういった場合は「もっと仕事が楽しく、やりがいが持てるように研修を行うことになりました、ホスピタリティコンサルタントの榊原陽子です。研修を実施する前にみなさんの仕事に関する現在の状況をお聞きするために面談をさせていただきます。この場で話されたことを院長にそのまま伝えたり、他のスタッフに伝えることはありませんので、ご安心ください」と言ってから始めます。あらかじめ『モチベーション曲線』のシートをお渡しして記入してもらっておくと、さらに本音が引き出しやすくなります。

 『モチベーション曲線』とは、仕事を始めてから職員のモチベーションがどのように変化をしたのか、自由な曲線を記入して表現してもらうツールです。曲線を記入したら、次にどんなときにモチベーションが上がったり、下がったりしたのかを自分で振り返ってもらいます。そしてその理由を考えてもらうのです。そうするとこれまでぼんやりとしていた仕事のやりがいや、仕事に対する課題が浮き彫りになってきます。

 ヒアリングの機会に使うと、職員がこれまでどんな気持ちで仕事をしてきたのかがよくわかります。また何があるとモチベーションが向上し、低下するのかを理解できるので、今後の職員マネジメントに役立つ資料にもなります。組織に問題がある場合、それが原因でモチベーションが低下していることは非常に多いので、さりげなくその問題を引き出すのに、とても役に立ちます。


古参の受付職員が悪口を触れ回る
 
 面談をした結果、古参の受付職員が、新人看護師のことを気に入らないらしく、他の職員に陰口をしたりLINEで悪口を触れ回っていることが分かりました。他の職員は新人の看護師のことが特に好きでも嫌いでもなかったのですが、古参の受付スタッフに嫌われるのが怖くて、新人看護師と話さないようにしていたのです。古参の受付職員は、今まで院長に自分が一番好かれていたと思っていたのに、新人の看護師が来たら、院長がそちらを重用しているように感じて、気に入らなかったようでした。

 院長には、現在の人間関係の様子を報告し、気持ちの良い職場にするための研修を提案しました。これは、患者接遇を学ぶものではなく、職場内でのルール・マナーを明確にして、みんなで決めた約束をしっかり守り、安心して働くことができる理想の職場を作るための研修です。

 マズローの欲求階層説にもあるように、職場が安全で、安心できる場でなければ、より患者のためになる接遇とは何かを自ら考えることはできないものです。不安な職場で接遇の研修をどんなに実施しても、職場に定着することはないと言えます。

 研修では、職場のコミュニケーションの基本ポイントを伝えてから、理想の職場にするためにどのようなことに気をつけるべきかをみなさんに付箋に書いてもらい、模造紙に貼りつけました。その結果、「人の悪口は言わない」という基本的なマナーや、「好き、嫌いで仕事をしない」など、一見当たり前ですが、スタッフたちが思っていてもなかなか口に出して言えないことも、職員で共有することができました。また研修の冒頭と終わりに、患者に安心と満足を提供するためには、職員同士の協力が不可欠であること、いじめのような行動は断固許さないことを院長から明言してもらいました。

 結局、研修後、しばらくして古参の受付職員は退職されました。残念なことに、彼女は変わることができず、居心地が悪くなってしまったのです。新人看護師は辛い経験をしましたが、今では前向きに仕事に励んでいます。

 クリニックの場合、前向きで熱心な職員が入ってくると、出る杭は打たれるというように、ぬるま湯で楽をしていたい職員からのいじめに遭うことが少なくありません。こういう場合は院長がリーダーとして、クリニックの職員としてあるべき姿を明示することが大切です。

 また、院長が誰かを特別扱いすることを控え、公平な評価制度を作るなどして、きちんと評価することにより、職員の納得感が得られます。そういった評価制度をつくるクリニックも増えているので、未対応の場合はぜひご検討ください。

 
〔職場のマナーチェックリスト(新入社員の困った行動)〕
☐名前を呼ばれたり、指示されたときは、呼んだ人に聞こえるようにハイと返事をする
☐私語、雑談、高笑いは慎む
☐持ち場を離れるときは行き先、用件、戻る時間を伝える
☐常にキビキビとした態度を心がける
☐人に話しかけるときは、相手の名前を呼んでから話しかける
☐仕事中の人に話しかけるときは、タイミングを見計らって「少々、よろしいでしょうか」などと声をかけてから話しかける
☐他人が話しているときは、横から口を差し挟み、話の腰を折らないように気をつける
☐金銭の貸し借りはしない
☐人の悪口は言わない
☐仕事の場にふさわしい敬語を使う
 
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