改善事例

2021.08.23

覆面調査ルポ 働き方改革が招いた職員の焦りとサービス低下

Case37 説明不足で患者を不安にさせる診療所

 今回は、地方にある比較的大規模な内科・耳鼻科クリニックの事例です。今年に入って急に「受付の対応が冷たい」「怖い」という苦情が幾つか寄せられるようになり、実態をつかみたいという理由で院長先生から依頼されました。早速、覆面調査員A子が調査に向かいました。

 クリニックの建物は築年数を感じさせるもので、地域に根差した医療機関でした。掃除は行き届いているものの、待合スペースにポスターやお知らせの紙が多く貼られたり、留めるマグネットもバラバラで、スッキリしない印象でした。

 受付・会計の職員は、身だしなみは整っているものの、笑顔はありませんでした。マスクをしているので、A子は「少し怖い」と感じたそうです。受付職員が高齢の患者さんに「取りあえず、あちらに行ってください」と強い口調で伝える声が聞こえてきたり、別のスタッフも、質問した患者さんに対して冷たくあしらっているように見えました。職員たちは急ぐ用事は特になさそうでしたが、とにかく焦っている様子が見られました。


かゆいところに手が届かない対応
 
 A子はクリニックに向かう前に、診療所に電話で「最寄り駅からバスでアクセスする場合、バスは1時間に何本くらいあるのですか?」と質問しました。そのとき、受付職員は「さあ、そこまでは分かりませんね~。バス会社さんか、駅に聞いていただければ分かると思いますが」という調子で、バスの時刻表を全く把握していない様子でした。クリニックの前には「○○クリニック前」というバス停があり、バスでアクセスするのにとても便利な立地です。バスの時刻に関する質問も多いはずですので、時刻表を大まかに把握しておけばスムーズに案内できるのにと感じました。

 こうしたことは帰りの場面でもありました。A子は帰りがけにタクシーを呼びたいと思い、受付に問い合わせました。すると、受付職員は「あちらの電話をご利用ください」と早口で言い、すぐに作業に戻りました。A子は指された方向にある公衆電話を見つけて向かったのですが、どこに電話をかければいいか分からず、もう一度、受付に戻って「近隣のタクシー会社の番号を教えてください」と申し出ました。すると受付職員は、「公衆電話の横に案内があるはずですけど」と言いました。

 A子が再度、見に行くと確かに横に案内板がありました。「タクシー会社の案内板があるということも、最初に教えてもらえたら二度手間にならなかった」とA子は感じたようです。

 診療中も同様です。受付後、「看護外来」の受付に行くように言われ、A子はそのカウンター前で立っていましたが、しばらく、誰からも声をかけられませんでした。その後、「血圧を測るので中へ入ってください」と言われ、カウンターの中に入り、血圧計の前で立っていましたが、そこでも誰も声をかけてくれませんでした。

 1、2分後、先ほど対応してくれた看護師さんが気づいてくれたのですが、血圧を自分で測るのが正しい対応だったようです。測定後も、A子は出てきた結果用紙を持って立ち上がったものの、どうしていいか分かりませんでした。結局、その用紙は最初に対応した看護師さんに渡すようでした。「何をすべきか、まとめて教えてほしかった」とA子は思ったようです。全てにおいて説明不足で、初診患者への配慮が感じられず、残念でした。周りには大勢の看護師がいましたが、忙しそうに自身の作業に没頭していました。

 中にはお手洗いの場所をにこやかに案内した職員や、患者のご家族と談笑されている職員の姿も見られたのですが、全体的に慌ただしく、雑然とした印象でした。職員たちが時間をなるべく短縮しようとして説明を省くあまり、二度手間を招いている場面も目立ちました。

 

今回の診療所のスコア


100点中32点でした。


「業務効率アップ」を意識するあまり…
 
 院長にこれらの調査結果を報告したところ、「そうですか……」と思い当たるところがあったようです。さらに話を聞いていくと、院長は「当院が最近取り組んでいる『働き方改革』の弊害が出ているのかもしれませんね」と話し始めました。

 このクリニックが最近、働き方改革に注力している背景は次の通りです。どうやら先代の頃から、職員の労働時間に関しては、「何となく丸め」で処理してきたようです。職員たちは、診療開始時刻の大体30分くらい前に来て、診察終了後、皆で片付けをしてから帰るという運用で、残業代は特に支払っていませんでした。それなりの賃金水準で処遇していたので、スタッフからの不満も特になかったとのことです。

 しかし3年ほど前に入職した正職員のAさんと、昨年入職したパートのBさんから「残業代は何時から付くのですか」「有給休暇は取れないのですか」などと労務関連の質問を受けたのをきっかけに、院長が自院の労務規約を確認したところ、不備が続々と見つかったようです。世間では「働き方改革」という言葉も毎日のように聞かれることから、今年から職員の労働時間の管理にきちんと取り組み始めました。

 すると、意外と残業が多いことや、有給休暇が取得できていないことに気づきました。そこで院長は「業務効率をしっかり上げて、残業をしなくて済むような働き方を進める」と号令。診療開始時刻の30分前を始業時刻、診察終了時刻の30分後を終業時刻と定め、「できるだけ無駄な残業はやめましょう」と朝礼などの場で伝えました。

 その結果、これまで時間を気にせずに働いていたスタッフの間に、時間内に業務を終わらせようとする意識が芽生えたようです。「業務の効率化を目指す意識はいいと思うのですが、本来、丁寧にやるべき患者対応までおろそかになったのかもしれません」と院長は声を落としました。

 そこで私は、患者対応を効率化する際の考え方について、次のような内容をアドバイスしました。


患者対応を効率化するときに考えたいこと
 
 院長が「業務効率のアップ」を掲げたことで、職員が「急いでやる」「早くやる」ことを意識し過ぎてしまい、患者対応がおろそかになったり、ミスが増えたりすることは、他のクリニックでも発生している事態です。トップが意識すべきことは、一つひとつの業務を整理して、「無駄」と思われる業務を探すこと、そしてこの業務を「止めるのか」「減らすのか」「変えるのか」を職員と一緒に考えることです。

 例えば最近、導入金額が下がってきたことから自動精算機を入れるクリニックが増えています。これにより、会計時間と会計に関わる職員の労働時間を減らすことができます。つまり「金銭授受」という業務を機械に置き換える選択をしているわけです。

 自動精算機があれば、金額の登録ミスや、つり銭間違いがほぼなくなるので、レジ締めの時間が減り、残業が減るかもしれません。また、預かり金やつり銭の確認で患者さんを待たせる時間も減れば、院内の混雑緩和にもなるでしょう。スタッフに精神的なゆとりが生まれれば、笑顔も増え、患者からの好感も得られるかもしれません。こうしたメリットと、導入金額との見合いで、業務改善の方向性を判断していくのが院長が取り組むべき「働き方改革」です。

 こうした業務の洗い出しをしないまま「効率化」だけを宣言すると、どうしても職員は「作業を早める」ことに意識が集中してしまいがちです。そうすると、ミスや二度手間、苦情を招くことにつながってしまいます。

 加えて、患者と職員との接点の時間は「無駄」ではないということに留意していただきたいと思います。医療機関の質というのは、患者との接点において「患者がどう感じたか」が大きく影響します。これは医師だけでなく全ての職員と患者との接点でいえることです。この患者との接点時間を安易に削ることはできるだけ避けるようお勧めしています。

 ただ、この患者との接点に関しても、工夫次第で、価値を高めつつ時間を減らすことができます。そのキーワードが「一歩先を見据えた対応」です。

 今回の覆面調査では、タクシーを電話で呼ぶ場面や、血圧測定をする場面などで、説明の二度手間が発生していました。説明を省いた結果、患者に不安な印象を与えつつ、結局、患者に説明する時間が増えてしまっています。これを解消するには、前もって、患者の疑問点を先回りした説明を行うことが大切になります。

 例えば、血圧測定を案内する場面では、今回のように「こちらの部屋にお入りください」では説明不足です。「こちらの機器でご自分で測定していただき、出てきた結果用紙をカウンターまでお持ちください」と最初から具体的に言うようにすれば、患者にも分かりやすく、トータルの説明時間も減るはずです。同様に、タクシー会社を案内する際も、分かりやすい用紙を受付に用意しておいたり、電話の横にある案内板も含めて伝えれば二度手間にならずに済む話でした。事前の準備をしておけば「業務の効率化」ができるという視点を職員に示した上で、何ができるかを皆で一緒に考えるのが大事です。

 働き方改革の影響で、これまでうやむやだった労働時間の管理が厳格になり、掃除の時間や着替えの時間、電話番なども労働時間に含めなければならないことを知り、驚いている先生方も少なくないと思います。インターネットの普及により、労働基準法に関する疑問があればスタッフ自身がすぐに検索できるようになりました。残業代の未払いがあると、意図的でなかったとしても「ブラック職場」と批判されたり、労働基準監督署に駆け込まれることがあります。「働き方改革」を上手に進めていかないといけないこの時代、効果的な業務改善と、安易に簡素化すべきではないポイントについて院長が理解した上で、改善を進めていくことをお勧めします。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐日々の業務で止めてもよいものを洗い出していますか。
☐業務効率化が「作業を早める」という目標にすり替わっていませんか。
☐事前の準備によって効率化する業務はありませんか。
 
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