改善事例

2021.01.25

覆面調査ルポ 「接遇日本一」目指す院長に誰もついていけず

Case11  院長と職員の雰囲気が全く異なるクリニック

 今回のご依頼は整形外科クリニックの40歳代の男性院長からでした。先代のお父様のクリニックを引き継ぎ、これからのクリニック経営には接遇が不可欠だということで、接遇日本一を目指して、職員に対してかなり細かい点まで指導しているにもかかわらず、なかなか良くならないとお悩みでした。自分は率先垂範のつもりで頑張っているのに、職員は挨拶やアイコンタクト、笑顔さえもできないことに対し、不満といら立ちを感じており、「第三者の視点から職員の対応の悪さを指摘してほしい」「自分の悪いところも伝えてほしい」というご依頼でした。

 今回は、上記の経緯から、院長ご本人にも覆面調査の日時や担当者名をお伝えすることなく実施しました。院長は職員に対して、「今月、覆面調査員が来ることになっている。普段よりも一層接遇には気を付けてもらいたい」と伝えたそうです。


なぜ職員が院長に協力的でないかヒアリング

 

 弊社の覆面調査員A子は、早速、そのクリニックに伺いました。玄関を入っても、特に挨拶はありません。受付まで行ってから、やっと「あ、初診ですか?」と聞かれて、「はい」と答えました。しばらく無言だったので、こちらから「あの……保険証を出せばよいでしょうか?」と聞くと「はい。お願いします。こちら、書いてください」と言って、問診票とボールペンを渡されました。聞けば答えてくれるものの、心遣いや気遣いは感じられない事務的な対応でした。

 一方、診察の順番が回ってきて診察室に入ると、元気な声で「こんにちは、○○さん、どうしましたか?」と院長先生が笑顔で聞いてくれました。受付の対応とは正反対のはつらつとした印象です。診察も丁寧で、とても親切な先生でした。接遇には力を入れているとおっしゃっていた通り、ご自身も丁寧な対応を常に意識されていることが伝わってきました。

 A子は、なぜ受付や看護のスタッフと院長先生の雰囲気がこんなに違うのか非常に気になりました。職員が院長に協力的でないのには、何か理由があるのではないかと推測されましたので、覆面調査の後、スタッフ一人ひとりにヒアリングを実施しました。

 すると職員からは、「先生の言うことは正しいのだけれど、私たちには無理」「頑張っているのに、いつも叱られてしまう」「私たちには何か言える雰囲気ではない」「効率的に動かないとすぐにその点を指摘されるので、笑顔になる余裕がない」との意見が聞かれました。

 院長先生は全てが優れているため、自分たちはとてもかなわない。先生のようにはできないという、あきらめに近い感情が満ちあふれていることが明らかになりました。

 

今回の事例のスコア
100点中51点でした。

院長に職員の気持ちを伝えるワークショップを実施

 

 このような場合、院長先生に職員の正直な気持ちを伝え、院長が気持ちを受け止める機会を作るだけでも、関係が良くなることがあります。

 ですから、今回は、通常の覆面調査のフィードバックをする前に「リーダーズインテグレーション」というワークショップを実施しました。

 
具体的な手順を紹介します。

(1)院長と職員たちに集まってもらい、まず院長から職員へ患者接遇への想いを伝えてもらう
(院長は退室)

職員と弊社のホスピタリティコンサルタントのみで、
(2)院長の考え方などについて知っていることを挙げてもらう
(3)院長の考え方などについて知りたいことを挙げてもらう
(4)院長に知っておいてほしいことを挙げてもらう
(5)患者接遇についてみんなにできることを挙げてもらう

(職員退室/院長入室)
(6)ホスピタリティコンサルタントが院長へ議論の内容を説明

(職員が再入場)
(7)院長が(2)~(5)の質問やコメントに答える

という流れです。

 

 院長と職員が直接、議論せず、このような手順を取るのは、お互い本音で話ができるようにするための「ファシリテーション」を考えてのことです。院長がいないところの方が、思っていることなどをリラックスして伝えやすいものです。また外部コンサルタントがファシリテーターの役割を果たすことで、悪口や噂話ではなく、建設的な意見として吸い上げることができます。

 今回のようなケースでは、院長とスタッフの間に高い垣根があることが多く、院長からすれば、スタッフが当然知っているだろうと思っていることが、実は全く伝わっていないこともよくあります。(2)(3)のプロセスで、「院長の考え方などについて知っていること」「院長の考え方などについて知りたいこと」を挙げてもらうのは、そうしたギャップを浮き彫りにすることが狙いです。

 みんなに笑顔で幸せに主体的に働いてほしいと院長は思っているのに、スタッフが「院長の言う通りにしなければならないから」という消極的な姿勢で働いていることはよくあります。実際、今回のワークショップでも、院長に関して「声が大きい」とか「亭主関白っぽい」など、少々ネガティブな意見が出ていました。

 (4)の「院長に知っておいてほしいところ」では、職員の皆さんに「院長になかなか言えなかったこと」を発言していただき模造紙にまとめました。その結果を(6)のプロセスで、院長にしっかり受け止めていただきました。

 いきなり(7)の院長と職員との直接対話に行かずに、コンサルタントから院長にまず説明するのは、院長に、冷静に前向きに受け止めてもらえるように伝えるためです。スタッフと院長が心の準備なく直接話すと、感情的になったり誤解が生じる可能性があります。

 (7)の段階で院長は、自分のやり方や価値観を職員に押し付けていたことに気付き、これからはもっと職員の話を聞くことを約束してくださいました。職員も院長の接遇向上への想いを理解することができ、今後は協力して患者に安心してもらえるような挨拶と気配りを実践していくと約束してくれました。覆面調査のフィードバックも、良い雰囲気で前向きに受け止めてもらえたようで、接遇改善の一歩を踏み出すことができました。

 院長も職員も、患者に安心していただきたい、笑顔になってほしいという願いを持っています。しかしながら、ちょっとした言葉の行き違いでうまくいかないこともあります。覆面調査をはじめとした外部サービスの利用により、心のすれ違いの状況を改め、結束を強固にしていくこともできるのです。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐接遇改善にチームとして取り組んでいるか
☐院長からの価値観の押し付けになっていないか
☐職員の意見を聞くことができているか
 
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