改善事例

2021.05.24

覆面調査ルポ 「医院に接遇はいらない」と反発した職員の真意

Case27 受付対応への苦情が相次ぐ眼科診療所

 今回は、眼科のクリニックに対して行った覆面調査の事例をご紹介します。院長は、40代の男性医師。「受付スタッフの対応が怖くて声を掛けられない」という患者からの指摘が相次いだことから、調査をすることになりました。

 患者の話によると受付スタッフの1人は、いつも顔をしかめていて、ちょっとした質問があって話しかけると「何か用ですか?必要なことがあれば、呼びますから、待合室で待っていてください」と言うのですごく怖いとのこと。院長は接遇スキルの向上が重点課題であることを認識していましたが、普段は診察室にいるため、受付で何が起こっているのか、全くわからないと訴えていました。

 早速、弊社の覆面調査員が調査に向かいました。クリニックは比較的大きなテナントビルに入居しています。院内に入ってみると、受付のスタッフは誰一人として笑顔がなく、アイコンタクトをとれている方もいらっしゃいません。特にお一人の方は、常に顔をしかめており、話し掛けづらい雰囲気です。スタッフのみなさんが髪をまとめていなかった点も気になりました。

 また、受付のスタッフが患者番号を呼ぶ際、かなり大きい声で、しかも「○○番の方―――」と語尾が伸びていたのが気になりました。耳の遠い方もいらっしゃるでしょうし、待合室全体に聞こえるように大きな声で呼ぶ必要があるのは理解できるのですが、急に大きな声を出されると驚いてしまいます。待合室の患者の中にも、びくっとした様子の方が見られました。

 受付で「こんにちは。初診をお願いしたいのですが」と挨拶したところ、受付スタッフからの挨拶はなく、無言で保険証を持っていってしまいました。保険証を返してもらったときも片手で「はい」と渡され、丁寧さに欠ける印象でした。

 帰りに駐車場に近いエレベーターの場所を受付の方に質問したところ、「出てすぐです。出ればわかります」と面倒くさそうに言われました。確かにすぐにわかる位置ではありましたが、もう少し丁寧な伝え方にした方がよいのではないかと思いました。

 院長には、先生ご自身の対応は素晴らしく、スタッフの対応とのギャップが非常に大きいと伝えました。そこで院長がいつも心がけていること、スタッフに求めていることをきちんと伝えてはどうかと提案しました。しかしながら院長は、医療に関してはもちろん自信はあるけれど、患者接遇は、自分が実践していることが正しいのかどうかわからず、自分からは伝えられないので、私(榊原)から伝えてほしいとおっしゃいました。

 

今回の診療所のスコア

100点中32点でした。


 院長との話し合いの結果、ホスピタリティマナー研修を月1回2時間、3カ月にわたり実施することになりました。

 通常、私どもの研修の1回目では、私から医療機関における患者接遇の重要性について、ホスピタリティの観点からお伝えしています。ところが、今回はいつもと違っていました。自己紹介と研修の目的をお話ししたところで、受付スタッフのAさんが突然、話し出したのです。

 「接遇なんて私、医療機関には正直いらないと思うんです。だってそんなことやってる病院とかクリニックとかないですよね。どこの病院に行ってもちゃんとした敬語なんて使ってないですし。なんでうちだけ、やらなくちゃいけないのか、わかりません。私、人にペコペコ気を遣うの、好きじゃないんです。仕事はちゃんとやっているんだから、あれこれ言われるのは嫌です」

 私は、なんて素直な方だろうと思いました。医療機関で働くスタッフの方々の中には、こういった考えをお持ちの方は少なからずいらっしゃるように思います。でも、面と向かってお話ししてくださる方は貴重な存在なので、その方の疑問に寄り添い、研修の中で解決することにし、次のようなお話をしました。

 「Aさん、ありがとうございます。Aさんのような思いを抱いていらっしゃる方は少なくないと思います。そういった方々の気持ちを代弁してくださることは、とても素晴らしいことだと思います。Aさんのお考えがわかりましたので、私からもお話をさせていただいてもよろしいでしょうか。

 私が今回のような研修で伝えているのは、医療機関というのはサービス業ではないということです。最近は医療機関もサービス業と言われることもありますが、本質としては違うと考えています。サービスという言葉は、元々の語源に『奴隷』という意味を含んでいるといわれていますが、医療機関において、患者と医療スタッフが主従関係ということはありません。

 医療スタッフは、患者がよりその人らしい人生を送るための専門知識を持っています。そして患者は自分の人生をより納得のいくものにしたいと思っているものです。ですから、患者と医療スタッフに上下関係はなく、対等な関係だといえます。このように互いに思いやる、対等な関係を示す言葉がホスピタリティです。

 医療スタッフのやりがいや喜びは、患者に元気になってもらうこと、笑顔を取り戻してもらうことにあると思います。ですから、患者がより良い人生を歩むことが、医療スタッフのやりがいや仕事へのモチベーションの向上につながるのです。思いやりの気持ちを伝えあい、相手の気持ちをプラスにするホスピタリティの考え方が医療機関にはぴったりなのです。Aさんも、患者さんには元気になってほしいと思っていることだと思います。だから、変にペコペコしなくても大丈夫なので、安心してください。

 それでは、そのホスピタリティの気持ちを伝えるためには、どうしたらよいかというと、まずはマナーを学んで接遇を良くすることが大切なのです。どんなに思いやりがあっても、どんなに相手のことを思いやっていても、言葉遣いなどが適切でないと不快感を与えてしまい、うまく伝わらなかったりします。

 挨拶をしない人に対して、好印象を持つことはありません。ですから挨拶をしないと良い関係を築くことはとても難しくなります。嫌な思いをさせないようにするために、マナーを学び実践することは、医療機関以外でも人が人に関わる仕事では不可欠な要素なのです。

 敬語を学ぶこともその1つです。最近はコンビニでもファミリーレストランでもファストフードでも、敬語を学んで使っています。敬語をきちんと使えていない医療機関は、患者にとっても不自然な印象を与えるようになってきました。マナーを学び接遇応対が良くなれば、患者からの信頼感が高まり、スタッフはより一層やりがいを感じられようになるでしょう。そんなふうに接遇について考えてみませんか?」

 この研修を受講した後、受付スタッフのAさんはとても驚いた様子でした。接遇とかマナーというと堅苦しいものであり、実際の仕事には役に立たないと思っていたそうです。自分の仕事を充実させることにつながっているとは、全く思っていなかったとおっしゃっていました。

 結果、Aさんの接遇は少しずつ良くなり、苦情はほとんどなくなりました。人は「なぜそれが必要なのか?」を理解することができれば、自然にスキルは向上していくものです。そして相手に何かを理解してほしいと思ったときには、まず自分が相手を理解するようにして、その上で伝えてみるとAさんのように理解してもらえることも多いのです。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐接遇の本当の意味はスタッフに伝わっていますか?
☐患者に馴れ馴れしい言葉を使っていませんか?
☐挨拶の大切さを理解していますか?
 
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