改善事例

2021.01.12

覆面調査ルポ 全員無表情! 企業に委託した受付の異様な光景

Case9  業務委託で受付応対のレベル低下を来した病院

 今回は、ある大病院のケースを取り上げます。近年、急性期型の大病院は経営の合理化をどんどん進めています。その手段の1つが業務委託で、特に受付業務のアウトソーシングに踏み切る病院が増えてきました。病院は受付スタッフの採用・育成・管理を行う必要がなくなります。また給与体系を病院職員とは別にすることができ、コスト削減につながります。

 しかしその結果、今回ご紹介する病院では、病院の「顔」とも言える受付の対応がさらに悪くなってしまいました。業務委託の場合、対応の悪い受付スタッフがいても、委託した医療法人は指示や注意を直接、そのスタッフに行うことはできません。法律上、委託した側が指揮、命令できないと定められているからです。

 業務を受託している会社側に、問題点と要望を伝える必要があります。そこで病院側が、客観的な評価や問題点を分かりやすく委託先に伝えたいと、私どもの覆面調査サービスである「サロン・ド・クリニック」を依頼されました。


患者を軽くあしらうような自己本位な対応

 

 早速、調査員のA子が覆面調査に乗り出しました。この病院に入り、最も驚いたのは、誰一人として、目を合わせないということです。

 初診の受付では、全てのスタッフがパソコン画面をずっと見続けていて、A子が保険証を差し出すと、保険証は見るけれど患者の顔は見ません。当然、挨拶もありません。

 まるで受付ロボットのように、何の表情も温かな声掛けもなく、事務的な処理を淡々と進めていきます。このような、アイコンタクトの全くないコミュニケーションは相手を不安にさせます。

 患者は、当然のことながら、病気やけがのため不安を抱えて病院にいらっしゃいます。にもかかわらず受付の対応が事務的なものでは、さらに患者を不安にさせるという悪循環が生じます。患者は元気になるために病院に来ているはずなのに、さらに気分が落ち込み、病気にも影響を与える可能性すらあるのです。

 また、急いでいる、患者を軽くあしらう――という自己本位な対応ばかりが目立ちました。立ち居振る舞いの極意に、「動作の最後をゆっくりと」というものがあります。物を渡すとき、物を置くとき、お辞儀をするときなど、動作の最後を意識的にゆっくり行うと余韻が生まれ、エレガントな雰囲気になります。

 

今回の事例のスコア

100点中36点でした。


 時間がないときは動作が雑になってしまいがちですが、動作の最後をゆっくりすることで、思いやりのある対応という印象になるとともに、結局は効率的に物事が進むことも多いものです。例えば、喫茶店でスタッフが水を持ってくる場面でも、グラスをテーブルに置くときに最後が早いと「ドン!」と音がして、乱暴な印象になるばかりか、水があふれてしまいかねません。結果、拭くという作業が発生し、かえって非効率的です。

 A子は受付で、記入台に設置してある初診患者用の記入用紙をいきなり数枚手渡しされ、「初診受付」で受け付けするように案内されました。記入用紙を渡す際も、動作の最後がゆっくりであれば丁寧な印象になりますが、動作の最後が早いと「いきなり渡された」「自分の仕事を早く終えたいという気持ちが伝わってきた」という不快な印象に変わります。


会社の風土に問題がある可能性

 

 相手の気持ちや想いをくみ取ることをシャットアウトし、ロボットのように作業だけを進められると、患者は自分のことを見てくれていない、大切に思ってくれていないと感じるものです。

 これまでの連載でご紹介したようなクリニックの覆面調査では、特定のスタッフの対応が悪く問題であることが多いのですが、今回の病院では、ほとんど全員の対応が良くありませんでした。業務を請け負っている会社の風土に問題のある可能性があります。

 スタッフ一人ひとりは高いパフォーマンスを発揮できるはずなのに、組織風土が悪いと、高いパフォーマンスを発揮して目立つのを避けようという心理が個々人に働きます。すると入職時は良い対応を行えた人でも、だんだん組織に染まっていってしまうのです。

 以上のような結果を病院に報告し、病院は受付業務の委託先企業に報告しました。その際、先方の企業には、客観的な意見ということで重く受け止めていただけたようです。病院からは「覆面調査を依頼して本当に良かった」と感謝のお言葉をいただきました。


2時間の接遇研修のみでは改善しない

 

 しかしながら、この委託先企業は、その後2時間の接遇研修を外部講師に依頼することしか対策を取りませんでした。このような状況に陥っている場合、たった2時間の接遇研修で一人ひとりの対応が良くなることは、まずありません。

 もちろん瞬間的に良くなることはあるのですが、研修を終えて元の職場に戻ったとき、学んだことを実践しても認められず、あっという間に元に戻ってしまいます。

 私どもも依頼を受けて研修を実施することが多いのですが、2時間程度の接遇研修だけで成果を求めたり、成果が出ずに「接遇研修には意味がない」と評価するのはあまりに短絡的だと常々考えています。

 半年後、病院からの依頼により再度覆面調査を行いましたが、結果はほとんど変わりませんでした。そこで、委託業者の変更の可能性を含め、改めて病院側に改善に向けた提案をしましたが、様々なしがらみがあって委託業者の変更は難しいとのこと。そこで弊社として、生き残りをかけて本気で取り組むことを病院側、委託業者側に強くお願いし、抜本的な改革に向けた取り組みがようやく始まりました。

 前述のように、接遇が悪い場合、組織風土の問題が背景にあることが多いのですが、短期間で組織風土を変えることは到底できません。本気で改革に臨んだ組織だけが、成果を手に入れることができるのです。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐業務委託のメリット、デメリットを理解しているか
☐小さな態度が相手の印象に大きな影響を与えることに気付いているか
☐研修をするだけで満足していないか

 

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