2020.11.30
覆面調査ルポ 院長が重用する女性事務長、改革進める二代目を無視
Case4 20年以上“君臨”、周囲のスタッフは何も言えず
今回は内科、整形外科などを標榜するクリニックからの報告です。
依頼は副院長からでした。院長は副院長のお父様ですが、高齢のため1年後には院長を退くことになっており、副院長に権限を徐々に委譲しています。これまでのクリニックは古くからある町の医院という感じでしたが、副院長は新たに「ホスピタリティー医療」を理念として掲げ、クリニックの改革を進めてきました。
看護師の改革は師長に恵まれたこともあり、スムーズに進みました。しかしながら、長年勤めている事務長(60代女性)が、全く協力してくれません。受付や会計を担当する事務職員の仕事ぶりが機械的で、対応に温かみが感じられないのに、変えようとしないというのです。副院長は事務長や事務職員の意識を変えるため、外部から問題点を指摘してほしいということで、弊社の「サロン・ド・クリニック」(覆面調査)のサービスを依頼されました。
早速、覆面調査に伺いました。
受付職員の派手な化粧が際立つ異様さ
覆面調査員のA子がクリニックを訪れてまず驚いたのが、60歳前後と見える事務スタッフの風貌です。厚塗りの化粧と真っ赤な口紅、それに表情のなさが目立つ、やや異様な雰囲気にたじろぎました。もちろん、挨拶も笑顔もありません。
A子の受付を担当したのは、20歳代と思われる若いスタッフです。手続きを済ませると「あちらでお待ちください」と椅子のある方向を指差しました。しかし、空いている椅子は1つもありませんでした。
ここまでが受付での対応です。改善ポイントが2つあります。
まずは身だしなみです。身だしなみの3原則は、「清潔、調和、機能的」です。年配の事務スタッフの化粧は、クリニックとしては不適切な派手な化粧といえます。派手な化粧は清潔感に欠け、医療施設との調和に欠けます。大人の女性のノーメイクも適切ではありませんが、健康的なナチュラルメイクが望ましいのです。
次に、20歳代スタッフの対応です。「あちらでお待ちください」と言っているだけで、アイコンタクトを全く取らず、「あちら」の席も目視で確認していません。ただ言っているだけで案内にはなっていません。患者に場所を案内するときは、視線は、「相手→物(または方向)→相手」の順に向け、相手の表情から理解度を確認することが重要です。
今回の診療所のスコア
100点中50点でした。
バックヤードとの連携がスムーズでない会計
会計の際は、一気に5人ほどの患者が呼ばれました。ですので、会計の順番が来るまで立ったまま並んで待たなければなりません。足の不自由な患者さんはこちらが見ていて、とてもお気の毒でした。
会計窓口の横にある電話が鳴っていましたが、スタッフは会計に追われて出られません。「誰か出てください!」と事務室の方を見て叫んでいましたが、誰も来ることはなく、しばらく電話は鳴り続けていました。
会計カウンターの奥に目を移すと、事務室へと続く扉が常に開いている状態で、雑然とした中の様子が丸見えでした。事務室のスタッフは受付の様子が把握できているにもかかわらず、立ったまま待たされている患者の様子を気に掛けることもなく、黙々と仕事をしていました。
こうした会計の対応についても、多くの問題点があります。会計が混み合う時間は限られているようなので、混雑する時間帯は事務室のスタッフとの協力が必要です。どうしても両者で協力できないのであれば、患者からは事務室の中が見えない方が、苛立ちが大きくならないでしょう。
スタッフ同士のコミュニケーションがうまくいっていない様子を見ると、患者は不安になります。誰かを呼ぶときは「誰か来てください」ではなく名前を呼んでから声を掛ける、呼ばれたらそちらを見て「はい」と返事をする。当たり前のことですが、これらを徹底するだけで、職場の雰囲気は随分良くなることでしょう。
「事務長と院長は特別な関係らしい」と口々に語るスタッフ
今回の調査の結果を踏まえ、スタッフへのヒアリングを行いました。すると驚くべき報告がありました。
真っ赤な口紅の年配の女性は勤続20年以上のベテラン事務長で、院長に重用されており、スタッフが口々に「実は院長と特別な関係らしい」というのです。そのため、誰も事務長には逆らうことができない状況になっていました。
ですので、常に事務長の顔色をうかがうことが最優先で、患者のことを考えて行動することができません。患者に丁寧な説明をしようとすると「何、ノロノロやってるの? さっさとやりなさい」、事務室のドアを閉めようとすると「開け閉めが面倒だから開けておきなさい」という調子で、常に事務長は高圧的な態度でスタッフに命令をするのです。会計の際に5人の患者を一度に呼ぶやり方も事務長の意向で変えられないようでした。
スタッフは院長にも副院長にも相談することができず困り果てていました。
副院長の依頼で院長に状況を説明
覆面調査とヒアリングの結果を受け、副院長に改善ポイントをお伝えしました。「特別な関係」の噂については、副院長が院長のご子息でもあるのでそのままお伝えすることはできなかったのですが、事務長の高圧的な態度と言動がスタッフに悪影響を及ぼしていること、患者にもそうした人間関係の悪さが伝わってしまっていることを報告しました。
すると副院長は、「やはりそうだったのか。気付いてはいたが、事務長は勤続20年のベテランなので厳しく注意するのを躊躇していた」と語り、自分からは伝えづらいので、今回の覆面調査の結果を院長に直接報告してほしいと依頼されました。
私どもは覆面調査とヒアリングの結果を率直に院長に報告し、院長は神妙に聞き入ってくださいました。その後、静かに「分かりました」と院長が一言おっしゃって報告は終了しました。正直、拍子抜けしました。
それからほどなくして、院長のご勇退とともに事務長もクリニックを去ることが決定しました。後任の事務長が副院長の紹介で入職し、新たな体制が動き出しています。「特別な関係」の真偽は分かりませんが、院長は今回の報告を受け、「負の遺産」を残したくないと考えたのかもしれません。
現在クリニックは、副院長と新任事務長の指導の下、「ホスピタリティー医療」として、思いやりの気持ちを伝え合う温かい医療機関として生まれ変わっています。
〔今回のチェックポイント〕
☐患者に安心感を与える身だしなみを全スタッフが意識しているか
☐案内の際のアイコンタクトは適切か
☐著しく高圧的な態度、言動の役職者はいないか
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