改善事例

2020.11.23

覆面調査ルポ 「三度の飯より手術が好き」な院長がはまった落とし穴

Case3 冷たく素っ気ない対応の原因とは

 今回は手術を実施し、入院施設もある外科クリニックでの報告です。

 依頼は事務長からでした。患者さんからよく「この医院の対応は冷たい」「職員に話しかけづらい」と言われている。一人ひとりのスタッフは明るい性格にもかかわらず、なぜ患者さんからそのような指摘があるのか、原因を知りたいとのことでした。

 早速、サロンドクリニック(覆面調査)を行いました。

 覆面調査員のA子が診療所を訪れてまず驚いたのが、「挨拶のなさ」です。自動ドアを入り、受付窓口に立っていても受付スタッフはずっと作業をしています。「あの~」と言って保険証を出すと、ハッと驚いたように見上げ、「はい」と言って保険証を受け取りました。

 その後も慌てて次の作業に取り掛かっていて、何のコミュニケーションもありません。マスクをしているので、表情が分からず冷たい印象でした。ひたすら「忙しいオーラ」を発して、話しかけてほしくないことをアピールしているように感じます。笑顔も、アイコンタクトも全くありませんでした。

 診察室に呼ばれて中に入ったものの、医師がいません。医師が現れるまでの待ち時間もかなり長いものでした。あまりに長いので、診察室の中に入ったのはスタッフのミスだったのかと感じたほどです。診察室では、先生も、とても急いでいらっしゃる感じがしました。説明は簡潔で分かりやすかったものの、ゆっくり話を聞いてもらえるような雰囲気ではありませんでした。

 テーピングの処置をしてもらう際は、事務スタッフが「テーピングをお願いします」と看護師に2度声を掛けましたが、2度とも返事はありませんでした。その後、無言で看護師はテーピングを始めました。

 建物の廊下を歩いているときは、受付の方と目が合いましたが、そのまま目をそらされてしまいました。またX線検査の前に、スタッフの方が更衣室に案内してくださったのですが、A子が更衣室に入るやいなや、シャーッと勢いよく閉められ、乱暴な印象でした。

 このように、スタッフ全員が時間に追われていて、患者に対応する心の余裕は全くないことが、ストレートに伝わってくる状況でした。管理者サイドとしては、接遇を向上させたくても、なかなか進んでいかないという不満がたまっていましたが、スタッフに言わせれば、「だって忙しいから無理」。患者接遇が良くならないのは当然です。

 

今回の診療所のスコア

100点中42点でした。

 


手術件数で評価、点数につながらないことは「無駄」

 

 この結果を受けて、様々な階層に向けてヒアリングを実施しました。そこで浮かび上がってきたのは、組織の風土や体質にかかわる問題でした。

 このクリニックは、収益面の理由の他、「三度の飯より手術が好き」というドクターが院長を務めていることもあり、手術件数を増やすことを至上命題として取り組んでいます。結果として、重視される評価項目は手術件数であり、手術点数につながることは奨励するが、それ以外のことは全て無駄であるという考え方が、組織に浸透しています。

 手術やリハビリの技術は、地域でも定評のある法人なので、働くスタッフのモチベーションはそれなりに高い。反対に受付部門が、最もパフォーマンスの低い部署になってしまっていました。理由を探っていくと、幹部の一部に「女の多い部署は面倒なことが多い」「受付は診療報酬を稼がない部門だから、お金を掛ける必要はない」「女はすぐ辞める」といった発言をする人がいて、法人では女性蔑視的な風土が形成されていたのです。

 ですから受付スタッフにとっては、「どんなに頑張っても認められない」「いつも叱られてばかり」という日々が続くことに。その上、「手術件数を増やせ!」「患者数を増やせ!」という状態であれば、「これ以上スピードアップはできない」「無理…」とスタッフの気持ちが暗くなり、やる気がなくなるのは、当然であると感じました。

 受付スタッフたちは、覆面調査員A子のヒアリングに対し、「毎日の仕事が不安と恐怖で満ちあふれている」と語っていたのです。

 


全職員で挨拶を徹底することから実施

 

 弊社としては、まずは全職種を対象に、挨拶を徹底してもらうようにしました。患者さんにはもちろんですが、職員同士でも職種を超えて、感じの良い挨拶をするように勧めました。

 感じの良い挨拶には、4つのポイントがあります。
(1)笑顔
(2)明るい声
(3)相手の目を見て
(4)自分から

 挨拶にかかる時間は2秒ですが、その効果は絶大であると伝え、上記の4ポイントを意識して実行してもらいました。

 同時に、多職種のチームで共通の目標を持って話し合う場として、『ホスピタリティ委員会』を設置してもらいました。すると、職種間のコミュニケーションが増え、チームワークが少しずつ良くなってきました。

 スタッフの離職は、ほとんどの場合、職場の人間関係への不満──つまりはコミュニケーションの不足が原因です。小さな組織であっても、上司や同僚のことをよく分かっていないということは往々にしてあります。相手がどんな人であるかが理解できれば「不安と恐怖」は軽減されるのです。

 


幹部が期待してかかわればスタッフの能力は向上する

 

 幹部の方には「ピグマリオン効果」についてお伝えしました。

 ピグマリオン効果とは、教育心理学における心理的行動の1つで、教師の期待によって学習者の成績が向上するというものです。1960年代に米国で報告がなされました。つまり、できるようになると期待してかかわれば能力は向上するが、できないと思われればやる気をなくして能力も向上しないのです。

 医療機関の組織においても、組織の管理者が「できるようになる」と期待してかかわり、成果を認めれば、その人の能力は向上します。反対に「女性だからすぐ辞める、やる気がない」とかかわれば、「すぐ辞める」し、「やる気のない」人になってしまうのです。

 院長に話を伺ったところ、「最高のクリニック」を作るために、手術件数を増やしているとのことでした。受付スタッフにも最高の応対をしてほしい、笑顔で働いてほしいと思っていたとのこと。しかし、残念ながら全く違う組織風土になってしまっていたのです。

 覆面調査をきっかけに、クリニックは組織風土の改革を進め、従業員満足度を高めることも重点目標に定めました。従業員満足度アンケートを実施した結果、極端な縦割り組織によるコミュニケーション不足と、研修体系がないことへの不安が満足度を低下させている一つの原因と判明しました。

 そこで、職種を超えて勤続年数別に階層別研修を行いました。階層別にすることで、横のつながりでのコミュニケーションが図れるようにしたのです。若年者には接遇中心、マネジメント層へはコーチングやタイムマネジメントの研修を行いました。

 結果として、スキルアップして自信につながっただけでなく、他職種間でも挨拶が交わされるようになり、助け合いが見られるようになりました。また女性職員に対する偏見も少しずつ改善されました。

 接遇には、その人のその日のモチベーションが如実に表れます。「スタッフが暗い」「対応が悪い」という場合、単に接遇のスキルが足りないのではなく、組織全体の問題が隠れていることもあります。

 トップが思い描いている組織風土が実際に醸成されているかどうかを確認するためのツールとしても、覆面調査はお役に立てていただけると思います。

 

〔今回のチェックポイント〕

☐スタッフ同士の挨拶が明るくできている
☐他部署とコミュニケーションを取る機会を設けている
☐上司は「できるようになる」と信じて部下とかかわっている

 

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