改善事例

2021.07.05

覆面調査ルポ ネット口コミ“低評価の連鎖”に陥った診療所

Case33 悪評が広がってしまった内科診療所

 今回は内科クリニックの事例を紹介します。「インターネットの口コミサイトの書き込みが非常に悪くて。このサイトを見てください」と院長が開いたページを見ると、「院長の腕が悪い」「簡単な診断もできない」「受付の対応がひどい」などなど……。たくさんの低評価口コミであふれていました。もちろん、好意的な書き込みもあるのですが、ほとんどが否定的な内容で私も驚きました。

 院長は「患者さんから見て、うちのクリニックは本当にこれほど非難されるような状況なのですかねぇ」と、評価に対して疑問を感じているようです。そこで第三者の視点から評価をしてほしいと、覆面調査を依頼されました。


細かい内容で気になる点はあるものの…
 
 早速、覆面調査員A子がそのクリニックに向かいました。先代の院長が建てたクリニックのようで、建物はそれほど新しくはありませんでした。

 A子がドアを開けて建物の中に入ると、受付担当の方がたまたま奥に入っており不在だったため、横にいた会計担当の方がA子に気付き、「はい、どうぞ」と声を掛けてくれました。ただ、「はい、どうぞ」ではなく、「こんにちは、こちらにどうぞ」というように、挨拶の言葉や具体的にどうすべきかの案内がある方が、安心できると感じました。

 内装はリフォームされており、古さを感じたり不快な印象はありませんでした。ただし、通気口に埃が溜まっていたり、入口や血圧計付近に飾ってある造花の色があせていたり、掲示物を貼っているテープが剥がれているところがあるなど、細かな点ではやや気になるところがありました。

 初診受付を済ませ、しばらくすると診察室に呼ばれました。院長は、A子が診察室の扉を開けるとすぐに、挨拶ではなく、「お名前は?」とこちらを見ずにカルテと問診票を見ながら尋ねました。A子は院長に対し、少しぶっきらぼうな印象を抱いたようです。最初に「こんにちは。院長の○○です。よろしくお願いします」という挨拶があると印象が良くなるでしょう。

 院長の身だしなみは整っており、清潔感がありました。特に笑顔はありませんでしたが、自然な表情だったので、不安を感じることはなく診察を受けることができました。また、ゆっくりとした口調で状況を上手に聞き出しており、A子は「話しやすく親身になってくれている」と感じましたし、A子が話したことに対して相槌もあり、しっかり聞いてくれているという印象もありました。薬を処方する際も、その特徴や服用回数について分かりやすい説明がありました。

 しかし、しばらくカルテや問診票だけを見ながら会話が進んだので、A子としてはもう少し早い段階で、こちらの様子も見てほしいと思ったようです。さらに、「~なの?」「~しようか」など、フランクすぎる言葉遣いが馴れ馴れしいと感じる方もいるのではないかと感じました。

 診察中、院長は常に机の方を向いていて、数回、こちらを見る程度でしたので、体を少し、患者の方に向けると、患者と向き合う姿勢が感じられます。相槌を打つ場合も、都度、患者とアイコンタクトを取るよう心掛けると、印象は大きく改善することでしょう。

 
今回の診療所のスコア


100点中50点でした。


 A子は、事前に口コミサイトの書き込みを確認していたため、「どれほど個性的な院長なのだろう」と色々と想像を膨らませていたようです。ただ実際に行ってみると、細かい点は気になったものの、院長やスタッフの対応が特筆するほど悪いわけではありませんでした。

 では、どうしてこのクリニックは低評価の口コミが集まってしまったのでしょう。


口コミでマイナス面ばかりが強調される
 
 高齢者であっても普通にパソコンやスマートフォンを持つようになってきたこれからの時代、ますますインターネットでの口コミを基に患者がクリニックを選ぶ時代になるでしょう。一度ネット上に書き込まれた口コミを消すことは、非常に難しいと言われています。例えばGoogle Mapの口コミ記事の場合、記事の削除を依頼するフォームがあります。ただ、内容が明らかに誹謗中傷を含むのであれば削除してくれるのですが、一般的な患者の感想だった場合、それが非常に悪い評価であったとしても、削除してもらえません。

 また一度、ネガティブな書き込みをされてしまうと、それを見た患者にそのマイナスポイントが刷り込まれてしまうという問題もあります。その結果、低評価口コミがエスカレートしていくことがあるのです。

 今回のクリニックの場合、覆面調査の結果、他のところと比べて印象が著しく悪いというわけではありませんでした。ただ、「アイコンタクトがなかった」「ぶっきらぼうでフランク過ぎる」「造花が色あせている」といったちょっとした印象の悪さがあったのも事実です。これくらいのことは多くの診療所で見られるのですが、一度、不快な思いをした患者がこれらについて否定的な口コミを書くと、それを見た他の患者が「確かに不快だ」とわずかな悪印象を増幅させてしまうことがあります。

 きっかけの口コミさえなければここまで低評価が集まることはなかったでしょう。そういう意味では、このクリニックは不幸だったと言えます。ただ、コラムをお読みくださっている皆さんには、こうした時代だからこそ、「患者の印象を悪くするような小さな事象の積み重ねを避ける」ことに、より気を配っていただきたいと思います。

 患者からの印象を改善させるために、このクリニックの院長やスタッフの方々には非言語コミュニケーションの重要性についてお伝えしました。

 人の印象を決める要素は、表情、身だしなみ、立ち居振る舞いといった非言語コミュニケーションの要素が55%、話し方、滑舌といった準言語コミュニケーションが38%、言語コミュニケーションは7%に過ぎないという研究結果があります(Mehrabian,1968)。患者の多くは、街のクリニックの院長が信頼できるかどうかをその院長のこれまでの知識や経験、執筆論文などでは判断していません。受診したときの見た目や話し方で決めている人が多いのです。
 
※研究は、「好意や反感について、言語、準言語、非言語で矛盾した内容を話す」という限られた条件下で、受け手が3つのコミュニケーションチャンネルのうち何を信じるのかを検証したものです(参考記事:言葉遣いは適切でも患者に怖がられる人の特徴)。「人の印象を決める要素」を厳密に見た研究ではないのですが、非言語コミュニケーションの重要性が示されているという点から取り上げました。
 
 今回の院長も、特別に悪い印象はないものの、非言語コミュニケーションの点でまだまだ改善の余地があると感じました。

 非言語コミュニケーションで最も影響力があるといわれているのが笑顔です。医療機関なので大げさな笑顔は不要ですが、相手に安心感を与えるような明るい柔らかい笑顔で挨拶をするだけで、印象は大きく変わります。もちろん、気分のひどく悪い患者に軽薄な笑顔で応対すると、かえって相手の気持ちを損ねることもありますので、一番重要なのは、相手の気持ちに寄り添った表情を「向ける」という意識を持つことだと思います。

 表情を相手に向けることを意識していないと、どうしても無表情になってしまい、相手からは冷たい印象を持たれることが多いです。患者からはいつも見られているという意識を持つだけで、随分、印象は変わるものです。

 またアイコンタクトの効果も大きいです。ArgyleとDeanが1965年に行った研究では、アイコンタクトの機能は5つに大別されます。1つ目は「情報検索機能」。相手の反応(フィードバック)を得るために相手の目を見ることです。2つ目は「チャネル開放シグナル」。自分が相手に対して情報のチャネルを開いていることを知らせる信号を送る機能です。3つ目は、「隠蔽と露出の希望」。相手が自分に注目してほしいか否かという意思を示す機能です。4つ目は、「社会的関係の確立と認識に関する機能」。例えば、相手に自分の方が優位であることを認識させたい場合には、じっと相手を見据えたりします。5つ目は、「相手との親密さのバランスを取る機能」です。例えば2人が対面で向かい合った際、距離が離れると人は本能的にアイコンタクトの回数を増やすことで親密さを保とうとします。逆に距離が近づくと数は減ることからも、アイコンタクトには「親密さ」を伝える働きがあるのです。

 患者の気持ちに寄り添うには、特に1つ目、2つ目、5つ目の機能を活用したいところです。アイコンタクトを取り、相手にこちらの話が伝わっているかを確認したり、自分が相手の話に興味を持って傾聴していることを示したり、温かい信頼関係が築けるように意識するとよいです。

 非言語コミュニケーションを改善することで院長やスタッフの好感度を高めていけば、いずれそれを評価した口コミが投稿されるはずです。こうしたポジティブな書き込みが増えてくれば、それまでの低評価が目立たなくなるでしょう。

 
〔今回のチェックポイント〕
☐患者と応対するときの表情を意識していますか。
☐患者と応対するときの体の向きに気を付けていますか。
☐アイコンタクトの機能を理解し、活用していますか。
 
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